第14話「最初の夜」
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俺は鍵を掛けて灯りを消すと、クロネとともにベッドに入った。
部屋は真っ暗で、木製の窓の隙間から差し込む月の光だけが唯一の灯りだった。
クロネと一緒の布団にいることに背徳感を感じていたが、天井を見ていると次第に落ち着いてきて、今日あったことを思い出すとすっかり平心になった。
異世界生活一日目にして、非常に濃い一日だったと思う。女神に会ったことを抜いても草を刈っただけでレベル5になったり、変な加護手に入れたり、ゴブリンと戦ったり、
前世では信じられないくらいの速さで走ったり、冒険者になったり、文字が書けないことで自尊心を傷つけられたり……
でもそれらのどんな経験よりも一人の幼女と出会ったことが俺の中では大きなウエイトを占めている。
職業がロリコンで相手が幼女だから締まらないが、彼女との出会いは俺にとって重要なものだった。
亜人であるという事実がクロネを自由にさせない。
奴隷という立場がクロネにわがままを言わせない。
俺が彼女くらいの時は、よく憶えてはいないが、かなりわがままだったと思う。
この世界の子供がどうなのかは知らない。代筆で小遣い稼ぎをしたり、母の仕事を手伝った結果失敗して罰を負ったり、前世の同世代と比べてはるかに厳しい環境を生きている。しかしそれでも彼らには自由がある。
しかしクロネはそれが無かった。
俺はクロネに同情し、助けたいと思っている。
俺が今彼女にできることは何か?
限られた場所と時間ではあるが、俺と二人きりの時くらい彼女にわがままを言わせてやりたい。
「クロネ」
「はい」
「命令だ。俺と二人きりの時は言いたいことややりたいことを我慢するな」
俺は今日何度目かの命令でない命令、奴隷紋に働きかけない命令をした。
……
クロネの反応がない。
見ると目を真っ赤にして泣いていた。
「お兄ちゃんはどうしてそんなに優しいんですか?」
「俺は、俺の価値観に沿って行動しているだけだ」
(もっとも、いらぬ騒ぎを起こさぬために周りに合わせることもするけどな)
悪目立ちすると俺の自由すら奪われて、助けられるものも助けられなくなるというのが俺の考えだ。
「奴隷でもわがままを言っていいんですか?」
彼女は聞き返してくる。
「ああ。俺がいいと言ったらいいんだ。それに俺の価値観ではクロネは奴隷じゃない」
「無茶苦茶ですよ、もう」
クロネは、泣きながら喜び、笑って怒った。
◇◇◇
そして今、俺は彼女にわがままを許したことを早くも後悔している。
「ハヤトお兄ちゃんはどうしてそんなに端っこにいるの?」
俺が幼女に近づきすぎないようにしていると、そんな俺に構わず彼女はぐいぐいと寄ってくる。また俺は離れるが、彼女は再び身を寄せる。
そういうことを繰り返していると、俺はベッドの端っこに追いやられ、もう逃げ場がない状況になっていた。
「やっぱり……私と一緒はいやですか?」
「嫌じゃないけど……くっつく必要はないんじゃないか?」
クロエは体をくっつけてくるので、彼女の体温が伝わってくる。
やましいことをしている気分になって、落ち着けない。
「……その、ハヤトお兄ちゃんと触れ合っているととっても安心できるんです」
「それは……」
(そんなこと言われたら突き放せなくなるじゃないか)
「手を握るだけじゃダメか?」
彼女は暫し逡巡した後、
「ダメです」
と言った。
そして彼女は俺に抱きついてきた。
「お、おい、さっきより近いじゃないか」
動揺が隠しきれていない。
このままでは俺がどうにかしてしまいそうだ。
俺は賭けに出た。
抱きついているクロネを抱き返した。
そしてその背中を撫でてやる。
「あ……」
これで少しでも落ち着いてくれればいい。
それは予想以上に効果的で、クロネはすぐに眠ってしまった。
(生まれた時から奴隷だったそうだし、ベッドで寝るのは初めてかもしれない)
(明日からは彼女のためにお金を稼がないといけないな)
(明日は朝一でギルドに行ってみよう)
(さっさとランクを上げて稼げるようにならないとな)
明日のことを考えているうちに、ハヤトの意識は落ちていった。
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