第147話「フィマフジスク到着」
——道中——
ククラ「せーの」
ハヤト,クロネ,ククラ「「「フィたうマいさフよぎジうさスんク!!!」」」
ミズク「ハヤトにぃが『フィマフジスク』、クロネが『たいよう』、ククラが『うさぎさん』って言ったの」
ハヤト「正解だ」
ククラ「すごーい!」
クロネ「すごいです!」
ミズク「ぶい、なの」
ククラ「じゃあ次行くよー! せーの」
ハヤト,クロネ,ククラ「「「ミシすズいリクンしかょグうわリだいンいまグ!!!」」」
ミズク「……クロネが『水晶玉』で、ククラが『シリングリング』なの」
クロネ「正解です」
ククラ「あってるけど……マスターのは?」
ミズク「う、うまく聞き取れなかったの……///」
ハヤト(照れたな)
楽過ぎる旅を三泊四日で続け、四日目の夕方にフィマフジスクに着いた。
他の街のような城壁は無く、唐突に街がはじまっている。
日本には城壁で囲まれた都市がなかったため俺としてはあまり違和感は無いのだが、クロネは首を傾げていた。
入り口からくねくねと石畳が伸びていて遠くには横一列にモミのような木が所狭しと並んでいるのが見える。
そしてさらにその向こうには巨大な時計台が見えた。
イギリスのクロックタワーによく似ている。あれ、今ではたしかエリザベスタワーと呼ぶんだったか。
ただ、一つだけ似ていないのがその文字盤だ。
普通、時計と言えば、大きく十二個の目盛りがついている様を思い浮かべるだろう。
しかしこの世界の時計には〇〜四の五つしか目盛りが無い。
短針は一日かけて一周し、長針は一日に五周する。
それによって二十五時間を表しているのだ。
短針長針ともに真上の「〇」を指すのが〇時。
短針が「二」と「三」の間にあり、長針が「四」を指すのが日没する十四時という具合だ。
何度か街の広場などで目にしているが、俺は未だにイロエリスの時計を読み慣れていない。
《しすてむめっせーじ》に尋ねれば正確な時間を教えてくれるから、あまり使ってこなかった。
しかし、今後学園で生活するようになりクロネたちに時計の読み方を教えるなら、先ず俺がちゃんと読めるようになっておかないと示しがつかない。
ハヤトはできるだけ時計を読むようにしようと心に決めた。
街に入った後しばらく冒険者ギルドを探していたが、いつもならすぐに見つかるはずの建物が見つからない。
仕方なく近くを歩いていた人を捕まえ、道を尋ねる。
それによると学校の塀に沿って東側に行けば見つかるらしい。
木が並んでいるところに向かうと、なるほど確かに塀があった。
白っぽいレンガで作られた塀を視界の左に捉えながらしばらく進むと目当ての建物を見つけた。
珍しいことに複数ある商業ギルドや各種の職人ギルドもすぐ近くに位置している。
不思議に思いつつも冒険者ギルドに入り、道中仕留めた魔物の素材を売り、宿をいくつか紹介してもらう。
十五分ほど歩いて宿にたどり着く。
「いらっしゃい。何名だい?」
「四人だ。二部屋頼む。一人部屋が一つと三人部屋が一つで頼めるか?」
「あいにく二人までが最高なんだ。三部屋頼むかい?」
「お兄ちゃん、私はお兄ちゃんと一緒がいいのですっ」
「ククラもー!」
「そ、それならミズクもなの……」
「ははは、お兄さん人気者だねぇ、妹さんかい?」
「まあ、そんなところだ」
「ククラはお兄ちゃんのドールだよー」
「え? あ、そうみたいだね……」
ククラが偶人だと分かると女将さんは少し怯えるような嫌がるような表情になった。
偶人は、魔力の味が気に入った人を無理矢理に自分の仕える人にし、人となりが気に入らなければ魔力を吸い尽くす。
世界の三割くらいの人がそのような偏見を抱いている。
そのわけは、この世界で有名な童話にそのような偶人が出てくるからだ。
史実らしいが、その事件を起こした偶人がそうであっただけで、すべての偶人がそうするとは限らない。
「あんたも大変だね、操者なんかになっちまうなんて……」
操者なんか、か……。
その物言いはムカつくな。
今までもククラが偶人と知り驚いた人は何人もいたが、顔を顰めるほど偏見を持った人は初めてだ。
子供は他人の感情に敏感だ。嫌悪に近い感情を抱かれていることに気づいたククラは寂しそうに俯いた。
俺はその頭を撫で、女将に反論する。
「俺はこの子の操者になれてよかったと思ってるぞ。この子は人のことを考えられるいい子なんだ。偶人、と一括りにするのは止めてくれないか」
「え? あ、ああ」
俺が偶人を擁護するとは思ってなかったのだろう、女将は意外そうな顔になる。
ククラの方は俺にぴたっとくっついてきた。
天真爛漫だが臆病なククラは、他人の殺気はもちろん嫌な感情を向けられるだけでも萎縮してしまう。
彼女を安心させるため、少ししゃがんで抱き上げる。
「あんた、偶人に会うのは初めてか?」
「ああ、そうだよ」
「それならこれからは認識を改めるんだな。偏見に捕らわれていて、得られるものは何もないぞ」
それだけ言うとその宿を出て、別の宿で二人部屋を一部屋借りた。
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