第146話「障壁魔法」
——深夜——
ククラ「んぅ……ますたぁ……」
ミズク(ぴくり、今物音がしたの。魔物なの?)
ククラ「ますたぁ、まりょくちょうだーい……」
ミズク(ほっ、ククラの寝言なの)
ククラ「もう吸いきれないよぉ〜……」
ミズク「食べきれないじゃなくて吸いきれない……ククラらしいの……」
目を開けると見覚えのある白い部屋にいた。
一緒に寝ていたはずのクロネたちはいない。
「お久しぶりです、隼人さん」
不意に声をかけられ、視界の中にいた女神の存在に初めて気づく。
「あれ、まさか俺死んだの?」
以前この空間に来た時のことを思い出してそう尋ねた。
クロネたちは大丈夫だろうか……
「いいえ、隼人さんはまだ生きていますよ。伝えたいことがあったので意識だけをこの空間に連れて来たんです」
「おお、リアル『神のお告げ』というわけか。」
でも、それってズル否認神らしくないような。
「お告げというよりは祝勝ですね。新たな魔法の創造に対する」
「魔法の創造?」
何だろう覚えがない。
「ええ、あなたは今までこの世界になかった障壁魔法という魔法を創造しました」
え、なんか俺すごい⁉︎
でも、俺自身、障壁魔法が何なのかいまいち理解できていないんだが。
「障壁魔法と言っても、今まであなたが結界魔法として行っていたことと、ほとんど変わりませんけどね」
え、そうなの?
「はい、ただ結界魔法としての体系から少しずれた魔法なので、新しく障壁魔法という分類を作ったんです」
ん? 言ってることは分かったが、なぜ分類を新たに作ったのかがわからない。
結界魔法のスキルがあれば障壁を作れるなら不要なんじゃないか?
「それは違います。あなたはスキルが何のために存在しているか知っていますか?」
「え? そんなのそのスキルを使えるようになるためだろ?」
「違います。スキルは言ってみれば堰なんです」
どういうことだ?
「あなたは、一生懸命練習して何かができるようになった、という経験がありますか?」
ああ、あるな。高校の時、数学の難し〜い問題とか一生懸命勉強してできるようになった。
まあ、今はもう無理だろうが。
「一生懸命努力して身につけたのにも関わらず時間が経てばまた出来なくなってしまう……。スキルは、身につけたものが流れていかないように、しっかり堰き止めておくためのものなんです」
へぇ、そうだったのか。
俺は昔、努力っていうのは下りエスカレーターを上るようなものという例えを聞いたことがある。
上った分だけ上に行けるわけでもないのに、上るのを止めてしまうとどんどん下に戻されていく。努力もそれと同じだと。
その話を聞いたときは確かにと納得する反面、現実の理不尽さに憤りを覚えたが、スキルがあれば戻されることがなくなるというのはものすごくありがたい。
「あなたは結界魔法で障壁を作っていましたが、それは結界を作る過程と少し重なるところのある全くの別物でした。水源が一緒の別の川とでも言えばいいでしょうか、隼人さんが障壁を作るために磨いた技術は、結界魔法という堰のある方には流れて行かないんです」
へぇ、俺は無意識のうちに新しい魔法を作っていたのか。
「でも障壁が使えるようになったのは二ヶ月以上も前だぞ? ……もしかして神にとって二ヶ月なんて一瞬というあれか?」
「いえ、そんなことはないですよ。ただ世界中の人を見ているので色々と時間がかかったんです。それに新しいスキルを作るのも久しぶりでしたから手間取ってしまって……」
そう言ってフレイは自虐気味に笑った。
「神様でも物忘れはあるんだな」
「物忘れとは違いますが……まあ、そんなところですね。私もそういうスキルが欲しいですよ」
神様も神様で不便なことがあるようだ。
「そういえば、隼人さんの職業、ロリコンのことですが」
「な、なんだ?」
突然ロリコンを指摘され、背筋が伸びる。
「かなり悪質なバグですね」
「あ、悪質……」
俺、悪いロリコンじゃないのに!
「スキルを強引に習得したり、めちゃくちゃな加護を会得したり」
あ、そっちか。
「もしかしてスキルの没収とか……?」
「いえ、そんなことはしません。バグも隼人さんの実力のうちですから」
バグも実力のうちって、なんか嫌だな。
「そもそもバグが発生したのは私の不手際かもしれないですし」
「どういうことだ?」
「隼人さんがイロエリスの共通語を使えるようにした時に、実は日本語の知識を抜いて共通語の知識を植え付けたの」
まじか、なんか移植手術されてるみたいで怖いな。
「その時に対応する共通語が無かった日本語が中途半端なことになっちゃってね。そのあたりがバグの原因かもしれないの」
なるほど。たしかにロリコンという言葉はこの世界に無いようだった。〈しばかりき〉なんかは文明レベル的にこの世界に無いだろうしな。
ともあれ、スキルが無くなるなんてことにならなくてよかった。どの魔法もすでに生活に欠かせないものとなっていて、比較的新しい幻装魔法も、クロネたちにちゃんとした生活を送ってもらうためには必要なスキルだ。
「あ、幼——女の子になってしまう加護があるんだが、あれは大丈夫なのか?」
「大丈夫とは?」
「いや、変身っていうのがそもそもおかしいし、倫理的な問題とかいろいろ……」
「変身自体はそもそも魔法でほとんど同じものがあります。例えば他人をカエルに変えたりとか」
え⁉︎ クロネたちが物語で読んだという話を聞いたがあれって実際にある魔法なのか。
「倫理的観点からしてもそちらの方が圧倒的に卑劣ですね。女体化などは全然ましです」
「え、そうなのか?」
「ええ、女が女を覗いたとしても覗かれた側はそれほど気にしないでしょう?」
「いや、問題はそれをいいことにそういうことをすることだと思うんだが……」
「もちろんそれは良くないことです。しかし隼人さんだけにどうこうすることもできないんですよ。世界にはたくさんの人がいますから」
フレイは遠い目をする。
女性の神様だからなんとかしたいのだろうが、それよりも優先してするべきことがあるんだろうな。
何かと忙しい神様はその後すぐに別れを告げハヤトの前から姿を消す。
気がつくと障壁のベッドの上に戻っていた。
俺は周りにいるクロネたちの存在に安堵する。
《しすてむめっせーじ》に時間を聞くと起き出すにはちょうどいい時間だったので、周りで寝ているクロネたちを起こさないようにベッドから抜け、朝食の準備をし始めた。
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