第143話「ぬいぐるみ」
後日。魔法道具店にも聖水を売りに行き、さらに所持金が増えたハヤトは、クロネたちに何か買ってやろうと商店の並んだ通りを歩いていた。
「お兄ちゃん、また服を買うのですか?」
「うーん、そのつもりだけど要らないか?」
「ちょっと多すぎると思います」
むう、確かに旅の身で一人十着(ハヤト除く)は多いのかもしれない。
「じゃあアクセサリーにしようか」
クロネに魔除けのビーズを譲った際、ククラがアクセサリーを欲しがり、買ってやったことがある。
ワインレッドのシュシュはククラにすごく喜ばれ、今日もそれで金髪を後ろに束ねている。
ま、お願いされて俺が束ねたのだが。
しかしアクセサリーと言ってもあまり買ってやるべきものが見つからない。
ククラは髪が長く、必要だったから髪留めを買ってやったところもあるが、クロネとミズクはそれほど長くないから特に必要はない。
まあ、それでかわいい女の子にオシャレをさせない理由にはならないが、
「ククラはもうもらったからいいのー♪」
「特にいらないの」
「お兄ちゃんが自分のために使ってください」
クロネたちが無欲すぎる。
いらないものをあげても仕方ないが、俺はいつもとは違う可愛さを持つ彼女たちを見たいのだ!
そんな時、ふととある服屋の窓の向こうにうさぎのぬいぐるみが見え、ふと立ち止まった。
ぬいぐるみを持たせてみるのもイイ!
しかし、すぐに必要ないと言われそうだと思い直す。
クロネたちは、人形遊びとかはしないだろうからな……
ん? 人形?
俺は、ぬいぐるみを買ういい口実を思いついた。
「よしみんな。ぬいぐるみを買おう」
「「「ぬいぐるみ?」」」
「ほら、そこのガラスの向こうにうさぎさんがいるだろ?」
店の窓を指すと、クロネたちは食い入るように見入った。
「「「かわいい(の)(です)……!!!」」」
「うさぎさんだぁ……」
「ハ、ハヤトにぃお金がもったいないの」
「そ、そうです! 必要ないのですよ!」
あれ、意外と喰い付いてるな。
ミズクとクロネはとっさにぬいぐるみから目を背けていらないと言っているが、色々と分かりやすい。
そうか、クロネたちの年齢だとオシャレよりもぬいぐるみとかの方がいいのか。
だが、わがままの言えないクロネたちは素直に欲しいと言えないのだ。
布製品が高いのはこの世界では常識で、ただでさえ遠慮されるというのに、あろうことか値札がこちらに向いているのだ。
そこに書かれた金額は8000エソ。服が五着は買える値段だ。
普通の子供でも遠慮しそうな額だ。
しかし俺にはクロネたちを納得させるいい口実がある。
「最近ククラの傀儡操作を全然使ってないだろう? ククラの練習台も欲しいし、動くぬいぐるみってのを見てみたいんだ」
「動く……」
「ぬいぐるみなの……」
うん、二人ともわくわくした顔になってきたな。
「ククラも欲しいよな?」
「うん……でも高いし……」
「それなら問題はない。服を買いにきた時にはいつもあれくらい使ってたからな」
買うと言ったら買うんだ、と少し強引に話を締め、クロネたちが再び遠慮の言葉を口にする前にさっさとぬいぐるみを買ってしまう。
「うわ〜い、うさぎさんだ〜♡」
身の丈ほどのうさぎのぬいぐるみを抱いて歩くククラは上機嫌で、非常に可愛らしい。
クロネとミズクもぬいぐるみに釘付けだった。
往来の人の目も、楽しそうなククラと目立つぬいぐるみに向けられ、微笑ましそうな目で見ている。なかにはさすが金持ちと驚く人もいた。
宿に戻るとすぐにリティアの所に行き、買ったぬいぐるみを見せびらかしに行く。
「うわぁ、かわいい! いいなぁ」
「ねぇ、私にも見せてよ! 見せ——って近い近い近い!」
ククラがアルトの絵に近づけすぎて、アルトの悲鳴が聞こえたりもしたが、二人もぬいぐるみは好きなようだった。
「それじゃあククラ、操ってみてくれるか?」
「はーい!」
返事が早いか、うさぎのぬいぐるみがククラの腕から放り投げられた。
ぬいぐるみは空中で一回転すると体操選手がそうするようにYの字になって着地した。
「「え⁉︎」」
リティアとアルトが目を丸くしている。
「人形が動いた?」
「傀儡操作を持ってるの⁉︎」
どうやら、二人の驚きは同じではなかったようだ。
俺はアルトに傀儡操作のことを説明してやる。
「ククラは傀儡操作っていう、人形を操るスキルを持っているんだ」
「へぇー、偶人らしいのね」
「ドールでも持っている人は少ないらしいがな」
『人魔大全』のドールの項目に書かれていないことからそう予想できる。
魔法学園に行ったら本もたくさんあるだろうし、そこで色々スキルのことを調べてみたいな。
それからみんなで外に出てぬいぐるみを動かす。
クロネとミズクも、ぬいぐるみに飛びついたりしながら遊んでいてとてもかわいい。
ククラは操ることに集中しているが移動することはできるようで、動くぬいぐるみから離れないよう歩き回っていた。
「ククラ、どれくらいまで離れられるんだ?」
「試してみるー!」
そういうとククラは立ち止まり、ぬいぐるみがククラとは反対側に歩き始めた。
ぬいぐるみは、ククラから離れるに従って動きがぎこちなくなっていったが五十メートルほど離れても操ることができないわけではなかった。
「どれだけ離れていても操れるみたいだな」
「そうみたいだね〜。でも人形が見えなかったら上手く操れなくなるよ。それに操るには一度見なきゃダメみたい」
「へぇ、視界が重要なのか。そうだ、俺は操れるのか?」
「ううん、生き物は無理だよ〜」
まあ、当たり前だよな。
そんなことができるなら魔物を操って無力化させることだってできたはずなのだから。
その後、カカリとの夕食のため一時的に街に戻ったが、用事が済むとすぐにツリーハウスに戻ってきてみんなで就寝した。
カカリとの夕食? うん、クロネたちが可愛かったよ? それ以外特筆すべき点は無かった。
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