第140話「パズルなのじゃ!」
お久しぶりです。エタってないですと言う代わりの投稿です。お待たせしてすみません!
もともと王城に呼ばれる展開を忘れたまま続きを書いてしまっていたので、138話〜140話でとりあえずそこの部分を差し込んだという形になります。
六章が終わるまでは急ピッチで投稿していこうと思っています!
「さあ、『あーん』なのじゃ」
俺の膝に横向きに座ったリンシスは、左手を受け皿にして崩れた生地が落ちないように気をつけながら、パイの刺さったフォークを差し出してきた。
「あ、あーん……」
「美味しいかの?」
「ああ、美味いぞ」
「ふふんっ」
彼女は得意げな笑みを浮かべた。
たとえ自分が作ったお菓子でなくても、好意が受け入れられるとやはり嬉しいのだろう。
気を良くしたリンシスは身体を俺の方に傾け、少しだけ体重を預けてきた。
リンシスは十歳ということもあって座高もそこそこ高く、ちょうど俺の鼻先に彼女の頭のてっぺんがくる。
そんな状態で寄りかかってくるものだから、リンシスの髪からいい匂いがして少しドキドキさせられてしまう。
ロリコンとしては歓喜すべき状況なのだが、そうも言っていられない理由が一つあった。
「……お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんなのです……」
「いきなりひっつきすぎなの……」
「むぅ~」
そう、クロネたちが拗ねているのだ。
特筆すべきは、クロネはかわいらしくほおを膨らませており、ミズクはさりげなく口を尖らせているところだ。
奴隷生活のせいで隠すようになっていた本音を見せてくれるようになったことを喜んでやりたいのだが、王様を前にしてその愛娘を優先させないわけにはいかない。
それなりに状況に従っておかないと、かえって自由な行動がしにくくなる。クロネたちがまだ奴隷の首輪をつけていた時、人前では奴隷として扱っていたのも、その考えあってのことだ。
また、地べたで食事をさせないといけないなどというような、本気で許容できない扱いは、そもそも外食をしないことで避けていた。
兎にも角にも、今はリンシスを一番に立ててやらないといけないから直接的に慰めることはできない。
代わりに、早めに次の予定に進ませよう。
「リンシス、そろそろパズルをしないか?」
「そうじゃの。じゃあ中庭に行くのじゃ!」
リンシスはお尻を滑らせるようにして膝から降りた。
「早くなのじゃっ!」
気持ちが先走るリンシスは、俺の手を引いて椅子から立ち上がらせると、そのまま部屋の外へと引っ張る。
クロネたちは慌てて後を追いかけてきた。
◇◇◇
中庭はテニスコートが二つは取れるくらいの広さがあり、石畳の小径以外は全てがよく整えられた芝生に覆われていた。いくつかの木と花壇で囲まれた円形の空間の中心にパラソルが備わったテーブルが置かれているのを見るに、貴婦人がお茶をするときに使う場所なのだろう。
そこに向かうのだろうかと思っていると、リンシスはそれとは離れた場所に生えている木の方に向かった。
引かれるままについて行くと、その木の木陰には金属と木でできた長椅子が置かれていた。
彼女は少し駆け足になって長椅子に近寄ると意気揚々と長椅子に腰を下ろした。そして自分の右隣をタンタンと叩いた。
「ハヤトはここに座るのじゃっ!」
仰せのままにと隣に腰掛けると、すぐさま左腕を抱き竦めるようにしてきた。
「……やっと止まったの……」
「置いていかないでほしいのです……」
遅れて着いたクロネとミズクは不満の色を含んだ目で俺とリンシスを見遣った。
ククラはといえば、二人が立ち止まっているその隙を突いて、空いた俺の左隣にひょいと座った。
「「ああ! しまったの(です)!」」
「にゅふふ……」
不敵に満足げな笑顔を浮かべてみせるククラ。
クロネとミズクは肩をがくりと落とした。
今すぐにでも宥めたいところだが、
「ハヤト、はやくパズル教えるのじゃぁ」
そう言って甘えられてしまえば抗うことは難しかった。
今回教えるのは、リティアとともに「ニアカラー」と名付けたパズルだ。前世ではABCプレースと呼ばれていたものだが、リティアのパズルの仕様に合わせて呼び名を分かりやすく改めた。
ルールは「6×6の格子の各列に3種の水晶が一つずつ存在するように入れる」だけ。
盤の外側にその列で一番近くに存在する水晶の色が示されているので、それを手がかりに配置を決めていくのだ。
一見ビルディングパズルに似ているが、解く感覚は意外と違って面白い。
布のパズルを見せながら口頭で説明すると、リンシスはすぐにルールを理解した。そしてそのまま布のパズルをやらせようとすると……
「ハヤト、妾は水魔法のやつでやりたいのじゃ!」
「わかった。じゃあ、せっかくだから好きな色を選んでくれ」
「じゃあ、黄色と水色とピンクなのじゃ」
リンシスが選んだ絵の具を、作り出した水球に溶かし、色水を作った。
そして色水と無色の水で、布に描かれたパズルを空中に再現した。
「こんなに細かい操作ができるなんて、やっぱりハヤトはすごいのじゃ」
そう言ってキラキラした目で見上げてくるが、努力して手に入れた力では無いため、尊敬の目がかえって痛い。
リンシスがパズルを解き始めると、クロネたちも一緒になって考え始めた。
「あ、あそこ行けるの。上から三つ目の行」
「右から二番目なのです? わたしも思ってたのです」
「一番右の列もいけるとこあるよ~?」
「お前たちうるさいのじゃ!!」
とまあそんな具合で遊びはじめたが、中盤のなかなか手が進まない場面まで来ると、4人で話し合ったりしているところも見られた。
夕方になり従者が呼びに来ると、リンシスは少し名残惜しそうにしていたものの、じゅうぶん遊んで満足できたのか笑顔で見送ってくれた。
「また来てなのじゃー!」
「リンりんバイバーイ!」
「ありがとなのですー!」
「またね、なの」
一時はどうなることかと思ったが、クロネたちも楽しめていたようで良かった。ククラなんてあだ名を付けてたからな。意外にもリンシスはそれを喜んで受け入れていたし……
身分の低い相手とも仲良くできる幼女が王女なのだ。この国は将来安泰であろう。
俺たちは上機嫌で家に戻った。
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