第139話「王女なのじゃ!」
書きかけの140話、間違って消してしまった……
王様に連れてこられた場所は、大きな丸いテーブルが置かれたダイニングだった。
テーブルの傍にはキングリーの奥さんらしき女性と、娘らしき女の子が座っており、こちらに気づいて立ち上がった。
「貴方様、その方々が?」
「ああ、ダンジョン・パズルの踏破者のハヤトとそのパーティーメンバーじゃ」
「初めまして、ご紹介にあったハヤトです。黒髪の子がクロネ、亜麻色の髪の子がミズク、金髪の子がククラだ」
「「は、はじめまして(なの)!」」
「ククラだよ〜」
緊張しているだろうと俺の口から紹介させてもらったが、案の定クロネとミズクは背筋を伸ばしていた。そしてククラは安定のマイペースだ。
そういえば王に自己紹介をした時は、畏まった口調を改められたどさくさで三人を紹介できていなかったな。まあ、今紹介できたからそれでいいだろう。
「初めまして、キングリー様の妃のクインです。あなた方の活躍は伺っています。キングリー様からも言われていると思うけれど、今はそう畏まらずともいいですよ」
そう言ってクインは人を安心させるような笑みを浮かべた。どうやら夫のことは様付けで呼んでいるようだ。
そして待望の幼女がその口を開く……!
「り、リンシスなのじゃ! はわぁ〜、噂のハヤトに会えて嬉しいのじゃ!」
ま、まさかののじゃロリだと⁉︎
驚いているとリンシスが若干頰を染めながら嬉しそうな笑みを浮かべ右手を差し出してきた。すぐに握手だと気付き、柔らかくすべすべした手を握ると、すかさず左手が添えられてぶんぶんと上下に振られた。
あれ? 初対面のはずなのになんでこんなに懐かれてるの?
「この子ったら、キングリー様の口調を真似しているの。それと吟遊詩人に聞いてからハヤトに会いたかったみたい」
「吟遊詩人?」
「なんじゃ、知らんのか? お主の活躍はすでに歌物語にされて王都のあちこちで語られておるのじゃ」
なんだそれ、まったくもって初耳なんだが。
キングリーたちは食後の娯楽に吟遊詩人を招いた際に聞いたらしい。
吟遊詩人の物語で中心になった人物は所謂有名人であり、日本人の感覚で言うところの人気俳優くらいの扱いになるらしい。
蛇足だが、文化が違うので道を歩いていて握手やサインをねだられることはないようだ。
「ハヤト! 色々話を聞かせてくれんか?」
「こらこら、リンシス。すみませんハヤトさん、立ち話もなんですしどうぞお掛けください」
キラキラさせて見上げてくるリンシスをなだめ、クインは机の方を指した。
「ハヤトは妾の前に座るのじゃ!」
「クロネちゃんとミズクちゃんとククラちゃんもどうぞ自由にお掛けになってね」
リンシスに指示されるまま彼女の正面に座ると、ミズクが素早く俺の右隣の席に着いた。
そしてクロネとククラはなぜかジャンケンをし始める。
「「せーので、ほい!」」
クロネ:人→win!
ククラ:石
勝負に勝ったクロネは得意げな様子で俺の膝の上に座り、ククラは残念そうに左隣の椅子に腰を下ろす。
どうやら、俺の膝の上を取り合うジャンケンだったらしい。
一連の様子を見ていたキングリーとクインは愉快そうに笑った。
「自由にとは言ったけれど、膝の上は予想外でした」
「だ、だめでしたか?」
クロネが恐る恐るといった様子で尋ねた。それに答えたのは微笑ましそうにこちらを見ているキングリー夫妻ではなかった。
「だめなのじゃ!」
リンシスはそう言って椅子から立ち上がり、ぐるりとテーブルを回って俺の隣に来たかと思うとクロネの腕を掴んでぐいぐいと引っ張り出した。
「妾が! 妾が座るのじゃ!」
「おっ、お姫様でもそれは譲れません!」
「元奴隷のくせに生意気な〜の〜じゃ〜! 妾は調べて知っておるのじゃぞ! お前にハヤトの膝に座る権利はないのじゃ!」
「お、お兄ちゃんはいいって言ってくれました!」
「奴隷とか関係ないの。そもそもミズクたちはハヤトにぃ公認の妹なの」
「な⁉︎」
「それに、大きくなったら結婚してもらう約束もしているの」
「そそ、そうなのです! 大っきな権利があるんです!」
「「な、なんじゃとぅ⁉︎」」
「あらあら〜」
クロネが気を落として引き下がるだろうとなんとなく思っていたら、いつもおとなしい二人がリンシスと口論をし始めてしまった。
っておい! 結婚の約束とかそういうことを言うんじゃない!
キングリー夫妻の俺に向けられる目が冷たい……
ここはそれとなく釘をさす形で弁解しておくか。
「二人とも、それは大きくなっても気持ちが変わらなかったらって話だったろ?」
こう言っておけば、結婚の話はあくまでも子供のたわ言に過ぎないと思ってくれるだろう。
口には出さないが、兄妹のような関係でいたいと思っていて、結婚は望んでいないからまるっきり嘘でもない。
しかし今度はそれを聞いたクロネたちが黙っていないわけで、
「わたしの気持ちはぜったい変わりません!」
「同じくなの。つまりもう結婚は決まってるの」
理論に飛躍があるというか、極端というか……
それでも今それだけ好かれていると思うと嬉しくなる。
「そうだな、すまなかった」
「ぐぬぬ……結婚とな……お父さまっ! 妾もハヤトと結婚するのじゃ!」
おいおい、今日会ったばかりだぞ!
というより、リンシスの俺に対する好感度が高過ぎてびびる。
キングリーもいかに可愛い娘の頼みとは言っても、許しはしないよな?
「ダメじゃ。リンシスにはすでに許嫁がおるじゃろうて」
「妾はハヤトがいいのじゃ〜!!!!!」
地団駄を踏むリンシスを前に、キングリー夫妻は困ったようにお互いの顔を見合わせた。
俺はといえばリンシスに許嫁がいたことが衝撃だった。
まあ、王族なら当然そういうこともあるのだろう。
彼女が蔑ろにされているならともかく、俺は他所の事情に首を突っ込むような真似はしない。
「なあリンシス? そんなに俺の膝に座りたいなら座るか」
「ぬ⁉︎ いいのか⁉︎」
「俺にできるのはそれくらいしかないからな。それで機嫌を直してくれないか?」
「わ、妾は不機嫌になどなっておらぬぞっ?」
駄々をこねていたのが恥ずかしかったのだろう、彼女は澄まし顔を無理やり作った。
「ごめんな、クロネ今回は譲ってあげてくれ」
「わ、わかりました……」
「帰ったら何でもお願いを一つ聞いてあげるから、考えておいてくれ」
「!……はいっ♪」
今までだってクロネたちのお願いには応えて来ているから、それが埋め合わせになるのかは分からないがクロネは納得してくれたようだ。
「クロネ、ごめんなのじゃ」
「えっ? えっと……き、きき気にしないでください!」
リンシスはきちんと謝れる子だったようで、何はともあれこの場は丸く収まってくれた。
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