第136話「ピースキープオペレーション」
夏の第一月のある日のこと。
ダンジョン・パズルから宿に帰ってきたハヤトに宿の女将から手紙が渡された。
「ああハヤトさん、ギルドから手紙が来ていたよ」
「また貴族からの招待か?」
ダンジョンを踏破してからというもの貴族からの召喚が毎日あり、無駄に多忙な日々を過ごしている。
貴族からのお呼ばれは名誉なことらしいが、俺にとっては面倒くさいの一言に尽きる。
貴族はみんな「この私が雇ってやってもいいのだぞ?」という上から目線の態度で、イライラせずにはいられないし、毎度似たような話でクロネたちが退屈してしまうのだ。
それに呼ばれているのは俺だけだから、偶人のククラはなんとかなるが、クロネ達を同伴させるには奴隷として連れる他ない。
それゆえ毎回クロネが靴を拭き、罪悪感が溜まる一方なのだ。
え? 拭かせなければいいって? クロネが拭きたがるんだよ!
他の奴隷に俺を取られるのが嫌だとか珍しく独占欲を出されたら断れない。
四字熟語風に一挙三損と表せば言い得て妙だろうか。
そういう状況なわけで、貴族からの召喚はもうたくさんなのだが。
「今回は違うみたいだよ。なんでも、ダンジョンパズルについて調べて欲しいことがあるらしいね」
「ほう」
ダンジョン・パズルは最近になってようやく活路が見出されたダンジョンだ。
そこの調査においては、踏破者である俺以上に適した者はいないだろう。
部屋に戻って手紙を開くとこんなことが書かれていた。
――ダンジョン・パズル一階層の階層パズルが一定時間で更新される現象が確認された。また更新と同時に同ダンジョンで手に入る立方体が自壊することが判明。ダンジョン外に持ち出していたものも自壊したとの報告があった。買い取った水晶に同じ現象が起きる可能性があるため至急調査を願う――
「これは……ちょっとマズイかもしれないな」
ようやくダンジョン・パズルに活路が見出されたというのに、場合によっては手に入るものがパズルしかないダンジョンになりかねない。
それに、あそこの水晶が売れなくなると魔法学園のための学費を稼ぐのが困難になってしまう。
「調査……の前にダンジョンを作った本人に聞いてみようか」
管理者の住むエリアに行くには最下層を毎回突破する必要があるのだが、俺には金の鍵がある。
単に俺が調査するより正確な情報を手に入れることができるだろう。
教えてくれないかもしれないが、その時は普通に調査すればいい。
夕食の後にリティアに会いに行くのはもう日課になりつつあるから、その時についでに聞いてみよう。
◇◇◇
というわけで聞いてみた。
「あ、うん。パズル部屋に人がいる時間の合計が一定時間になったら別の問題になるよ。その時にパズルのピースも壊れるように魔法をかけているんだよ」
リティアはクロネたちが解いたパズルの丸付けをしながら、あっさりと教えてくれた。
「じゃあピースになっているアイテムは壊れるしかないのか」
「ううん、パズルに正解するとそれまでに手に入ったピースは壊れなくなるよ」
「へ、そうなのか?」
「うん。水晶を取りに来てもパズルを解かずには帰れないようにしてるの」
パズルを作り、人に解かせることが大好きなリティアらしいシステムだ。
というか、水晶が重要な資源である事は分かっているようだ。
「それなら今まで売った水晶が壊れないようにまたパズルを解いて来ないといけないわけか!」
「ハヤト、パズル嫌い?」
「いや、ピースを集めて回るのが面倒なんだ」
「あはは。歩き回るのも魔物を倒すのも全部パズルのためになるようにそうしたんだよ」
パズルに関わりのないものは一切無いわけか。
「リティアらしいな」
「えへへ、ダンジョンってそう言う物だもん」
「そうなのか? そう言えば、ダンジョンってなんのためにあるんだ?」
「精霊から逃げるためだよ」
「は?」
精霊から逃げる? 妖精は精霊に追放された存在のはずだ。二種類の妖精のうちフェアリーと呼ばれる方は精霊から追われるようなことも無いはずだからもしかしてリティアは……
「リティアってトリックフェアリーなのか」
「ううん、ちがうよ」
すぐに否定が帰ってきて安心した。
「私はただの妖精。フェアリーでもトリックフェアリーでもない」
「どういうことだ?」
「みんなが知ってる二種類の妖精は精霊界を永久追放されているからどうやっても精霊界に戻れないんだけど、私は精霊界が嫌で逃げ出しただけの妖精なの」
「それで『精霊から逃げるため』なのか」
「うん。ダンジョンは隠れ家であって連れ戻されるのを防ぐためのシェルターって感じなの」
へぇ、ダンジョンはそんな理由で作られたのか。
「なんで逃げ出したんだ?」
「だって誰もパズルの面白さを理解してくれないんだもん」
「予想していたがやっぱりパズルなんだな」
「私がわがままってわけじゃないからね? 他のダンジョンにいるのも似たような理由なんだからっ、多分!」
少し呆れた様子を見せると、リティアはほおを膨らませ、拳をハヤトの胸にグリグリと押し付けて不満の意を表明してくる。
「あ、ククラもー」
パズルをしていたククラが遊びと勘違いして寄ってくると、クロネもパズルから顔を上げてとことこと寄ってくる。
「そうだ、明日から調査のためという事にしてしばらくダンジョンに潜ろうか」
「貴族の用事ないの~?」
「そんなの無視だ無視。水晶が壊れてしまったら大損害だからな」
「やったー。むしだむしー」
ククラが手放しで喜び、挙句小躍りまでし始める。
そんなに貴族が嫌だったのか。
まあ、動きたい年頃だろうし、じっと話を聞いているのは退屈だったろう。
みんなが退屈しないようにダイアリンクを使ってしりとりをしていたのだがさすがに何日も続ければ飽きがくるよな。
ダイアリンクの特性上三人の言葉を中継する必要があり、それをしながら貴族の相手をするのは大変だった。
クロネとミズクを見てみると二人も安心したような表情を浮かべている。
翌日ビーズパズルの階層で三人を暴れさせたのだが、鬱憤が溜まっていたのか無茶をしてミズクとククラが怪我をした。
ヒールですぐに治したものの、この損害賠償を貴族に訴えたい思いだった。
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