第11話「血の牙獣宮亭」
俺はギルドを後にして、クロネと一緒に宿に向けて歩き始めた。
「クロネ、悪かったな。すぐに守ってやれなくて」
「ん、大丈夫」
クロネの頭を撫でると、ふにゃっとクロネの口元が緩む。
「そういえば奴隷の首輪ってなんなんだ?」
絡んできた男が言っていた言葉で気になったのだ。
「えーっと、奴隷であることを表す首輪です。奴隷紋が使われるようになる前から使われていて、命令にわざと背くと首が締まるようになっているんです」
「恐ろしいな」
「激痛が走る奴隷紋の方が辛いですよ」
「え、それ聞いてないぞ」
「え? あ、ごめんなさい! 言うの忘れてました!」
クロネが勢いよく土下座した。
道をゆく人たちが何事かとこちらを振り向く。
「まあいいから、立て。往来で目立っているから」
「あ、はい、ごめんなさい……」
俺達は再び歩き始める。
「えーっと、最近は奴隷紋と首輪を二重で使うのが普通らしいです。首輪は切ったりすると効果がなくなるし、奴隷紋の方が痛みが大きいけど、それだけだと外から見ても奴隷だというのが分かりにくいからだそうです」
クロネは、奴隷商のおじさんがそう言ってました、と言って説明を終えた。
「まあ、そんな首輪は無くてもいいな」
「えーっと、その……」
「ん? どうした?」
「奴隷の首輪は、あったほうがいい、よ?」
クロネが控えめに提案してくる。
「どうしてだ? 首輪なんて窮屈だろ」
「わたしがお兄ちゃんのものだってすぐに分かるから……」
「別によくないか?」
そう聞くとクロネは俯いた。
え、なんだ? もしかして首輪が欲しかったりするのか?
「もしかして首輪が欲しいのか?」
クロネはこくんと頷いた。
首輪がしたいなんて変わってるな。
もしかしてクロネは変人なのか? それはちょっと嫌だな……
まあ、俺がこの世界に馴染むためにも一般に合わせるのは必要だからな。
「分かった。首輪を買ってやるよ。今日はひとまず宿からだが……首輪はいくらするんだ?」
「えーっと、1000エソだよ」
金貨1枚、だいたい1万円か……
「高いな……とりあえずお金が貯まるまで待ってくれるか?」
「はい、もちろんです!」
首輪のために金を稼ぐのはちょっと思うことがあるが、この街ですることは冒険者登録と観光くらいしか考えていなかったし、目標もできて丁度いい。
その後道行く人に宿の場所を聞いて、空が赤みを帯び始めた頃宿に着いた。
◇◇◇
血の牙獣宮亭は、見るからに怪しげで――
なんてことも無く、手入れが行き届いているのがわかるいい感じの宿だった。
神聖文字で「血の牙獣宮亭」と書かれた看板がちょっとした違和感を放っているくらいだ。
西部劇の酒場にあるようなドアを押し開けて入ると、十才くらいの女の子がカウンターに腰掛けて内職をしていた。
また、テーブルが並んだ空間では何人かが食事をしていた。
「ごめんください」
「あ、はい! こんにちは!」
女の子はこちらに気づくと手を止めて、にこりと笑って立ち上がった。
かわいい。お店のお手伝いだろうか。
彼女はマインと名乗った。
俺も名乗りクロネのことも紹介する。
「宿を取りたいんだけど、部屋空いてる?」
「はい、空いてますよ。一泊につき160エソです」
「冒険者ギルドの紹介で来たんだけど……」
そう言って受付でギルドでもらった手紙を女の子に渡す。
「あ、ちょっと待ってくださいね」
女の子は手紙を受け取ると奥に走って行った。
しばらくするとまた走って戻ってくる。
「ごめんなさい。お店の手伝いをしてるんですけど、まだできないことが多くて……あ、大人一人と奴隷ですね。冒険者ギルドからの紹介だから一泊80エソになります」
やっぱり奴隷は人数に数えないんだな。
「とりあえず一泊で頼む」
俺は銅貨8枚を支払った。
「部屋は一番奥、手前から三番目です。就寝前には鍵を閉めるようにしてください。井戸は廊下を抜けたところの庭にあります。ありがとうございました」
おいおいスピーチじゃないんだから、ありがとうございましたはないだろう。
「ありがとうございました、は違わないか?」
「あ」
彼女はしまった、という顔になった。
すかさずフォローしておく。
「まあ、受け答えもしっかりしているし、説明も分かりやすかった。これからもお手伝い頑張れよ」
「――っ! はい!」
いい返事をして笑った。さっきまでのニコニコな笑顔とは、違い本当の笑顔だ。
やっぱりかわいいなぁ
俺は、上機嫌で部屋に向かった。
※4/29ルビ追加しました。みんな大好きヒエログリフ。だってロリが隠れてるから。
※5/1クロネの首輪の説明に追記しました。
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