第128話「怪盗幼女ハヤちゃん」
毎日会いに行く約束をしているリティアの元に行くと、なんとご立腹だった。
「もう、もっと早く来てよ!」
確かにもうすでに日は暮れている。
「ごめんな、リティア」
「許さなーい、今日はここに泊まっていくこと!」
「そんなんでいいのか?」
「いいの!」
そういうことでその日はリティアの家に泊まることになった。
もちろん絵の少女のことは忘れてはいない。
みんながパズルを解いて遊んでいる間幻装魔法をどう使うかを考えていると、リティアも妖精だったことを思い出す。
「そうだリティア、幻装魔法って知ってるか?」
「知ってるよー。どうして?」
「いや、もしよかったら教えて欲しいなと」
「いいよー。でも私その魔法使えないんだよね」
え、そうなのか?
てっきり妖精だから使えるものかと。
そういえばリティアは普通のフェアリーなのかトリック・フェアリーなのか聞いたことがなかったな。
まあ、悪さをしているわけじゃないしフェアリーの方だろう。
使えないけど教えることはできるようだから一つご教授願うことにした。
「幻装魔法はね、文字通り幻を身に纏って見た目を変える魔法なの。もちろん幻だから触ったら分かるけどね。そしてレベルだけど、レベルが高いほど幻の精度と賢さが上がっていくんだよ」
「幻の賢さ?」
「うん。例えば風車の幻を作るとするよね? 賢さが低いと幻の風車は全く動かないんだけど、賢さが高いと風の強さに応じて回ってくれるの」
ほう、それはすごいな。
「でも、幻装魔法はそんなに大規模な幻は作れないよ」
おいおい、期待させといて落とさないでくれ。
「大きな幻を作るのは幻灯魔法って言う別の魔法だよ」
「じゃあ、幻装魔法はそれの劣化版なのか」
楽に手に入れたスキルだから文句は言えないが、劣化版となると少しショックだ。
「いや、劣化版なんかじゃないよ! 幻灯魔法はね、霧とかそういったものがないと使えないの! いつでもどこでも使えるっていう点では幻装魔法のほうがすごいんだよ」
ほう、そうなのか。確かにそっちの方が使い勝手は良さそうだな。
また幻装魔法は特殊メイクに近いもののようで、核となる何かがないと使えず、元の姿からあまりに遠のいた姿をさせることは出来ないらしい。
「でも、なんでこんなこと聞くの?」
「実は幻装魔法が使えるようになったんだ」
「へぇ、人間なのにすごいね! どんないたずらをするの?」
「いたずらはしないけど、とある絵を盗みにいくんだ」
事情を話すとリティアは憤慨した。
「そのノーブルって奴許せない! ハヤトさん、なんとかしてそいつにぎゃふんと言わせておいて!」
「ああ、任せとけ」
そして軽く準備を済ませると、クロネたちはお留守して置くように伝える。
「わたしも行きます!」
「ダメだ。クロネたちに盗みを手伝わせるわけにはいかない」
「クロネ、人数が多いとハヤトにぃの邪魔になるだけなの」
「ううぅ。……わかりました。お兄ちゃんの邪魔はしたくないです」
別に邪魔とかそういうわけではないんだけどな。
ただクロネたちを盗みの共犯者にはしたくなかったのだ。
ダンジョンパズルの転移魔法陣から地上に戻ったハヤトは、速やかに近くの物陰に身を潜める。
そしてそこで加護が働いていない身体の調子を確認した。
やはり少し身体が重い気がするが、それでも全力でジャンプをしてみると車の高さくらいまで飛べた。
その後謎の加護《面目幼女》にてハヤトは幼女にシェイプシフトする。
ククラ曰く、ハヤちゃんモードだ。
クロネに許可を取った下着に着替え、一度ジャンプする。
うん、明らかにさっきより高く飛んでるな。
そうなる可能性はかなり少ないと思っていたが、幼女モードになった自分も加護発動条件の「守るべき幼女」にカウントされるようだ。
ハヤトとしては納得できない部分もあるが、不利益はないから、今とやかく言うのはやめておこう。
加護があるからにはハヤちゃんモードで行った方がいいと判断し、ハヤトは幻装魔法を使う。
幻装魔法で服を作り纏えば、そこには黒装束に身を包んだ幼女がいた。もちろんハヤトだ。
ハヤトは、空に向けて跳ねると宙を蹴ってノーブルの屋敷の方に向かった。
「うぅ、寒っ」
(実際には下着しか着ていないんだから当たり前か)
そして空駆ける幼女ハヤトはノーブルの屋敷の屋根に降り立った。
塀の近くには見張りが何人もいるが、空から入ってくるとは思っていないのか屋敷の屋根の上には誰もいない。
窓の鍵も小さな閂によるものであることは昼間に確認している。
水球をうまく当てて窓から侵入すると、クロネに描いてもらった地図を確認する。
地図によると、昼間通っていない廊下に来てしまったようだ。だが、ギャラリーを見せるために遠回りしてくれたノーブルのおかげでこの館の地図はほぼ完璧に仕上がっていた。
気配察知で見張りと鉢合わせないように気をつけながら例の絵のもとにいく。
すると、
「いやだって言ってるでしょ!」
「ぐぬぬ、お主燃やされたいのか!」
「も、燃えないもん!」
少女と変態野郎の言い争う声が聞こえてきた。
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