第126話「何とかバター」
まただ。クロネやククラの時と同じく、幼女を助けようとしたらスキルを習得した。
おそらく女神が言っていた世界の法則を乱す「バグ」なのだろう。ロリコンという職業も関係があることは間違いない。
加護 《このロリコンどもめ!》も含めて、幼女に関われば関わるほど強くなれるというのは本当にありがたい。
それはさておき、ゲンソウ魔法というのはどういった魔法なのだろうか。
スキルを習得してもすぐには使い方がわからないのが難点だな。
もしかしたら今この場で彼女を持ち出せるようなスキルなのかもしれないが、どういった魔法なのか見当もつかないため下手に動けない。
しかし、助け出すのに役立つスキルであるのは間違いない。
数日かけて情報を集めてから行動しようと思っていたが、もっと早く助け出せるかもしれない。
「三日だ。三日で盗み出すから、その間だけ我慢してくれないか?」
酷い目に遭っている少女を渦中に放置することになるが仕方がない。
もちろん三日とは言っているが、ハヤトはできれば今晩と思っている。
「うん、頑張る。だって、お兄さんの魔法が守ってくれてるんでしょ?」
「ああ。だが過信はするなよ」
そしてハヤトたちはその場を後にした。
ノーブルの屋敷を出ると太陽が西側にあり、もう一時間もすれば日が暮れるような時間だった。
宿に着いてしばらくするとミズクが話しかけてきた。
「ハヤトにぃ盗みをするの?」
盗み、という表現は避けていたが、やはりやっていることは窃盗だよな。
「ああ。やっぱり泥棒は嫌か?」
「ううん。ハヤトにぃはあの子を助けるだけなの。でも、それでハヤトにぃがお尋ね者になっちゃうのは嫌なの」
そうだな。そうなってしまって堂々と街を歩けなくなるのは辛い。
「変装したらー? 怪盗なんちゃら~っていうお話でそうしてたよ」
変装か……いい案だな。
そういえば加護 《面目幼女》で姿形をまるっきり変えられるから、あまり使いたくはなかったがそれもいいかもしれない。
そんなことを考えながらステータスを開いて新しく習得したスキルを見てみると、さっき習得したスキルの「幻装」の文字――もちろん神聖文字だが――から「変装」に似たニュアンスを感じた。
二十八文字からなるヒエロロフィオには一字一字に意味があり、並びに応じてまた意味は変わってくるが、どんな者でもその意味を汲み取れるようになっている。
もっとも、含まれる意味自体を知らなかったり、音声だけをなぞった文字列――人の名前であったり、ハヤトの職業である《ロリコン》もそうであった――の場合その限りではない。
いずれにせよハヤトは、「幻装」の文字列からスキルの内容を予測することができた。
文字の並びを抜き出して見てみると、まぼろし、纏う、化かすなどを意味していた。
また、変装の他に化粧や仮装と似た意味を持つことも感じられた。
(うん。ここまで揃ったら大体分かったな)
イメージさえ持てば魔法の行使は難しくないから、ハヤトは自分の手に幻装魔法を使ってみた。
(イメージするのは……まあ、最初は無難に色合いを変えるだけでいいか)
というわけで右手を青色に変えてみた。
「ハヤトにぃ! ハヤトにぃの手が!」
右側が定位置になりつつあったミズクが小さな悲鳴を上げる。
「大丈夫だ。俺の魔法だから」
観察してみると、日本で3D映画が流行りだした時に一躍有名になった、何とかバターとかいう映画に出てくるアレみたいだった。
確認してすぐに解除するとミズクはほっと息を吐いた。
「何の魔法?」
「幻装魔法ってやつだ」
「うーん、知らないなぁー」
どうやらククラでも知らなかったらしい。
と思ったらミズクが声をあげた。
「あ、それ聞いたことあるの」
「え? ミズク知ってるのか?」
「なの。トリックフェアリーがよく使う魔法なの」
トリックフェアリー。たしか魔物化した妖精だったな。
魔物が持ってる魔法なのか……
「前の人たちがトリックフェアリーから大金をもらったことがあったの。でもそれは全部平たい小石だったの」
「小石をお金に見せていたってことか」
ちなみに「前の人」というのは、ミズクの以前のご主人様のことだ。俺以外ご主人様と呼びたくないということでそんな呼び方になっている。
「なの。その時、騙された前の人たちは、怒ってその石をミズクに投げつけてきたからよく覚えているの」
「ミズク……」
淡々と語っているところがミズクらしいが、幻装魔法に嫌な思い出があるなら使うのは控えたほうがいいよな。
「俺が幻装魔法使うの嫌か?」
「べ、別に気にしてたわけじゃないの! ただそんなこともあったなって思っただけなの」
「俺は絶対に暴力を振るったりしないから安心してほしい」
「ハヤトにぃ……今更なの。ハヤトにぃがそんなことしないのはみんな知ってるの」
「そうですよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんは暴力なんて一度も振るったことないです!」
クロネはそう言うが……
「いや、クロネにはあるだろう」
その言葉には当事者のクロネまでもが驚いた。
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