第121話「パズル説明会」
ダンジョン踏破の公表は、ギルマンが一度その場を締めたことで一旦終了した。
大抵のこういった集まりの場合、駄弁ったりする者以外はすぐに解散してしまうものだが、今回はそうはならなかった。
みな、パズルの説明を待っているのだ。
「みんなパズルのことを知りたがってるみたいだな」
「こんなに残るとは俺も予想外だ」
演説台を降りたハヤトとギルマンが話しているところへクロネとミズクが飲み物をもらってやってきた。
「ご主人様、ギルマン様」
「ああ、ありがとう」
「ハヤト、俺もいいのか?」
「いいんじゃないか?」
「そうか、じゃあありがたく」
ギルマンはミズクから木のカップを受け取るとぐいっと一気に飲み干した。
対してハヤトは、少しだけ口をつけて喉を潤す。
柑橘系の果汁が含まれているのか甘酸っぱい味が広がる。
「うん、すっきりした。俺はもう要らないから残りは二人で飲んでくれ」
「ありがとうございます」「ありがとうなの」
一割ほどしか中身の減っていないカップを受け取ったクロネは、ミズクと一緒にちびちびと果汁水を回し飲みし始める。
「ククラとも――あれ、ククラは?」
ククラとも分けるようにと言いかけて、姿が見えないことに気づいた。
少し見回すと、ギルドの職員からカップをもらって飲んでいるククラの姿を見つけた。
『ククラ、クロネとミズクにも分けてやってくれよ』
『分かったー』
短い休憩が終わるとハヤトは再び観衆の前に出た。
「まずはじめにルール説明が簡単なパズルを教える。これは三階層の階層パズルでもあるから聞いておいて損はないだろう。それが終われば一階層のパズルのルールを教える。子供は見えるように前に来てくれ」
そう言って、幼女が見えるところに来るのを待ち、五分後二十人くらいのロリと五人くらいのショタが集まった。
女の子の比率が多いのは、男の子は労働力に駆り出されることが多いからだ。女の子も家の手伝いがあるが、母親も広場に見に来ているため、出てこられるのだろう。
「おにーさん、パズルってなに?」
「遊びなんだよね、早く教えて!」
「まあ、そう焦るな。今からみんなに教えるのはビーズパズルというものだ」
ビーズロジックは、まるばつロジックのことだ。ダンジョンから手に入るパズルはまるばつではなく青丸と黒丸だから、説明するにあたって分かりやすいように名前を変えたのだ。
踏破ボーナスも数珠だったから言い得て妙な名付けだと、ハヤトは自負している。
説明はすぐに終わり、難易度の易しいビーズロジックを全員に見えるよう掲げた。
「解いてみたい人、手を挙げてー」
「はい!」「はーい」「はいはいはいはい!」
自己主張の激しい男の子は置いておいて、近くにいた女の子を手招きする。
「ルールは分かったか?」
「うん!」
「賢いな。それじゃあ色を入れていってくれるか?」
「え、どうすればいいの?」
「場所を指差して何色かを言ってくれればいい」
ハヤトは女の子の前に薄い障壁を張って、そこにパズルを貼り付けた。
「うおー、布が浮いてる!」「魔法だ!」
「まだ魔法はあるぞ」
水魔法で二つの水球を作り出し、みんなで使う目的で少し前に買った青と黒の絵の具をそれぞれに溶かし込んで二種類の色水を作った。
「す、凄い……」
「さあ、パズルを始めてくれ」
「は、はいっ」
女の子が一つの円を指差して色を言う度に、その色の水を円の前に張った薄い円柱型の結界に流し込んでいく。
この演出には、子供はもちろん側で見ていた大人や冒険者まで驚いていた。
貴族の召使いたちは驚きつつも、ハヤトを分析していた。
「(魔法の技術が高いようだな)」
「(ああ、同時発動をこうも簡単にやってのけているから、技術は問題ない。子供に対する配慮があり人柄にも問題はなさそうだ)」
「(いい人材だな。主人に報告だ)」
「(いや、あいつを従わせるのはうちの主人だ)」
「(言っておけ)」
もちろん幼女を驚かせ喜ばせることに全力を注いでいるハヤトは、そんな話が陰でなされていることには気づかず、パズルを前に真剣に考え込む幼女を見ていた。
「ここは青! 解けたっ!」
女の子はパズルを完成させると、満面の笑みをハヤトに向けた。
「おお、よくできたなー凄いぞ!」
ほとんど癖で撫でてしまったが、女の子は嬉しそうにはにかむ。
「オレも、オレもやりたい!」
「私も!」
「すまん、冒険者たちが待ってるんだ。だからその後な?」
「はーい」「はーい」
速やかにビルディングパズルの説明に移る。
今まで謎だった立方体の用途がはっきりして、一部の冒険者から「なるほど」と言う声が聞こえてくる。
「それじゃあ、ビルディングパズルを解いてみたい人ー」
「はーい」「はいはいはいはい!」
「じゃあそこの二つ括りの女の子」
「だあぁ~~!!……」
「やった!」
ハヤトが女の子ばかり選ぶのはレディーファーストだからであって、他に理由はない。
同じ女でも幼女の方が優先度が高い傾向にあるが、それも子供優先という意識によるものである。
紳士たるもの女性と子供を優先するのは当然だ。
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