第117話「ギルド長」
※2017/8/6 「領主」を「王」に挿し替えました
「はあ、またか」
ハヤトは思わずため息をついた。
ここ二週間ほど、難癖を付けてくる輩によく遭遇するのだ。
原因は、彼がウェイストの階層を次々と踏破していること。
生意気だと言う事らしい。
普段の生活ではあまり意識しないが今のハヤトの年齢は十五歳前後。成人基準は国によるが、その年齢は冒険者間では新米として扱われる。
そんな新米がベテラン(笑)である自分たちを差し置いてダンジョンの初回踏破を達成するとは何事かと言う事だそうだ。
簡単に言うと嫉妬である。実力主義の冒険者にも、たまにそういう奴がいるのだ。
「は、ハヤトさん……」
野蛮な野郎どもを前にカカリが身を縮め、俺に身を寄せる。
レベルを上げていないものはスライムにすら力負けするから、チンピラとはいえある程度ダンジョンを進む力のある相手を前に、それは当然の反応だ。
クロネたちも、男たちの威圧に負け萎縮している。
ハヤトは男たちの戯言を聞き流し、無視されたことに怒って切りかかってきた男に水魔法の一撃を喰らわせる。
中級の魔物さえ二、三発で屠る威力を誇る水球は手加減したものの男の身体を吹き飛ばし壁に激突させた。
後頭部を激しく壁にぶつけていたが気にしない。
ベテランであることにプライド(笑)を持っているチンピラたちは、仲間が一撃で沈んだのを見て恐れをなして逃げていった。
伸びている男は放置だった。
「や、やはりお強いんですね」
カカリの目線が熱を帯びたものになっているが、
「さあ、二十階層へ行くぞ」
ハヤトは気にせず魔法陣に向かった。
転移魔法陣は、意識しながら使う事で他人を連れて行く事ができる。
そうしてカカリを二十階層へ連れて行き、赤く光る魔法陣の中心に大きく書かれた「最下層」の意味を持つ文字列を確認させた。
なぜ確認させただけで踏破したかがわかるかというと、ダンジョンの各階層の入り口にある魔法陣は基本的に水色の光を放っているのだが、その階層を踏破した者が上に立つと色が赤色に変わるのだ。
その後ギルドに戻り、晴れてハヤトのダンジョン踏破が認められた。
「認められたと言ってもまだ完全ではありません。予定が無ければ明日、ギルド長ともう一度確認に行ってもらいたいのですが……」
「ああ、特に予定はないな」
「では明日食事に……」
「その件は先約がある」
◇◇◇
明日会う予定ではあるが一度ギルド長に会ってもらう必要があると言われ、案内されるままついて行くと、身長二メートルはあろうかと言う大男がいた。
「おお、あんたがハヤトか」
「……デカイな」
思わず感想が口に出てしまった。
冒険者を引退していることに疑問を覚える風格だ。
大男は意外にも人懐こい笑みを浮かべて笑い、俺たちに座るよう促した。
「いやぁ、それにしても驚いた。まさかこんな若い、それも操者がダンジョン踏破をするなんて」
「この子は配慮してくれる良い子なんでね」
「~♪」
ハヤトに撫でられた彼女は褒められたことが嬉しく、身体をむずむずさせて喜びを表現する。
「いやぁ羨ましい限りだよ。実は私も操者でね、それで冒険者を引退して支部長をやってるんだ」
その話を聞いて了解がいった。
しかし近くに偶人の姿はない。
「あんたの偶人はどうしてるんだ?」
「別室で、俺の苦手な会計を担当してもらってるよ。最初こそ恨んだが、冒険者を辞めたことで家族と過ごせる時間が増えたから結果として良かったと思っている」
ギルド長は、そう言ってガハハと笑った。
その後、本題であるダンジョン踏破の話に入り、四人のアサート確認をした後、何故今まで誰も踏破できなかったウェイストを踏破することができたのか、ということをはじめとする様々な質問をされた。
パズルのことを教えると、案の定知らなかったようで首を傾げた。
「パズル? なんだそれは」
「説明は控えさせてもらおう」
幼女でもない相手に丁寧に教える気になれなかった、というだけなのだが、「冒険者が自身の利益のために情報を秘匿するのは当然のことだ」としたり顔で頷いていた。
各階層に現れる魔物や宝箱の内容を教え、話は一時間くらいで終わった。
ギルド長は、ほとんど一緒にいただけではあるが同じくダンジョン踏破者であるクロネたちにも話を振ってくれたおかげで、彼女たちも退屈せずに済んだ。
「今度王からお呼びがかかると思うからその時はもう少し自分自身について話せることを作っておけよ」
「自分をアピールしろということか」
「そういうことだ」
……どうやら自分の情報については一切公開してないことに気付いたらしい。
王と聞いて、心の中でため息をついた。
王というのは街で一番偉い貴族だ、下手に逆らったりしたら権力を使って何をしてくるか分からない。
「そうだな、次は整理しておくよ」
「ではまた明日だな」
適当に返事を返しつつハヤトはギルドを後にした。
「よし、リティアのところに行こうか」
「マスターとお昼寝!」
時刻はまだ五時で正午まで二時間もあるが、跳ねるようにひょこひょこ歩く可愛いククラを見ていると、いつでも寝てやろうと思うハヤトだった。
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