第114話「リティア」
「そ、その、先ほどは見苦しい姿を見せてしまってごめんなさい」
緑の服の少女は肩を叩くとすぐに起き、「ひぃ~」と声を上げながら文字どおり部屋を飛び回り、散らかったパズルをあちこちの棚に押し込めて回った。
その後、現れた床にソファーを出現させ、俺たちを座らせた。
「わた、私の名前はリティア。このダンジョンを作った妖精です」
リティアと名乗った少女は首を竦めながらアーモンド型のパッチリとした目で俺を見ている。
背丈は150センチほど、ちょうど小学校高学年ぐらいだ。
うん、まだアリだな。
「リティアか。俺はハヤトだ」
「クロネです」
「ミズクなの」
「ククラでーす」
「う、うん」
緊張しているようだ。リティアは小さな返事だけを返した。
それでも俺の方をじっと見ているが。
「いろいろ聞きたいことはあるがリティアがパズルを作っているのか?」
「(こくん)」
「各階層の問題も?」
「(こくん)」
「大したもんだな」
「(こくん)」
「……」
この子全然喋ってくれないな。
妖精ってもっとはつらつとしたイメージがあったんだが……
そんなことを思っている矢先、彼女が口を開いた。
「あ、あの、パズルはどうでしたか?」
「ん? ああ、なかなか苦労させられたけど楽しかったよ」
すると、彼女は突然笑顔になった。
思わずどきりとしてしまう。
俺のことをずっと見ていたのはパズルの感想を聞きたかったからなようで、その後様子を窺うような目線は止んだ。
「ここにあるパズル、持って行っていいよ」
「あ、ああ、後でもらおう。その前に、どうしてこのダンジョンはパズルばかりなんだ?」
「パズルのダンジョン、作ったから」
そうなんだろうけど。
「パズル、好きなのか?」
「大好きっ!」
うん、いいね。録音できる機械が無いのが非常に残念だよ。
脳に焼き付けたが。
「なんでこのダンジョンには、パズル以外の資源とかが出ないんだ?」
「え……パズル解くのに要らないし……?」
リティアはキョトンとして首を傾げる。
ダンジョンを攻略しているときから思っていたが、やはりダンジョン製作者はパズル一筋であるようだ。
「それに、盤上に関係ない物があったらいけないから……」
うん、そういう考えなら納得だ。
「でも、初回踏破ボーナスにはちょっと違うのを入れておいた」
「え、そうなのか?」
「(こくん)アミュレット……魔法のアイテムとか、入れた」
そうなのか、それらしき物は二十階層の小物入れくらいしか思い当たらないが……
とりあえず荷物から各階層のボーナスを取り出す。
「わ、全部ハヤトたちが解いたんだ」
リティアは目をパチクリさせて俺がそれらを取り出すのを見ていた。
幼女三人の中で言えばクロネの表情に似ているが、やはり微妙な違いがあっていい。
うん、やっぱりアリだな。
そんなことを考えながら二十階層分までの踏破ボーナスを並べた。
「これらはどういう魔法道具なんだ?」
リティアはクロネが頑張って解いたまるばつロジックの布を手に取った。
「あ、解いてくれてる……これは魔除けの腕輪を出すの」
「これはクロネが頑張って解いたんだ」
「頑張りました!」
嬉しそうに笑うリティア、作ったパズルを解いてもらうのが嬉しいようだ。
「それで、魔法の腕輪を出すってどういうことだ?」
「えっと、床に広げて置いて、真ん中を摘んで持ち上げてみて」
「クロネ、やってみろ」
「はいっ」
こういうのは解いた本人にさせてやったほうがいいだろう。
クロネは、言われた通りに一旦布を床に広げ、真ん中を摘んで持ち上げた。
コトリ
「あ、何か落ちたよ!」
「これが魔除けの腕輪ですか?」
クロネが拾い上げて見せたのは、青色と無色の透明なビーズをランダムに繋ぎ合わせた、珠数のようなブレスレットだった。
「綺麗で可愛いじゃないか。それはクロネが身につけておくといい」
「いいんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます! (きゃあ、お兄ちゃんからのプレゼントです♪)」
なんかすごく喜んでいるけどブレスレットがそんなに気に入ったのだろうか。
そういえばあまりアクセサリー類は買い与えていなかったな……
結構髪も伸びているし、今度髪留めでも買ってやろう。
もちろんミズクとククラにもな。
次にリティアは、てんむすパズルの踏破ボーナスで手に入った謎の石を手に取った。
「この青い玉は、ダイアリンクっていって、対になる玉を持っている人と会話できる魔法道具」
「ああ、玉同士を繋ぐパズルだからか」
「うん」
つまり、もしクロネたちと離れる用事が出来ても会話ができるということか。
六階層でも二対入手しているからクロネたち全員に行き渡らせることができるな。
幼女たちが試したがったので使ってみることにした。
使い方を聞くと、なんと身につけているだけでいいそうだ。
ダイアリンクを通じて頭の中で話しかけようとするだけで使えるという。
『お兄ちゃん、聞こえますか?』
『ハヤトにぃ、聞こえるの?』
『やっほー! マスター!』
クロネたちの声が頭に流れ込んで来た。
「こら、三人いっぺんに話しかけるな」
その後、他のアイテムの説明を受けた。
最初こそ緊張していたリティアだったが説明しているうちに緊張が解けていき、少しずつ口調が柔らかくなっていった。
布の報酬は、ほとんどがまるばつロジックのものと同じようにして別のアイテムを出現させるものだった。
一部を挙げると、一階層のビルディングパズルからは杭の形をしたアミュレットが、二階層のウォールロジックからはペンダントタイプのアミュレットが手に入るようだ。
それぞれ別空間の小さな部屋を開いたり、壁を出現させる魔法道具らしい。
「今使うよりパズルを解いてからの方がアミュレットの効果がよくなるよ」とのことだったからまだ布を使ってはいない。
「『理論強化』がリティアの魔法なんだー」
魔法道具をパズルの中に入れ、そのパズルを解くことによって魔法道具を強化できる魔法らしい。
ちなみに、ダイアリンクがそのまま宝箱に入っていたのは、強化のしようがないからだそうだ。
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