第113話「パズルの上に眠る者」
最近寝坊が多いです……すいません
ハヤトたちがフォトーシスにやって来てからおよそ一ヶ月が経った。
変わらずダンジョン・ウェイストに潜り続け、強くなっていく魔物を倒しまくったおかげでレベルは27まで上がっていた。
クロネとミズクで25ククラが22だ。
だが、階層を下るごとにパズルを解くのに必要な道具がどんどん集め辛くなっていき、一日潜っても一回も踏破できないということも多くなっていた。
現在ハヤトがいる階層は二十階層。
ギルドには十九階層まで踏破したことを伝え、確認が済んでいる。
この階層のパズルは、前世で最も有名なペンシルパズルであろうナンバープレイス、縮めてナンプレだ。
又の名を数独という。
前世でもよく解いたから紙の上ではすでに解けているのだが、台座のパズルを解くのに必要な「数字」がなかなか集まらないのだ。
必要な物は、中に文字が浮いている透明な球体なのだが、当然のごとく九種類ある。
だが現れる魔物は、奇妙な笑い声をあげる太った化け猫のみだ。
チシャ猫と言ってもいいのかもしれない。
——ナ〜〜ゴ、ナ〜ゴナ〜ゴ——
「く、またどこかに消たぞ⁉︎」
そいつは、とどめを刺す瞬間、数字の書かれた球と笑い声を残して、霧となって消える。
「あっちから笑い声が聞こえるの!」
「よし、今度は閉じ込めてやろう」
どうにか結界に閉じ込めて逃げられないようにすると、計九回殺してようやく本当に倒すことができ、九種類の球をそれぞれ一つずつ得られた。
文字どおり猫は九つの魂(球)をもつというわけだ。
だが、二十階層にもなると魔物は中級程度まで強くなっていて、簡単には捕まってくれない。
結局、必要な球を集めるのに三日掛かった。
一メートル四方の台座に次々と数字の球を嵌めていき、パズルを解き終える。
「やっとですね」
「ああ、ようやく次の階層だ」
下へと続く階段を見て俺たちはため息をついた。
さすがに精神的に疲れた。
「明日は一度街を出て遊ぼうか」
「滑り台したい!」
「そうだなー」
そんな話をしながら踏破ボーナスの宝箱を開けると、中には小さな革のバッグが入っていた。
「ポーチですか」
「本当に変なものしか出ないの」
開けてみると、中からパズルの書かれた布や紙が出てきた。
どれもこの二十階層までで解いたことのあるパズルだ。
「あ、てんむすがあるのです」
「スリザーリンクだ!」
「これは……列島パズルなの」
「こっちは四色パズルじゃないか」
列島パズルというのは前世ではぬりかべと呼ばれているパズルだ。
他にも「レンガを敷く」や「島と潮流」という呼び名がある。
三人ともぬりかべという妖怪を知らなかった上、説明する際に「海」と「島」という語を用いるため列島パズルと呼ぶことにしたのだ。
また四色パズルは、文字どおり四色問題を用いたパズルだ。
盤上に配置された各「領土」を、隣接する「領土」と色が同じにならないように色分けしていく問題である。
ここでは、塗りつぶす代わりに「領土」にある窪みに色のついた石を嵌めていくようになっていた。
そこまでは四色問題とほとんど変わらないが、問題が三つあり、最終的に三つの盤上にある球の数が同じになるように色を決めていかなければならなかった。
それに気がつくのに時間がかかり十七階層突破には三日かかった。
「これ、いったいどれだけのパズルが入ってるんだ?」
「もう百問以上ありますよ!」
前世での問題集のような薄いものではなく、布などの結構な容量を占めるはずのパズルが次から次へと出てくる。
「もしかしてこれ、物を無限に収納できるアレか?」
アイテムボックスとか、インベントリとかである。
試しにロングソードを入れてみると、容積的に無理があるのに普通に入った。
「すごい道具だね」
「だが、なんであんなにパズルが入っていたんだ」
それから小休憩をして、下の階層の様子を見に階段を下る。
すると長い通路の向こうから明るい光が見えた。
「あれ? お外ですか?」
「だとしたらここはどこだ?」
通路を抜けると眩しい太陽がハヤトたちを照らした。
足元には芝生が広がり、柔らかな風が髪を静かに揺らす。
「いや、昔アースのダンジョンを突破した者はダンジョンを管理している妖精に出会ったと言っていたし、いきなり外に出ることはないだろ」
「じゃあ、あれが妖精さんのお家かな?」
ククラの指差す方向には、二本の木の上に建てられたツリーハウスがあった。
「とりあえず行ってみよう」
そしてハヤトたちはツリーハウスに向かった。
◇◇◇
「すまない、誰かいるか?」
ツリーハウスのドアの前に立ち扉を叩いてみるも反応はない。
「あ、鍵が掛かっていないな」
ドアが開いていたからハヤトたちはツリーハウスのドアを開けた。
「うわ……」
「散らかってますね」
部屋の中には足の踏み場もないほどにたくさんの紙や布が散乱していた。
それらのすべてにはパズルの問題が描かれている。
踏まないように掻き分けながら奥に入っていくと、
「すぴー」
深緑の服を着た金髪の少女が、散乱した布の上で幸せそうに眠っていた。
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