第109話「二、三階層」
階層が変わったからといって、ダンジョン内の様子が変わることはなかった。
ハヤトたちはすぐに探索を始める。
出てくる魔物は、一階層のミニゴーレムとは違い、短剣を持った木偶人形だった。
ククラに操れるかどうか試してもらったが生き物や魔物にはスキルが効かないようで、倒したあとは自壊してしまってスキルを試すことすらできなかった。
木偶人形がドロップしたのは、片方の面の真ん中を溝が横切っている正方形のパネルだった。
その後二時間ほどでパズルのある部屋にたどり着く。
予想はしていたがビルディングパズルとは違うパズルだった。
この階層で手に入ったパネルを8×8ではめ込むことができるような凹みがあり、数字の書かれたパネルがすでに幾つか置かれていた。
「これは……ウォールロジックか」
盤上の数字が書かれたマスから四方、つまり最大四本の直線を引くのだが、ある数字マスから出る直線の長さの合計がその数字になるようにしなければならない、というルールのもと解いていくパズルだ。
「あれ、さっきと違う?」
「ああ、今度はウォールロジックというパズルだ」
簡単にルールを説明してやるも、あまり理解できていないようだった。
このパズルは解き始めると簡単なのだが、ルールが説明しにくい。
ググっても実際に解いて見るまでルールが理解できなかったからな。
簡単な例題をすぐには作れそうに無いため、台座のパズルを解きながらルールを説明すると、三人とも理解できたようだった。
パズルは二十分ほどで解き終わり二階層を突破した。
踏破ボーナスの宝箱の中身は、パズルが描かれた大きな布だった。
「一階層と同じか……」
いや、描かれているパズルは違うのだけどな。
三階層に降りて様子を見てみるが、外観は二階層のそれと特に変わったところはなかった。
それから転移魔法陣を使って一階層の入り口に戻る。
使い方が分からなかったが、中央に③と――もちろん神聖文字でだが――描かれた水色に輝く魔法陣の中に入って一階層に戻りたいと念じた途端視界が二重になり、しばらくして元に戻ったかと思うと一階層にいた。
魔法陣が赤く発光していたが、中央に大きく①と描かれていたし、何より目の前の階段を上ったら地上だった。
魔法スゲーと語彙力に乏しい感想を抱きながらクロネたちと連れ立って宿に戻った。
◇◇◇
翌日。二時頃にはハヤトたちはすでに三階層に来ていた。
歩き回っていると、魔物に出くわした。
それは無色透明なスライムだった。
「ククラが行っていい?」
「ああ、気をつけてな」
ククラは、スライムの周りを跳ね回ってスライムに「たっち!」と手を触れることを繰り返した。
すると、しだいにスライムが萎れていく。
「えいっ!」
魔力を吸引されて弱ったスライムは、ククラの可愛らしい掛け声とともに一振りされたダガーナイフで倒された。
――ごろり
スライムが蒸発するように消滅したあとにはスライムボールではなく硬さのある透明な球体が残った。
見た目はハンドボール大の水晶玉。
なんとなく役に立ちそうな物が手に入ったぞ。
ビルディングパズルだけじゃなく奥に行けばまともな物が出るんじゃないか、と俺は喜んだ。
そしてその喜びは、宝箱を見つけたときに消沈した。
宝箱には、透明な球体があった。
数は八個。
無色と青色のものがそれぞれ四個ずつだ。
無色のものは、先ほどスライムから手に入れたものと全く同じだった。
その後見つけた台座のある部屋には、それらの球がきっちり収まる半球状の窪みがあった。
10×10個の窪みがあり、すでにいくつか球体がはまっているが、ハヤトより先に来た者が置いていった可能性は低い。
おそらくこれをヒントにパズルを解けというのだろう。
念のため確認してみると、すでにあった球体はどれも取り外すことができなかった。
しばらくどういうルールのパズルだろうかと考えていたが、そもそも何種類の球を使うのかが分からない。
今までで手に入れたのが無色と青だけで、ヒントに使われているのも無色と青だけだから、二種類の球だけでできるパズルと思っていいのだろうか。
二種類だけを使うパズルと言えば、まるばつロジックだな。
Oの数とXの数が各列内で同じになるように偶数×偶数の盤に書き込んでいくゲームだ。
確か同じ記号が一列に三個連なってはならないとか、同じパターンの並びができてはいけないというルールもあったはずだ。
これはOXの記号の代わりに無色と青色の球体を使っているのではないだろうか。
ハヤトは知らないが、全く同じルールのパズルに「ましゅ」というものがあり、そちらは黒丸と白丸の記号を用いて解く。
三時間ほど掛かって百個弱の球を集めた。
ヒントですでに埋まっている部分があるからこれで足りるはずだ。
これまでに無色と青以外の球はなく、三階層はまるばつロジックだと思って良さそうだ。
クロネに導かれて台座のある部屋に戻る。
「これは昨日のとは別のなの?」
「ああ、多分だがまるばつパズルという奴だ」
ルール説明が簡単なパズルだから、三人ともすぐに理解できた。
「やってみたいです!」
クロネがそう言うから台座のパズルをさせてみると、途中までは進んだものの、そこから手も足も出なくなったようだった。
「クロネ、これだけ埋められるなんてすごいぞ」
「でも、次が分からないです……」
「そういうときは選手交代だ。ほら、タッチ!」
「た、たっち! えへへ~」
タッチしただけで嬉しそうに笑うクロネが超かわいい。
幼女エネルギーは満タンだな。俺は万全の状態で途中までクロネが進めてくれたパズルに挑んだ。
そして、たっぷり時間を掛けてまるばつロジックを解き終わった。
台座が砕けて残った宝箱に入っていたのは、やはりというか肌触りの良い布だった。
そこには円が8×8個描かれていて、幾つかが黒と青に染まっていた。
今度のはまるばつロジックバージョンみたいだな。
「よし、クロネが頑張ったから、これはクロネにあげよう」
「いいんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
クロネは折り畳まれた布を大事そうに胸に抱えた。
早速やりたそうにしているから休憩をとることにする。
でも今、クレヨンは黒しかないんだよな……
下手に期待を持たせてしまったかなと心配になったときにクロネが歓声を上げた。
「きゃー! お兄ちゃん、これすごいです!」
「どうした?」
「見ててください!」
クロネは布に描かれた一つの円の上に指を置いた。
何が起こるのかと見ていると、指を置いている円の内部が青色に染まった。
「え、クロネ、何したんだ?」
「これ、この色に変わってって思えば変わってくれるみたいです」
「へぇ、すごいな!」
意思に反応して布が色を変えるのか、これは結構すごい魔法道具なのかもしれない。
もしやと思って二階層の踏破ボーナスで手に入れた布を取り出し、あるマスに手を当てて「5」と念じると神聖文字の「5」が炙り出しのように浮き出てきた。
同じようにして念じれば消すこともできた。
普通の宝箱から手に入ったパズルではこうはならなかったから、やっぱり迷宮の踏破ボーナスだけ特別製であるようだ。
「すごい発見だぞ、クロネ」
「えへへ」
「ハヤトにぃミズクもやってみたいの」
「ククラもー」
「ああいいぞ」
一、二階層で手に入ったパズルを二人に渡すと、きゃーきゃー騒ぎながら文字を浮かび上がらせたり消したりして遊んでいた。
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