第108話「ビルディング」
ビルディングパズル。
それは「縦横ともにマス数が等しい盤と、盤外に存在する数字とで構成され、これらを手がかりに盤内に数字を埋めていく(wiki参照)」パズルだ。
5×5のビルディングパズルの場合、1〜5階建てのビルが各列(または行)一つずつになるように配置するのだが、その配置の手がかりとして盤外に書かれた数字を使う。
これらは「そちらの方向から見えるビルの数」と思えば良い。
例えば、
5→□□□□□
とあれば、
5→12345
となることが分かる。
ビルディングパズルかもしれないとなればやることは一つだ。
立方体を七十五個集めるのだ。
「クロネ、この場所を一目でわかるようにマークしておいてくれ」
「はいっ」
それからは立方体を集めて回る作業だった。
途中、ルーから聞いていたように宝箱から布を発見した。
そこに書いてあったのは単なる落書きではなくビルディングパズルの問題だった。
もしかしてこのダンジョン、ビルディングパズルのダンジョンなのか?
立方体は二時間ほどで集まり、俺たちは台座のある部屋まで戻ってきた。
すると部屋の入り口の分厚い扉が鈍い音を立てながら閉まっていく。
「おいおい!」
慌てて駆け寄って押さえると扉は止まった。
押してみると普通に開く。
手を離すとまた閉じはじめるが、一度閉じた後でも普通に開いた。
閉じ込められるわけではなさそうだから、放置でいいな。
それにしても、なぜさっきは閉じなかったのに今度は閉じたんだ?
魔物を倒した数が規定数に達したとか、二回目に来たときに閉じるとか色々思いつくが、立方体が必要数揃ったから、というのが最も妥当そうだ。
「まあ細かいことはさておき、解くか」
そしてハヤトは台座に向かった。
「お兄ちゃん、これが何かわかるんですか?」
「知らないのか?」
「はい」「なの」「知らなーい」
三人とも、ビルディングパズルを知らないようだった。
それからビルディングパズルのことをクロネたちに教える。
「まあ、やってみせたら早いな」
普通の宝箱から出た、だいたい二十センチ四方の布を取り出す。
そこに書いてある問題は4×4のビルディングパズルだ。
それを使って説明をする。
だが、やっぱり難しいのか、クロネたちは首をかしげていた。
これは問題が悪いな。
「クロネ、ちょっと紙とクレヨンを貸してくれ」
それから3×3の簡単な問題を作った。
3
↓
□□□
□□□←2
□□□←2
「こういう問題があるとするだろう? まず上の3に注目して欲しい。こっちの方向から見ると、この列には三個の建物が見えるということだ。だから——」
そして右端の縦列を埋める。
1 □□
2 □□
3 □□
「——と分かるだろ?」
まずはそこまでを理解させる。
「そして、同じ列に同じ高さの建物はないから真ん中の横列には1か3が入ることが分かる。右から見て二個ってことは——」
1 □□
2 3 1
3 □□
「こうなって、その下の横列も同じようにして——」
1 □□
2 3 1
3 1 2
「あ、一番上の列の真ん中には2が入るの! その横には3なの!」
ミズクが一足先に理解したようだった。
ゆっくり説明して、クロネとククラも理解したようだった。
「おもしろーい。じゃああそこの台のも解けるの?」
そう言われて、台座のビルディングパズルのことを思い出した。
おおう、忘れていた。
「難しいぞ?」
「やりたい!」
拒む理由もないから、台座を見下ろせないククラの脇を抱え上げて盤を見せる。
「うーん…………」
ククラはしばらく悩んでいたが、
「わかんなーい」
案の定無理だった。
クロネとミズクもやろうとしたが、一つも分からなかった。
まあ、いきなり5×5は難しいよな。
「よし、俺が解いてやる」
パズルの難問は、天才は別として、経験がないとできないんだよな。
「こっちから見たら三階だから……」
久々に解くパズルに集中するハヤトをクロネたちは熱い目線で見つめていた。
「考えてるお兄ちゃん、かっこいいです……」
「あ、それ今言おうと思ってた!」
「激しく同意なの」
パズルは十分ほどで解き終わった。
「これで終わったはずだけど……っと⁉︎」
終わってから数秒経ったとき、台座になっている岩に血管のような、葉脈の様な模様が浮かび上がった。
青い筋が、水の流れる様に部屋の床に広がっていく。
——ゴゴゴゴゴ……
部屋が微妙に揺れ出し鈍い音が聞こえてきた。
カァン、ガラガラガラ……
完成したパズルが台座ごと砕け、バラバラになったかと思うと、破片は砂よりも小さくなって消え、台座より一回り小さい宝箱が残った。
呆気に取られていると、今度は入口とは反対側の壁が音を立てて崩れる。
そして第二階層へ続く階段が姿を見せた。
「これ、第一層突破ってことでいいのか?」
ダンジョンというとボス戦とかを予想していたんだが……
そう言えば、階層主がいないんだっけ。
「お兄ちゃんすごいです!」
「なの(こくこく)」
「マスターすご〜い!」
幼女たちの歓声に応えてガッツポーズをすると一層歓声が大きくなった。
うん、すごく気分がいい。
そして踏破ボーナスだと思われる宝箱を開けて見ると、中にはシルクの布があった。
つやつやしていて美しく、手触りもいいのだが……
「そんな気はしていたんだよな」
「また落書きがあるねー」
そこには布の模様としてビルディングパズルが織り込まれていた。
初回の踏破にも関わらず手に入ったのが四方四十センチくらいの布に描かれたビルディングパズル。
なんだこのダンジョン。
解くかはさておき、記念品として丁寧に折りたたんで荷物にしまった。
「みんなが疲れてなかったら第二階層に行きたいが、どうだ?」
「大丈夫です」「大丈夫なの」「問題なーし」
「よし、じゃあ行こうか」
そしてハヤトたちは二階層へ続く階段を降りた。
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