第106話「王都フォトーシス」
馬車の外には見晴らしのいい草原が広がっていて遠くに見える森との境界が徐々に後方にずれていく。
サムーラトから王都に向かうまでの道中、魔物に出会うことはあれど、さしたる問題は起きずのんびりと馬車の旅を楽しんでいた。
その間、ルーに王都のことを教えてもらった。
王都というのはもちろん通称で、その名はフォトーシス。
五つのダンジョンが存在し、ダンジョンから産出する資源で栄えている大都市だ。
実は一つだけ攻略されたダンジョンがあり、その攻略者が伝えた情報によると、ダンジョンは妖精が作ったものらしい。
万物を司る聖霊が追放された姿、と言われている妖精は強大な力を持つ。妖精は、その力でダンジョンを作ったのだとか。
また、聖霊として元々何かを司っていたためか、妖精の作ったダンジョンは色々な性格を持つ。
フォトーシスの五つのダンジョンもそれぞれ性格が違っていて、その性格に合わせて、
「岩」
「自然」
「罠」
「異常」
「無駄」
と呼び分けられている。
アースというのが攻略されたダンジョンらしい。
「アースとネイチャーは、手に入るものが鉱石や果物だったりするから一番人気なの! トラップとクレイジーは進みにくいし戦いにくいけど魔法道具とかが結構出るからまあまあ人気なんだー!」
「ウェイストってダンジョンは何が出るんだ?」
「木片とか、落書きされた布とか紙とか」
「へ?」
なんだそのゴミみたいなものは。
「ね? 何だそりゃってなるでしょ? 変なものしか出なくて行くだけ無駄なダンジョン、だから『ウェイスト』なの」
「そんなに貶されていると、逆に興味が湧くな」
王都についたら最初に「ウェイスト」に行くことにしよう。
「最初のダンジョンは『ウェイスト』にしようと思うがみんなはそれでいいか?」
「「もちろんなの」です」
「いいよ~」
決まりだな。
◇◇◇
七時になる前に、フォトーシスに着いた。
十メートルはある巨大な城壁を通ると、石畳によってきれいに舗装された街並みがハヤト達を出迎えた。
今まで訪れた街ではほとんど見られなかった二階建ての建物が結構ある。
ただ、
「なんか狭くないか?」
正面から右に視線をずらした先に反対側の城壁が見える。
城壁がそこだけ内側に張り出しているのだろうか。
「ああ、あれは街の内側ですよ」
「内側?」
「ええ、フォトーシスは徐々に大きくなっていますから、あそこに見えるのは一昔前の城壁です」
「へぇそんなに古いのがまだ残っているのか」
「いえ、五年ほど前の城壁ですよ、あれは。『アース』から良質の石材が無限にとれますし、建設はその……奴隷を使いますから」
一瞬クロネたちを見るホーク。
短い付き合いではあるが、俺がクロネ達をかなり丁寧に扱っていることは知っているから躊躇ったのだろう。
「勘違いしないで欲しいが、俺は別に奴隷制反対派の人間ではないからな。まあ、賛成もしかねるが」
こっちの世界に来てしばらく経ち、やはり奴隷というものについて反対している者もある程度いることを知った。
ただ、低賃金の労働者のおかげで自身の生活が成り立っていることを市民は理解しているから、解放運動などは起きないそうだ。
ホークさんから護衛料を受け取り、ギルドに預けに行く。
ギルドには手前に椅子とテーブルが並んだ酒場があり、奥に受付があった。
酒場には昼間から飲んだくれている冒険者がいた。
出来るだけ近くを通らないようにして窓口の方に行く。
大都市のギルドだけあって窓口の数が多い。俺は童顔の美人がいる窓口進み、預金を頼んだ。
アサートスクリーンを提示する時に、ランクが4になっていることに気がついた。
「あ、ランクが上がってる」
「へぇ、おめでとうございます!」
窓口の人は、軽く手を叩いて称えてくれた。
「となると、一流の冒険者ですね!」
「ん? ランク5が一流じゃないのか?」
「ランク5なんてそうそうなれませんよ」
へぇそうなのか。
「神様も厳しいですよね~」
これは、ランクが実力に応じて勝手に上がるのは、神様が行いを見ているからだと信じられている故の発言だろう。
俺は、ズルは認めないと言っていたフレイの言葉を思い出し、頷いた。
それからいい宿を教えてもらってギルドを出た。
大都市だからさすがに宿が空いていないのか、いつもの宿より割高だったが、代わりに宿泊期間によって料金が安くなるようだったから二週間分前払いしておいた。
「さて、今日はゆっくり休んで明日からダンジョンに潜るぞ!」
「はいなのです!」「はいなの」「はーい」
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