第104話「お願い②」
「その……お、大きくなったらハヤトさんのお嫁さんにしてください!」
「………………へ? お嫁さん?」
全く予想のしていなかった言葉だった。
ハヤトはそこまで好かれるようなことをした覚えがなかったが、魔物に攫われ、拘束されながら恐ろしい夜を過ごした恐怖を拭いさるほどの安心感を与えていたのだ。
信頼とあこがれの気持ちが生まれるのはむしろ当然のことだった。
疑問に思いつつもハヤトは、小さい女の子に一度は言われたい言葉に感謝・興奮し、ルーの言葉を忘れないように心に刻みつけておく。
そしてルーに対する返答は、
「ルーちゃんが結婚できる歳になっても、まだ同じ思いだったらな」
無難な言葉に止めた。
幼女は好きだが、好きだからこそ間に受けるわけにはいかない。
「やった! 約束だよ!」
嬉しそうに笑うルー。
ちなみに、後で知ったがこの国では、結婚は男女とも十四歳からとされている。
その時、袖がグイグイと引っ張られた。
「ククラもマスターのお嫁さんになる!」
(俺、今日死ぬのかな)
一日に二回も幼女から結婚したいと言われて幸せいっぱいな状態だ。本当に幸福量保存の法則があったとしたら死ぬ以外釣り合わないだろうと本気で考えた。
(いや死んでも悔いは——ダメだ、俺には守るべき幼女がいるんだ、死ぬわけにはいかない)
何があってもクロネたちが大人になるまで死ぬものかと決意をした。唐突な決断だった。
ひとまずククラの言葉もしっかり記憶して、厳重に保管する。
ルーはと言うと、驚いてはいたが、すぐに微笑ましそうな笑みを浮かべた。
ハヤトはそこに、母性の片鱗を感じていた。
お嫁さんという言葉を、割と間に受けていたハヤトである。
「大きくなったら一緒にお嫁さんだね」
(おいおいそれ二股じゃないか)
ついつい苦笑になる。
しかし、斬新な提案はククラも負けていない。
「今結婚するー!」
心が一瞬揺れる。だが真に幼女を想っているからこそ彼女の未来を思えば避けなければならない。
「ククラは小さいからまだ結婚出来ないんだぞ」
何より法的にまずい。
この世界でも結婚できる年齢は定められているはずだ。
法律を守って、清く正しくロリコンしましょう。
法を破った者は、ロリコンじゃなく変質者なのだ。
「やだやだ、今結婚する!」
しかし、ククラが珍しくごねた。
(ここでごねるのか⁉︎)
ハヤトは、口元が緩みそうになるのを必死になって抑える。
このまま頑固になってしまう前になんとか解決せねば。
「ククラは、どうしてそうしたいと思ったんだ?」
幼女も幼女で、ごねるからにはそれなりの理由があるのだと、ハヤトは思っている。
それを聞いてやると案外素直に言うことを聞いてくれる。
頭ごなしにダメというのは良くない。
ハヤトの場合、幼女を束縛したり怒ったりするのが嫌という理由もあったが。
「マスターのことが好きだもん。お嫁さんは、お婿さんとずっと一緒だもん」
ああ、なるほど、一緒にいたいからか。
「俺は、ククラを妹のように思ってるけど、それじゃダメか?」
「最後まで一緒なのは、お嫁さんだもん!」
クロネがピクリと反応したことに気づいた者はいなかった。
「俺はククラの操者だから、ずっと一緒だぞ?」
繰糸契約の指輪は死ぬまで取れないのだ。
「ほんと?」
「ああ」
「にひー」
理由には少し弱いかと思ったが、ククラは満足したようだった。
くっついてきたククラの頭を撫でる。
「もう! ハヤトさんククラばっかり!」
ルーがやきもちを焼いて俺の背中に覆いかぶさってきた。
まあ、俺はククラの保護者みたいなもんだからな。ククラたちを優先してしまうのは許してほしい。
その後、甘えたいのを我慢して半泣きになっていたクロネのために急いで宿に戻った。
感想・ご意見・誤字脱字などなど随時受け付け中!
気軽に書き込んで行ってください!
できる限りコメント返します
ブックマークもお願いします!