小話「ハヤトお兄ちゃん(3/3)」
次話更新は明朝7時です
「そういえば、髪、洗っていい?」
ご主人様が唐突に訪ねてきました。
「え? は、はいどうぞ。」
なんで聞かれたのか分かりませんでしたが、聞かれたからには答えなければダメです。
川は向こうですよ、と言いかけて、ご主人様が「ウォッシュ」と呟いたかと思うと、突如頭にひんやりしたものが触れました。
「ひやああああああああ⁉︎」
なになに、何が起こったの⁉︎
びっくりして、思わず叫んでしまいました。
「あんまり動くなよー。まだそこまで制御出来ないから」
わたしは、ご主人様が魔法を使ってわたしの髪を洗っていると理解しました。
(すごい! 魔法だ!)
魔法が二つ使えることはとってもすごいことで、本当ならそこに感動しないとダメなのですが、今は自分に魔法を使ってもらっているという興奮だけでいっぱいでした。
わたしは見たい気持ちを押さえ、されるがままになりました。
ああ、お水が冷たくて気持ちいい……
――これなら目障りな耳が見えねえな――
幸せを感じている時に限って嫌なことを思い出します。
そうです。わたしは亜人なのです。
このままでは亜人であることがばれてしまいます。
どうしようどうしようどうしよう!
亜人であることがわかったら、ご主人様に嫌われてしまいます!
殺されるならまだしも捨てられるかもしれません!
ご主人様に捨てられるくらいなら、死んだほうがましです!
そして時間切は唐突にやってきました。
わたしは俯きます。
「NEKOMIMI……」
ご主人様は何かを呟いて、わたしをじっと見ています。
わたしの耳をじっと見ています。
(はあ、結局言い出せないでばれちゃったな……)
(じっと見ているけど何を考えているのかな……)
(まあ、きっといいことではないんだろうな……)
わたしは沈んでいく気持ちの中、最後の抵抗に出ました。
「あのっ!」
「ど、どうした?」
「黙っていてごめんなさい!」
わたしは地に伏せて謝りました。
「なんでもするので捨てないでください!」
捨てられたくない!
わたしの頭の中はその思い出いっぱいでした。
「今、なんでもするって言ったよね?」
私は頷き返します。
「じゃあネコミミを触らせてくれ」
何をされるのかと思ってビクビクしていると、ご主人様の指が耳の裏に触れました。
「ひゃうぅ……」
くすぐったいですが、我慢です。
気持ちいいですが、我慢です。
顔が熱くなってきました。
するとご主人様は、今度は両手で耳を触り始めました。
「ひゃあぁ……はうぅ……」
ゾクゾクゾクっとむず痒さのようなものが身体を駆け巡ります。
膝に力が入らなくなってきました。
ダメです。もう堪えきれないよぅ……
「あ……」
とうとうふにゃぁ、と声をあげて腰から崩れ落ちてしまいました。
◇◇◇
その後、落ち着いたわたしは捨てないでくれますか?と聞いた。
「こんな可愛い子を捨てるなんて捨てるなんて、そんなことするわけないだろう」
かわいい……初めて言われました。
嘘と分かっていても、顔が熱くなります。
「耳、気持ち悪くないんですか?」
「なんで? いいじゃないか、ケモミミ」
「獣の耳ですよ?」
「それがいいんじゃないか」
「こんな歪な耳がですか?」
わたしは、なぜかムキになって聞きました。ああ、これは怒られるな、と思った矢先、
「しつこいな! 俺がいいって言ったらいいんだよ!」
ご主人様は声を荒げました。
わたしは何も言えなくなりました。
ご主人様が恐かったからではありません。
今までずっとダメだと思っていた耳。
自分でも気持ち悪いと思いながらも、どこかで自分の耳の何がいけないんだろうと思っていました。
心に空いた穴。
ご主人様の優しさが入ってきた時も、亜人であることによる不安が作った穴から、せっかくの気持ちが抜けて、決して満たされることはありませんでした。
(わたしの耳、変じゃないの?)
不安が消え、心の穴が塞がっていくのがわかります。
(わたしの耳を変じゃないと言ってくれる人がいる!)
わたしの心の荒野に温かい気持ちがむくむくと湧き水のように湧き上がってきます。
「歪だとか言うなよ。俺は、その耳可愛くて好きだよ」
気持ちが、溢れた。
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※4/24 ×KEMOMIMI→○NEKOMIMI