1話 月見ってもっと静かなものなんでは
「姉ちゃん姉ちゃん姉ちゃん」
「なになになに」
「中秋の名月って、何?」
「えっ。え、ええっとねー・・」
鳳林那沙美。高校2年。
この愛くるしくまだ幼い印象だがしっかりした体格の男子は、6つ年下の弟、鳳林幸洋だ。
只今、私たちは名月を写真で撮ろうと近くの裏山にいる。
中秋の名月とは何かと聞かれ非常に焦ってる。
「あれ?もしかして姉ちゃん知らねーの?」
「し、知ってるよ~?だって私6つも幸より生きてますから~」
「じゃあその片手に持ってるスマホはなーんだっと」
「あっっ」
不覚、弟の身長に越されてたんだった私。。
「えーっとなになに。中秋の名月とはー・・」
「ちょ、勝手に姉のスマホ見るとは・・おのれぇ」
中秋の名月、いわゆる月見と呼ばれる小さな行事に愛でる月のこと。
日本ではおもに、八月十五夜とされている。
旧暦8月中盤あたり今では9月の半ばで見られるもの。
普段より綺麗で大きく視える月を"スーパームーン"と呼ぶがその時期と重なる時が多い。
「ふーん、つまり都会じゃあんまり見れないってことだよな。」
「ん?どういうこと?」
「・・・はぁ」
ちょっとため息つかれたのが悔しかった。
幸洋いわく、都会は田舎と違って、星が視える量に限りがある。
だから星の輝きが小さいせいで月の綺麗さも霞んで見える。
「まあでも、こういうのがあるから日本は日本らしいと思うけど。」
「さすが幸ちゃん、私の弟だね~」
「姉ちゃんのショタコンには困ったもんだ」
「え~」
すりすりしようとしたけどそっぽ向かれた。
でも・・
可愛いんだもん!幸ちゃんモテモテらしいし!
チョコいっぱいもらって帰ってくること多いし!
それに・・・
「ちょっと寒くなってきたな。上着、貸すよ」
「ぬああああああああああやさすぃぃ!!」
「あ、それぐらいの暑さがあれば要らないな」
「ぐあっ」
そう、優しい。
なんだけど、引き際を見極めるのが上手というか、
年相応な感じじゃないんだよねぇ。
「おっ、ここいいな。写真撮っておこうぜ。」
「そうね、帰ったら団子食べながら現像しようかな」
平地より高い裏山でも、一番月が美しく見えるポイントに立つ。
足場はちょっと不安定だが、よほどのことがない限り転倒はしないでしょう。
一層輝きを増したタイミングを逃さないためにも、
愛用している一眼レフを掲げる。
「よー・・しここで・・」
ピントを合わせ、シャッターを押そうとしたその時。
けたたましい音と共に突風が吹き荒れた。
「きゃっ・・」
「姉ちゃん!」
体制を崩し、倒れかける、でも私は。
「こんな風に・・負けるか!」
カメラのレンズだけはしっかりと月を捉えていた。
とりあえず連写!
パシャ、パシャ、パシャ
「ふぅー・・ぬあ、ぬおおおおお!!?」
撮れた写真を確認しようとしたところで、自分の状態を知る。
「姉ちゃん・・とりあえず落ち着いて落ちろ」
「へ・・?」
「いいから。」
全然落ち着いてやる行動じゃない気が・・。
体制を立て直そうとするが、それ虚しく終わる。
再び風が吹き、私はカメラを手に持ったまま真っ逆さまに落ちていった。
私、弟のこと大好きだけど、
幸洋、私のこと嫌いなのか・・・・。落ちながら走馬灯を見た気がする。
「ああ、私、弟にまで見捨てられたんだ・・・」
落下するとはいえ、さほど早く感じられなかった。
ゆっくり、そして。
『そなたのような娘、まだ死する時ではない』
どこからともなく聞こえた声。
暖かく、優しい。そしてゆっくりその声が近づいてくる。
『まだ、見捨てられたわけでは、ないのではないか?』
「・・え・・・?」
体がふわっと浮かび、そのままゆっくり地面に降り立つ。
「え。え。」
目の前にいる人がなんか助けてくれたっぽいけど
「こ、コスプレですかそれ・・・?」
答えを聞く間もなく、あの弟の声が。
「姉ちゃ~ん!大丈夫か~?」
「幸洋ぉぉ!!!」
君って子はなんてことを!!私ホントに死ぬかと思ったのに!!
「まあまあ落ち着け。これも計算あってのことだよ」
「・・・・・ぜんっぜん落ち着けられない。」
聡明で物知りな弟小5が言うには
『足場が不安定なところで体制を崩した姉ちゃんを変に助けるより、
一旦落ちてから助けに行ったほうが早いし、何より道連れなんて真っ平御免被る』
恐ろしい子・・・!!
一歩間違ってたら死んでたよアレ!!
てか普通確実に死ぬよねアレ!?
「・・で?怪我はない?」
「うん・・・」
中途半端に優しくされると憎むのも憎めなくなる。
ってか。
「あ! さっきの人・・は・・・あれ?」
「姉ちゃん?」
「あ、ああうん・・。さっき精霊さんみたいに助けてくれた人が居たんだけど消えた・・?」
体がふわって浮いて、声がしてー・・
「走馬灯でも見たか。まあ運が良くて何より何より。」
この・・っ サディストなのかコイツ・・・!
「普通これって殺人未遂じゃないの・・・」
「え?俺が姉ちゃんを殺す?何言ってんの。馬鹿なのアホなのどっちなの」
「だってー・・」
「姉ちゃんを殺して手を汚すなんて絶対やだね、死んでもやだ。」
「それはどういう意味で・・・」
「かっこ意味深~・・」
最近どんどんかっこよくなっていく。
でもやっぱりかわいい。
でも。
「そのサディスト系な感じ、誰の血なんだろう・・」
「さーね。兄ちゃんじゃね。」
「え、兄ちゃんは幸ちゃんのこと産んでないじゃん。」
「やっぱ姉ちゃん馬鹿だね。」
「一度ならず二度までもいうかー。さすがにお姉ちゃん泣くよー。」
傷つきすぎて涙も出やしない・・。
「はー・・・。んもう、そんな顔すんなし。」
「ううだってーーーー」
ほっぺたつねられて、口を尖らせる私。
「悪かったよ、いじめすぎた」
「やっぱりいじめてたのかコンニャロー」
はあ・・・・。なんなんだ。。
この年頃はめんどくさいのねぇ。
ま、いっか。
無事に写真撮れたし・・・撮れたのか???
「っと、これとこれが平地で、こっちが・・」
月に何か写ってる・・?
数枚撮ったものを順に見ると、
「「人・・?」」
「もしかして・・さっきの人。」
「まさか。そんなことあるわけないない。」
「月からの使者!!??」
「。」
弟から引っ張られるように裏山を後にした。
今回は弟の回でしたね。いやー、弟欲しい!しっかりした弟欲しい!
作中、兄ちゃんが出てきますが、おそらく近々出す予定。
そしてその例の人物は、次ぐらいにしっかり出てくる・・予定。