楽園
初投稿です。
文章力はほぼ皆無に等しいです。。
目を覚ますと、そこには砂しかなかった。
その砂の中で、ぼくは眠っていた。
そんな寝ているぼくの顔を覗き込んでいる少女がいた。
ぼくは身体を起こす。
「目、覚めた?」
「うん」
小鳥のさえずりのような声だった。
そして、ぼくは少女にたずねた。
「ねぇ」
「なに?」
「ぼくは誰?」
「あなたは、何も覚えていないの?」
「うん。自分がどうしてこんなとこにいるのかも」
「自分の名前も?」
「親のことも、なんにも」
ぼくは困ったように首を振る。
少女は、笑顔だった。
「大丈夫。安心して」
少女が手を差し伸べる。
ぼくはその手を借りて立ち上がる。
「いいとこに、連れて行ってあげる」
一面、砂。
見渡す限り、砂。
これを砂漠というのだと、きみは教えてくれた。
「ねぇ」
「なに?」
「いいとこって、どこ?」
「ヒミツ」
ぼくらは手を繋いで歩く。
砂に足を持って行かれないように、用心深く。
「きみは、知ってる?」
「なにを?」
「ぼくのお母さんがいるところ」
きみは、足を止めた。
少し、砂に足がめり込む。
「…会いに、行きたい?」
「うん」
「…お母さんが、どんな姿だったとしても?」
「うん」
「じゃあ、連れて行ってあげる」
「いいの?」
「いいとこに行く途中に、いるから。行こう」
「うん」
ぼくらはふたたび歩き出す。
喉が、からからになった。
「それは喉が渇いたって言うんだよ」
そう言って、きみは水をくれた。
口に含むと、全身が冷えていくのがわかった。
「水って、すごいね」
そう言うと、きみは笑った。
つられて、ぼくも笑った。
たのしかった。
ずっと、こんな時が続けばいいのに。
「ねぇ」
「なに?」
「きみはずっと、ぼくのとなりにいてくれる?」
「いてほしい?」
「うん」
「じゃあ、いるよ」
「本当に?」
「うん」
「本当の本当に?」
「うん」
きみは、強くぼくの手を握った。
「約束だね」
「約束?」
「うん。約束をしたら、それをやぶるのは絶対に無理なの」
「それが、約束?」
「うん」
「わかった。約束」
「ずっと、いっしょ。」
「ずっと、いっしょ。」
うれしかった。
きみも笑って、ぼくも笑って。
「ねぇ」
「なに?」
「これを、シアワセって言うのかな」
「そうだよ」
「そっか。じゃあ」
ぼくは、シアワセ者なんだ。
「太陽が、真上に来てるね」
「いっぱい歩いたもんね」
だけど、一面の砂景色は変わらなかった。
「大丈夫。日が暮れるまでには着くよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「お母さんにも、会える?」
「うん」
きみは笑った。
だけど、今のこの笑顔はあまり好きじゃなかった。
なんでだろう。
「ねぇ」
「なに?」
「後ろに、誰かいるね」
ぼくは振り返って後ろを指差す。
「あの人も、いいとこに向かってるのかな」
きみの顔を覗き込む。
きみの顔は、とても青ざめていた。
「…駄目」
「え?」
きみはいきなり、ぼくの手を引っ張って走り出す。
「あの人たちを、いいとこに連れて行っちゃいけない」
「どうして?」
砂に足をとられそうになりながら、走る。
「あの人たちにとっては、わるいところだから」
きみは、すごく必死だった。
だけど、ぼくらが走ると、あの人たちも走り出した。
「早く」
「うん」
「早く!」
ぼくらは一生懸命走った。
だけど、あの人たちは大人だったから。
子供のぼくらはあっという間につかまった。
「楽園はどこだ」
一番強そうな男が、きみのキレイな髪を引っ張ってたずねる。
それが許せなくて、ぼくを捕まえる男を振り払ってきみのもとへ駆けた。
「放せ!」
ぼくは、その男にとにかくしがみつく。
だけど、ぼくは男の隣にいた人に蹴られて、無様に転がる。
また、捕まってしまった。
「やめて!」
きみが、叫んだ。
「その子を傷付けちゃ駄目!」
「そうか」
男はぼくを無理やり立たせ、ニヤリと笑う。
「ならば、楽園まで案内してもらおう」
きみは、5人くらいの大人に囲まれて歩いた。
その後ろで、ぼくは男に腕を引っ張られながら歩く。
「まだ着かないのか?」
「あと、少しです」
きみが怯えるように答える。
それから、同じ様なやり取りを3回くらいやった。
すると、きみの答えが変わった。
「まだ着かないのか?」
「もう、すぐそこです」
君は正面を指差す。
そこには、この砂漠には似合わない大きな大きな樹があった。
その樹のからだはぽっかりと穴が空いていて、奥に入れそうだった。
「ここが、楽園の入り口か?」
「はい。でも気を付けてください」
「なにをだ?」
男が顔をしかめる。
「楽園へ入るお許しを決めるのは、この樹だということを」
「そんなもの」
男は鼻で笑う。
ぼくを放り出し、大人たちは樹のからだの穴に向かって歩き出す。
「ねぇ」
「……」
「ねぇ」
「……」
君は、言葉を返してくれなかった。
代わりに、ぼくの手を引いて歩き出した。
大人たちのあとに続いて。
「ねぇ」
「なに?」
「ここはどこ?」
足に砂の地面が無い。
何もない。
ふわふわ、浮いてる。
君が手を放せば、僕の身体は飛んでいってしまいそうだ。
見えるのは、淡い緑色。
「いいとこに入る門よ」
「お母さんは?」
「そろそろ、会えるよ」
足に、堅い地面がつく。
「行こ」
「うん」
「あれ?」
ぼくは、また砂漠に立っていた。
1つ違うのは、家があるとこ。
1つ違うのは、きみがいないこと。
屋根は風で吹いてきた砂にまみれていた。
なんだろ。
初めて見た町なのに、初めてじゃない。
ぼくは、近くの家に入る。
そこには、ある幸せそうな家族がいた。
みんな笑っていて、たのしそうだった。
だけど、扉の前に立つぼくの後ろに人が現れた。
とても怖そうな武器を持っていて、怯えた家族にそれを近付ける。
そして、その人は指にかかる引き金を引いた。
そして、家族みんな殺され、
た。
「思い出したよ。」
そう、ぼくは呟いた。
ぼくの家族は。
こうやって、殺された。
誰もいなくなった、この家。
血を撒き散らして倒れた家族も、いない。
ぼくは、砂からのぞく白い物を持ち上げる。
それは、骨だけになった頭。
これが、ぼくのお母さんです。
「お母さん」
ぼくは、それをギュッと抱きしめる。
戦いに、のみこまれたこの町。
逃げ出してきたぼくは、この町のすぐ近くで倒れた。
目を開けたら、なにも覚えていなくて、きみがいた。
そして、今………………。
「うわぁあぁぁあぁっ!?」
遠くで、さっきの大人たちの悲鳴が聞こえてきた。
「あの人たちは、お許しをもらえなかった」
周りはまた緑色に染まっていて、隣には君もいた。
「思い出しちゃった?」
ぼくはうなずく。
「でも、平気だよ」
「うん。よかった」
きみは、ぼくを連れて歩く。
その先にあったのは、全く同じ大きな大きな樹。
「きみなら、きっと大丈夫なはず」
「お許しもらえなかったら、死んじゃう?」
「残念だけど」
「きみも行くよね」
「うん」
「なら、怖くないよ」
「うん、そっか」
ぼくは、樹の穴に足を踏み込んだ。
すると、強い光がぼくの目を焼き尽くした。
風が、ぼくの頬をなでる。
草が、横たわるぼくを包み込んでくれた。
右手を、きみが握ってくれている。
でも、見えない。
なにも見えない。
だって、ぼくはいいとこに行く代わりに目を支払ったから。
「門番は、きみを選んだ」
でも、ときみは続ける。
「簡単には入らせてくれなかった」
「うん」
「…ごめんね」
「どうして謝るの?」
ぼくは、隣にいるであろうきみに笑いかける。
「だって、きみは約束通り隣にいてくれてる」
きみの温かい手を強く握る。
「だけど、やっぱりぼくは選ばれてなんかなかったんだ」
見えないけど分かるんだ。
自分の足が、光に変化していっていることが。
その光は空高く舞い上がり、そして、
消える。
「行かないで」
きみが、震える声で呟いた。
「大丈夫だよ」
きみを握るぼくの手は、すでに光となり、消えていた。
「きっと、また会えるから」
なんの根拠もないこの言葉。
信じられないはずの言葉なのに、
きみは、信じてくれた。
「そしたら、今度こそ、
ずっと、一緒だよ?」
一瞬だけ世界を見ることを許された瞳。
そこには涙を流すきみがいて、
だけど、その顔は微笑んでいて、
ぼくへの別れの言葉を告げた。
それは「サヨナラ」じゃなくて、
「またね」
だった。
目を覚ますと、そこには砂しかなかった。
その砂の中で、ぼくは眠っていた。
そんな寝ているぼくの顔を覗き込んでいる少女がいた。
ぼくは身体を起こす。
「目、覚めた?」