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きっとどこかに  作者:
20/20

ありふれた物語を贈ろう

11月3日。

「寂しくなるわねえ、本当に」

「そうね。でも、たまには帰ってくるから」

母さんが由佳のおばさんと話し込んでいる横で、俺たちも別れを向かえていた。

「今までありがとう・・・京一くん」

「・・・ああ」

「あのね、京一くん」

由佳は微笑んで言う。

「私ね、好きになったのが京一くんで良かったって、そう思うの」

吹っ切れた、わけじゃないんだろう。ただ、俺が未練を残さないように。

「今まで想い続けることが出来て・・・本当に良かった」

俺も好きだったよ、なんて今言ってもどうにもならない。それはとうに昔の、終わった話なのだから。

その代わりに、ポケットからあのときの約束を取り出す。

「これ・・・返した方が、いいか?」

由佳はゆっくりと首を振って笑った。

「これを渡したら、プロポーズしたことになっちゃうよ?いいの、京一くん?」

「・・・いや」

「・・・ごめん、ちょっと意地悪だったね。それは、京一くんの好きにして」

生まれ育った町を懐かしむように、由佳は空を仰ぐ。

「私、聖陽学園に受かったら一人暮らししようと思ってるの」

「え?」

「この町から通った方が便もいいし・・・だから春になったら、また会えるね」

「・・・そうか」

やっと、昔みたいにお互いちゃんと笑えた気がした。

▽▽▽

ふと顔を上げると、三日月が夜空に浮かんでいた。

キイ、キイという周期的な金属音が右側から響く。

「―もうすぐ、春だな」

ブランコをこぎながら、森咲は言った。

「・・・そうだな」

由佳が無事聖陽に受かったという連絡は、既にもらっていた。森咲の携帯にもメールが届いていたらしい。

「・・・お前、洸琳(こうりん)へ行かなくて本当に良かったのか?」

「何だよ今更。いいって言ったろ、何度も」

森咲は洸琳高校のスポーツ推薦を蹴って、聖陽学園を受験した。ちなみに俺は地元の公立高校だ。

「聖陽だってサッカーは強いよ。それに・・・あたしはユカが好きだからさ」

ブランコから飛び降りる。

「借りがあるからって引け目に感じてたら、いつまでもお互い遠慮したままだろ。それが嫌だって思えるくらいには、あたしらは繫がってる」

「・・・そうか」

「京ひとりのために終わらせるのも癪だしな」

「あーそうかよ」

この半年で、全面的に俺が悪いということを完全に理解したらしい。

「っていうかさ、今ふと思ったんだけど」

「ん?」

「あたし結婚したら“あやな あやな”になんじゃん」

「そういやそうだな。別に、苗字はどっちのでもいいんだろ?」

「や、そうだけどさ・・・」

っていうかなんで結婚を前提に話が進んでるんだ。

「ま、京にプロポーズする度胸があったらの話だけどなー」

「ないってのかよ」

「だってあの時だって告白したのあたしだし」

「あれは告白と言っていいのか今でも疑問だがな」

完全に勢いだっただろうが。

「・・・ちょっと、そこで待ってろ」

「何だよいきなり?」

「いいから」

訝しむ森咲を残してある物を探す。何だ、意外とあるもんだな。

「―まだか~?」

「もうちょっとだから待てっての」

それを持って森咲の前に立ち、左手をとる。

「・・・今は、これで我慢しろ」

名前も知らない白い花を編んだ指環を、薬指へ嵌めた。

「・・・なんか、ぴったりなんだけど」

「そりゃあお前用だからな」

「指のサイズ知ってたのか?って、あたしも知らないものを知ってるわけねーか」

ぴったりなのはこの指環がちゃんと意味を成しているからなんだろう。あの指環が合わなかったのはきっと、それが使われることはないとあらかじめ暗示していたからで。

「今は、そんなもんしかやれないけどさ」

それでも、いつかは。

「いつかちゃんと、本物の指環を贈れるようになるから」

「・・・うん」



誰かの脳の片隅にある、苦い初恋の約束。

あなたの記憶の中にある、甘い恋の印。


これはきっと、誰の胸にもあるありふれた物語―


ひらめです。起承転結の転の部分が好きで、よく起・転・結の順で思いつき承を適当に埋めていく形で話を作っています。今回、転でやりたかったのはヒロインの交代なんですが・・・上手くできた自信はない。要は、当初のヒロインと結ばれない話がやりたかったと。

この話は私の恋愛モノの原点です。中三時にそういえば恋愛モノって好きなのに自分で書いたことはないなあ、と思って妄想し出したら止まらなくなって3時までぶっ通しでオチまで思いついてしまった話。キャラ設定をちゃんとしようと思い立ち真面目に作ったところ、オチがしっくりこなくなってしまってここまで悩み続けるはめになりました(放置した、とも言う)。いい加減書かないとなあ、と思ったはいいもののやっぱりオチは思いつかず。結局、“書きながら考えよう!”というあまりに適当な結論に至りこんなことに。ちなみにオチは当初のものとほとんど変わってません。つまりしっくりきていないorz

モリも京一もユカに対して引け目があって、だからきっと告白は出来ないだろうというのが私の結論です。でもそのまま終わらせても収まりが悪いし、だったら勢いで告白させるしかないかなあと。でもやっぱり、他にやり方があったんじゃないかなあと少し悔しい思いです。

個人的にユカが大好きでした。結ばれないのが惜しくてなりません。でも彼女にもちゃんとハッピーエンドを用意してますのでいずれ。っていうかあらゆるキャラに裏話があるので語りたい。


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