絶対におかしい
「絢南、頼むよ」
「・・・いいよ、わかった」
「サンキュー!助かった!」
俺は内心溜息をついた。代理とはいえ実行委員を任されてしまうとは。
もともとはちゃんと決まっていた奴がいたのだが、足を折ったとなれば仕方がない。
「明日の放課後、3-4の教室で打ち合わせだから」
そう言い残して彼は松葉杖をつきつつ帰っていった。
HRを終えて4組に向かうと、すでにほとんどの席が埋まっていた。前の方に短い黒髪を見つけて、そういえばあいつも実行委員だったかと思い当たる。
打ち合わせは競技ごとのラインの確認とその他用具の係決めだった。解散になって顔を上げると、振り返った森咲と目が合った。
「よう、森咲」
「・・・おう」
返事は返ってきたが、視線はすっと外される。
「・・・何かあったか?」
「いや、別に・・・」
「・・・そうか」
心なしか元気もないようだ、と思いかけて、そういえば由佳も夏休み以来ずっと元気がなかったな、と気付いた。
「・・・お前、由佳と喧嘩でもしたか?」
「・・・いや?何で」
「なんか、由佳も最近元気ないからさ」
そう言うと森咲ははっとしたように息を止めて、そして唇を噛んだ。
「喧嘩は・・・してねーよ」
とてもそんな風には見えない。やっぱり何かある、とさらに踏み込もうとした時、
「―アヤー、ちょっとリレーのことで相談があるんだけど!」
「分かった今行く!・・・悪い、もう行くから」
「あ、おい・・・!」
森咲はそのままクラスへ戻っていってしまった。
「―由佳、森咲と喧嘩でもしたのか?」
帰り道、由佳にもそう尋ねてみた。
「・・・してないよ」
「でも、なんかずっと元気ないし・・・」
「ありがとう、心配してくれて。・・・でも、気持ちだけで充分だから」
そう言って由佳は微笑んだ。
体育祭が終わって、実行委員は各々片付けに入る。
用具の入った段ボールを奪うと、森咲は驚いたように目を見開いた。
「―なあ、やっぱり何かあったんだろ?」
「またその話かよ・・・。何も、ないよ」
「嘘吐け。絶対おかしいぞお前ら」
「・・・京に言ったって仕方ねーし」
そう言われると踏み込めなくなる自分が悔しい。
でも、あんなに仲の良かった二人がこんな風でいるのはどうしても見過ごせなかった。
「・・・言いたくないなら、別にいい。けど・・・俺は、お前がそんな顔をしてるのは見てられないから」
「・・・クッサいことばっか言ってんなよ、バーカ」
森咲はとても複雑そうな表情をして、そして少し笑った。