有沢鈴
無口で無表情で、でも無感情じゃない。
夕ちゃんの想い人、清川朱音ちゃんを一言で表すなら、多分これが一番しっくりくる。
夕ちゃんの双子の妹として生まれたわたし、有沢鈴は、夕ちゃんが大好きな所謂シスコンだ。
夕ちゃんが幸せなら、それはわたしの幸せでもある。
だから、わたしは夕ちゃんの恋を誰よりも応援している。つもり……。
「中々上手くいかないのよね……朱音ちゃん、そういう感情にはとんと鈍いから」
誰が見てもあからさまな程なのに……まあ、朱音ちゃんに恋愛感情を持っていた人が、告白するよりも前に風音ちゃんにやられてたから、無理もないけど……わたしに負けず劣らず、風音ちゃんもシスコンだからね……禁断症状が出る程なんだもん。
中学の時、修学旅行ではそれで一騒動あったらしいし。
聞いた話では二日目からそれが出たらしく、終始「朱音ちゃん朱音ちゃん」と呟いていたとか……一日二時間は朱音ちゃんに触れていないと生けない風音ちゃんが、計六時間も触れられなかったんだから、当たり前と言えば当たり前だけど。
朱音ちゃんを好きになるというのは、これまで彼女に恋愛感情を抱いた人達が考えるよりも、遙かに大変だ。
彼女に近付く前に、まずわたし達がそれを許さないから……特に夕ちゃんと風音ちゃん。
二人の壁を越えるのは至難の業だろう。
ベッドに寝転がり、二人が言っていた言葉を思い出す。
夕ちゃん曰く――アンタにとって一番大事なモノは?
風音ちゃん曰く――君にとって一番大事なモノは?
その問いに答え、且つそれが正しくなければ、朱音ちゃんに近付くことは許されない。
いや――わたし達が許さない。
その壁を越えたことがあるのは、未だたった一人だけ。
正しく且つ、それ以上ない答。
それはたった一言で、十分なモノ。
「『自分』」
そう答えれば、二人の壁は越えることが出来る。
過去に起こった事件から、朱音ちゃんの周りにいるわたし達にとって、それは暗黙の了解となった。
自分を大事にしないと、それは朱音ちゃんを悲しませることになるだけだから。
さっき、朱音ちゃんは恋愛感情には鈍いと言ったけど、それ以外のことに関しては、とても鋭い。
わたし達本人が気付かないことでも、朱音ちゃんは気付く。
わたしでも気付けなかった夕ちゃんの体調に気付いた時は、悔しさもあったな……。
まあ、とにかく。
朱音ちゃんはそう言った所に関しては鋭いんだよね。
「……夕ちゃんの恋が実るのは、いつになることやら」
呟いて起き上がり、部屋を出るとそこには、夕食が出来たことを知らせに来た夕ちゃん。
くすりと、小さく笑い合って、わたし達は下に降りた。
「応援してるからね」
「何か言った?」
「なんでもな~い」
「?」
首を傾げる夕ちゃんを、可愛いなと思いながら。