表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

清川朱音

 皆さんこんにちは。

 清川朱音です。

 さて、今わたしはお家の自室でおねえちゃんに抱きつかれながら本を読んでいます。

 おねえちゃん、あったかいです。

 おねえちゃんは、一日に二時間以上はわたしにくっついていないと禁断症状がでるのでこうしていますが、わたしもおねえちゃんとくっついているのは好きです。

 こころがポカポカします。

 そう言えば、ここ数日は色々ありました。

 おねえちゃんと紗奈ちゃんと友ちゃんが血を吐いて倒れたり、静香ちゃんから電話があったり、お父さんとお母さんからあったかいメールが来たり、周防さんのお手伝いをしたり、夕ちゃん、鈴ちゃんとお食事したり、ゲーム作りに悩んでいる人に少しアイディアを出したり、陣くんとファミレスでお食事したり。

 みんなと過ごす時間は、とても楽しいです。

「朱音、もうすぐ二時間経つけど、まだくっついてて良い?」

 ずっとくっついてて良い。

 そう思いながら、おねえちゃんを見ると、ふにゃりと頬笑みながら頷いて、お腹に回されている腕に少し力が込められた。

 服越しだけど、お姉ちゃんの体温をより感じられる様になった。

 やっぱりあったかい。

 その後、おねえちゃんは三時間程経って、一応満足したのか「よし」と言って離れた。

 残念。

 それから、一緒に夕飯の準備をしたり、お風呂に入ったり、トランプをしたりして過ごし、一緒にベッドに入った。

「朱音。お休みなさい」

 こくりと頷くと、おねえちゃんはまたふにゃりと笑って、わたしを胸に抱き寄せた。

 わたしも背中に手を回す。

 とくん、とくん……と、おねえちゃんの鼓動が聞こえて、心地良い。

「私も朱音も……ずっと、甘えん坊だね」

 囁くように呟かれたその言葉に同意する前に、わたしは眠りに落ちた。



 四月二十六日、木曜日。

 今日は校内の不思議を探そうと思います。

 集会など以外、授業には出なくて良いと校長先生から言われているので、わたしは朝のSHR以外で教室に入ることはありません。

 毎日桜をボォ~ッと眺めたり、太めの枝の上に乗ってお昼寝したり、図書館で本を読んだりしていましたが、本はもう殆ど呼んでしまったので、今日は探索です。

 何か面白い物、見つかると良いな……。


 まず来たのは裏庭。

 前はふらふら~と来ただけだから何も発見は無かったけど、何かあるかも知れない。

 と言うわけで探索を開始。

 倉庫の中や裏を見て、上に乗って探すけど、何も無い。

 次に、倉庫から借りたスコップで桜の根元を掘る。

 静香ちゃんから聞いた怖い話で、生首が埋まっていると聞いたことがある。

 でもそんな怖い物は出て来て欲しくないから、もっと普通の物が出て来て欲しいなぁ……。

 そう思いながら掘り進めていくと、スコップが何か固い物に当たった。

 周りを掘っていくと、出て来たのはアルミ製の箱。

 タイムカプセルかな?

 じゃあ、これはわたしが見ちゃいけないから、戻しておこう。

 持ち主さん達が来るまで、もう少し待っててね?

 箱を一撫でして、土を戻し、スコップを倉庫に返して、次にプールへ向かった。


 水が抜かれているプールって、結構深く見えるから不思議。

 あ、一つ見つかった。

 じゃあ、次、北校舎に行ってみよう。


 音楽室に入り、ピアノを見る。

 その瞬間、何もしていないのに鍵盤が鳴り始めた。

 トトト、と近付いてみても、やっぱり誰もいない。

 でも鍵盤はしっかり押されてる。

 不思議、二つ目。

 

 次に、空き教室。

 ドアを開けたら、何かに背中を押されて中に入らされた。

 背後で扉が閉まる音を聞きながら、教室を見回すと、暫くして中にある物がガタガタと音を立て始めた。

 でも、また暫くすると収まった。

 不思議、三つ目。

 押されたことも含めると、四つ目?


 次、体育倉庫。


 中に入って跳び箱に座ると、独りでに扉が閉まった。

 一応開けてみようとしたけど、やっぱり開かない。

 まあ、いいかな。と思って、また跳び箱に座る。

 不思議、五つ目。

 数十分経って、だんだん眠くなった所で、跳び箱がガタン、と大きく震えた。

 着地して見ると、まだ小刻みに震えている跳び箱が……一番上を開けて中を見ても、何も無かった。

 不思議、六つ目。

 それから暫くして、扉はまた独りでに開いた。

 次、怖い話の定番……だと思う生物室。


 昼間でカーテンが閉まっている訳でも無いのに、中は暗かった。

 人体模型や骸骨が、何故かダンスを踊っていた。

 面白い。

 不思議、七つ目。

 他にも何か無いかと思って、全部の机の下を見てみると、最後の机の下に小人さんがいた。

 コロポックル?

 手を振ってきたから、わたしも手を振り返して生物室から出た。

 不思議、八つ目。


 次はどこに行こうかな?


 静かな廊下を静かに歩きながら考え、屋上へ行こうと決めて、階段を上がって行く。

 屋上に出ると、ポカポカした陽気に包まれた。

 おねえちゃんみたい……。

 そう思いながら進むと、真ん中辺りに来た所で誰かに右手を握られた。

 でも、見ても誰もいない。

 お化けかな?

 なんて思っていると、手を引かれて進んでいって、あと一歩踏み出したら落ちる所まで来た所で止まった。

 そこから見える風景を、ケータイのカメラに収めて仕舞うと、更に手を引かれたから、足に力を込めた。

 それでも、お化け(?)はわたしを引っ張っている。

 道連れにしようとしてるのかな?

 成仏出来ないのかな?

 でも、だからって、誰かを連れて行こうとしちゃダメだよ。

 それに、わたしはまだ死にたくないし、死ねないの。

 わたしがいなくなったら、悲しむ人達がいるから……おねえちゃん達の悲しむ顔なんて、見たくないから。

 だから、まだそっちには行けない。

 でも――

「一緒にいることは出来るよ?」

 この世への未練が、解消されるまで。

 だから、一緒に生こう。

 きっと楽しいから。

 手を握っている力は、少しずつ緩んで、放れた。

 落ちないように、一歩後ろに下がると、何かが体の中に入ってきた様な、不思議な感じがした。

『騙されたと思って、暫く貴女に憑かせて貰うわ。よろしく、朱音……それから、ごめん』

 自分の口が勝手に動いて、自分の声でその言葉が紡がれた。

 一日に二回も喋ったのは初めてだ。

 そう言えば、この人の名前は何なんだろう?

 そう思ったら、頭の中に「帆乃咲桜ほのさきさくら」という名前が浮かんだ。

 この人の名前かな?

 暫くよろしく、桜さん。


 不思議、十つ目。


 お腹空いたし、食堂に行こう。

 何食べようかな?

 なんて考えていると、チャイムが鳴った。

 そう言えば、今何時間目が終わったんだろう?

 まあ、いいか。とりあえず屋上から出よう。

 扉を開けて屋上から出ると、そこにはおねえちゃんがいた。

 相変わらず早いなぁ……。

「不思議、沢山みつかったみたいだね?」

 頷くと、おねえちゃんは、わたしの目を見た。

 正確には、その奥にいるであろう桜さんを。

「朱音に何かしたら、その時はアンタが何であろうと、私は容赦しないから」

『肝に銘じておくわ』

「そう。なら良いわ。でも、朱音の口を勝手に動かすのも、これからはダメ」

 桜さんは、わたしの中で頷いた。

「朱音、食堂行くんでしょ? まだ、二時間目が終わった所だから、あんまり沢山食べちゃダメよ?」

 頷いて返すと、おねえちゃんはわたしの手を握って歩き始めた。

 

 食堂に着くと、そこには既に紗奈ちゃんもいた。

 二人と一緒に、あんパンを一つずつ買って、もむもむと食べる。

 食べ終わって、残りの時間をじゃんけんしたりして過ごして、鐘が鳴った所で、一緒に二人の教室まで行ってから、わたしはまた校内探索を再開した。


 その日は不思議はそれ以上見つからず、それからも見つかることは無かった。


 それから時間は流れて、七ヶ月後。

 夏休みは帰ってきたお父さんとお母さん、久しぶりに四人で過ごして、みんなも交えてバーベキューをして楽しかった。

 そして、十一月がもう少しで終わろうかという頃、学校に二人の転校生がやってきた。


 一人は、日本一周をして、編入試験でわたし同様全教科満点を取って、授業が免除された安藤静香ちゃん。

 もう一人は二年生で、アメリカから転校してきた人。名前はまだ知らない。


「まさか、霊に憑かれているとは思わなかったよ……。まったく、朱音は面白い娘だ」

 屋上の貯水タンクの所に並んで座っている静香ちゃんが言った。

 静香ちゃんも可愛い。

「いや、まあ、そう言ってくれるのは嬉しいが……面白いと言って、可愛いと返ってくるとは思わなかったよ」

 静香ちゃんがそう言った所で、ケータイが震えた。

 見てみると、それは知らない人の番号。

 とりあえず出て、確認する前にその人は言った。


『――出来たよ!!』


 と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ