落ち着け
高校生活真っ只中の1年生。
私は今、とても焦っている。
というのも、登校してきて真っ先に座る私の席の中に、ハートマークで封をされた手紙が入っていたからだ。
友達に打ち明けることもせず、授業中にコソコソと開けてみる。
誰が書いたかは分からないが、私と付き合って欲しいということだ。
そして、その心の中を打ち明けるために、放課後にとある部屋にきて欲しいともある。
その部屋が、この高校の歴史の一つ、体育館に同じほどの広大な敷地がある大倉庫だった。
その入り口で待っているという。
でも、この辺りには不良が溜まり場としているため、普通の生徒は近寄らない場所でもある。
私はそれを見た途端、手に汗がにじみ出るのを感じた。
「…それで、なんで私が出てくるのよ」
私が呼んだのは、友達の一人で、武術の心得があるという金内愛美と一緒に行くことになった。
ついでに、一緒に帰るはずだったらしい彼氏も連れて。
「だって、あの倉庫前だよ。何があるかわからないじゃない」
泣きそうな声でいうと、仕方ないと言った表情で、ため息一つついてから、私の前に立って歩いてくれた。
愛美の彼氏は、私の後ろをカバンの中を確認しながらついてくる。
一年先輩の彼氏だそうで、私も一緒になって勉強会を開いたこともある。
「ああ、やっときたんか」
大倉庫前にある階段に、このあたりの不良集団の長たちが10人近くいる。
いつもはケンカばかりでいがみあっているはずだけど、今日は仲良く同居しているようだ。
「やっとかぁ。祭りに華はつきもんやからなぁ」
その長たちは、私たちをぐるりと囲んだ。
「やけんど、男が邪魔やなぁ。いてこまそうか」
そこへ、愛美が震える私の肩をそっとつかんで言った。
「…先輩、すみませんけど、この娘、見といてもらえませんか」
「ああ、これ忘れ物だ」
先輩が愛美に渡したのは、未開封のお茶のペットボトルだった。
「愛美、危ないって…」
「大丈夫さ。あいつは強いから」
私を後ろから抱き寄せ、そのばにしゃがませた。
先輩はカバンをお腹で抱きかかえながら、私のすぐそばにしゃがんでいた。
「なあ、お前も俺たちと遊んでくれるのかい?」
不良の一人が愛美に言う。
「ウォーミングアップにもならないと思うけどね。もしも負けたら、私のこと、好きにしていいわよ」
「へぇーそりゃいい」
だが、軽口を言ったのはここまでだった。
相手は全員ナイフを持っていた。
その刃を見せびらかしながら、さらに続ける。
「今さら泣きいれたって、俺らは聞かねえからな」
そう言って、不良が愛美に同時に襲いかかる。
飛び出して行こうとする私を、先輩が抑えてくれる。
「愛美は大丈夫。言っただろ」
パンと破裂音が一回、さらに三回聞こえる。
不良らは、同時にその場に倒れた。
どうやら気絶しているらしい。
「な、言っただろ。大丈夫って」
ペットボトルを片手に、ケガ一つせずに、愛美はあっという間に4人倒した。
その目は、まるで鬼のようにも見えた。
「次は誰!」
愛美が叫ぶと、やけくそになった不良3人が一気に攻める。
それも順番に、その場から一歩も動かずに、あっという間に片付いた。
他の不良がいなくなると、学校へ連絡をいれるため、火災報知器のボタンを押した。
「まったく、大変だわ。制服洗濯しないと」
ホコリだらけになった制服をはたきながら、愛美は笑って私たちのところにきた。
「大丈夫?」
愛美の手に引っ張られて、やっと立ち上がる。
「さっきのって……」
「あれぐらいなら、全然問題ないよ。先輩も大丈夫そうで」
「俺の方が軽いノリじゃないか。もうちょっと心配してもいいだろ」
「どうせ先輩なんですから、大丈夫だろうと思いましたけど」
二人はそう言い合って、楽しそうだった。
「ところで、この人たちはどうするの」
「先生がもうすぐくるはずだから、先生たちに任せましょ」
私たちは、何があったか聞かれたくなかったから、すぐにカバンを持って撤収した。
翌日に、不良が教室にやってきて、愛美に土下座して謝っていた。
それをみた周りは、不思議そうな顔をしていたが、誰も何も言わなかった。
その日の帰り道、愛美に私は聞いてみた。
「昨日のあれって、一体どうしたの」
「うーん。わかんない。自然に体が動いちゃうのよね。まあ、私としては、こういったケンカは好きじゃないから、あまりしたくないんだけどね。あれは特別」
「じゃあ、私のために…?」
「そう言うことになるわね。いつかこの借り、返してくれるよね」
「もちろん!」
私はそう言ったら、すぐに言ってきた。
「じゃあさ、公民のノート貸して」
「それぐらいなら」
私はそういいながら、帰り道を家に向かってゆっくりと歩いた。