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みっしぃ  作者: 沙φ亜竜
澪音1
8/37

-7-

 翌、木曜日の放課後。

 ミーたちは、旧校舎二階の教室に集まっていた。当然ながら、昨日の作業の続きをするためだ。


 呼春は宣言どおりダンボールを持参していた。

 ダンボールは塗装したあと、貼り合わせてドームを組み立てる。

 今日の作業は結構大変そうだ。


 でも、昨日のメンバーの他に二名加わって人手も増えたわけだし、精いっぱい頑張ろう!

 ……そう、増えたのは二名。

 それはどういうことかというと……。


「うわぁ~、結構本格的なんだねぇ~! 綺麗~!」


 きゃ~きゃ~と黄色い声を上げてはしゃいでいるのは、水巻くんの妹の智羽(ちう)ちゃんだった。

 昨日、火野くんは家に帰ったあと、早速水巻くんに電話して事情を説明したらしい。

 そのとき、すぐ近くで妹の智羽ちゃんも話を聞いていたようで、「智羽も! 智羽も一緒に手伝う!」と駄々をこね始め、こうなったのだという。


 水巻くんは妹に甘い、と。メモメモ。


 というか、自分のことを「智羽」って名前で呼ぶのよね、この子。珍しい。

 マンガとかではよく見かけるけど、実際に見たのは初めてだわ。


「……自分のことを『ミー』って言う人のほうが、よっぽど珍しいよ……」


 そんなツッコミを入れてくる葉雪には、毎度おなじみ脳天チョップ。


 どうやら智羽ちゃんと思歌りんたちは、以前から顔見知りらしい。

 思歌りんたちがグループでどこかに遊びに行くときには、ついていったりすることも多いようだ。

 そんなメンバーだとわかっていたからこそ、智羽ちゃんは来たいと言ったのかもしれない。


 もっとも、ミーや葉雪、矛崎先生に対しても、初対面にもかかわらず躊躇なく喋っていたような気がするけど。

 さすがはフレンドリーな水巻くんの妹、といったところか。


 とにかく、ロングホームルームは明日なのだから、急いで準備しないと。


 今日はあらかじめわかっていたことだから、みんな遅くなると親に言ってはある。

 それでも、あまり遅くなりすぎたら問題になるだろう。


「智羽、お前、遊びじゃないんだから、ちゃんと手伝うんだぞ。邪魔なんてしたら承知しないからな?」

「わかってるよ~ぅ♪」


 今日から参加する身とはいえ、水巻くんも状況はしっかりと理解しているようで、はしゃぎ回る智羽ちゃんを注意していた。

 だけど智羽ちゃんは、全然わかってなさそうな笑顔を振りまき、教室内のダンボールや投影装置、星の飾りなどを興味深そうに眺めたりいじったりといった行動をやめはしなかった。


 水巻くんは兄としての威厳なし、と。メモメモ。


 智羽ちゃんは小学校五年生。遊び盛りだから仕方がないのかもしれないな。

 手伝いとしては心もとない気がするけど、追い返すのもかわいそうだよね。

 その思いは先生も同じようで、苦笑を浮かべながらも簡単な作業を指示し、「智羽ちゃん、頑張ってね」と応援の声を添えていた。



 ☆☆☆☆☆



「準備の手を止めてしまうことになって申し訳ありませんが、ちょっとお手洗いに行ってきますわね」


 そう言い残して、お嬢が教室を出る。

 作業に集中していて全然気にしていなかったけど、もう準備を始めてからかなりの時間が経っていた。


「少し休憩するか。今日はおにぎりと飲み物を用意してあるんだ。コンビニのだけどな」

「さすが先生! 用意がいいですね!」

「ははは、こういうときだけ……。調子がいいよなぁ、土浦は」

「……そういう奴だよな、思歌って」

「あっ、視言、ひっど~い!」


 ぼそっと軽いツッコミを入れた火野くんの首を、思歌りんが笑いながら締める。


「……し、死ぬ……」

「相変わらず、ふたりは仲がいいね~」

「ほんとだよね~! 思歌りん、もっとやれ~!」


 呼春とミーが囃し立てると、思歌りんは顔を真っ赤にして恥ずかしがる。


「べつに、私はっ!」


 恥ずかしがっている思歌りんをからかうのって、すごく楽しいわっ!


「……あの、火野くん、落ちそう……」


 おずおずとつぶやく葉雪。

 ふと我に返ると、その言葉どおり、火野くんは口からよだれを垂らし、まさに気を失う寸前だった。


 そのとき、ドアを開ける音が響く。


「ただいま戻りました~……あら?」


 トイレから戻ってきたお嬢の目の前には、ぐったりと倒れた火野くんに向かって必死に「大丈夫!?」と呼びかけるミーたち、という異様な光景が広がっているのだった。



 ☆☆☆☆☆



 火野くんはすぐに復活した。

 どうやら思歌りんと火野くんのあいだでは、こんなのは日常茶飯事らしい。


「……恋人の選択、間違ってるかも……」


 なんて葉雪の容赦ないツッコミを受けてしまった火野くんだったけど。


「……べつにいいだろ」


 と、思歌りんを完全に受け入れているような反応を示していた。

 それを聞いた思歌りんの嬉しそうな顔ったら、もう見ているこっちが恥ずかしいほどだった。


 そんなちょっとしたトラブルがあったりしつつも、準備のほうは着々と進んでいった。

 やっぱり男手が増えたことがよかったのかな。女子ばっかりじゃ、ドームの組み立てだって、もっと大変だっただろうし。


「というか、完全に僕たちに押しつけられてた気がするけどね、組み立て作業は」


 水巻くんのツッコミは、この際すっぱり無視するとしよう。


「うん、こんなもんだな~。みんな、ありがとう。お前らのおかげで、無事に準備も終わったよ~」


 矛崎先生がそう宣言する。

 時間的にも、おそらく十時過ぎくらいになっているはずだし、いい頃合いだろう。

 この教室は使われていないから、時計なんてなかったけど。


「それじゃあ、後片づけして帰ろっかね~」

「……うん、そうだね……」


 ミーの言葉に応えた葉雪の声は、すごく眠そうだった。

 あんた、高校生だっていうのに、こんな時間でもう眠いの? 小学生の智羽ちゃんですら、眠そうな目をしてはいるけど、頑張って起きてるのに。

 そう思いつつも、眠気がうつってしまったのか、ミーは思わずあくびをする。


 そんな、まどろんだ雰囲気が辺り包み込み始めていた、そのとき――。


「……あら? あれは、なにかしら」


 ふとドアのほうを指差して、お嬢が言った。


「お嬢、どうしたの?」

「今、ドアの向こうに、変な明かりが見えたような気がしましたの……」


 怯えたような目をしながら、そうつぶやくお嬢。

 お嬢がこんなに短く会話を切るなんて! これは異常事態だわっ!


「……驚くところがちょっとずれてるよ、澪音……」


 眠くてもツッコミは入れるのね、葉雪。

 それはともかく、ミーは素早くドアを開ける。

 お嬢の言ったような変な明かりは、とくに見えない。廊下を挟んだ窓ガラスの向こうには、ただ夜の闇が広がるのみ。


「見間違いじゃないの?」

「ですが、光が下から浮き上がってきて、そしてまた下がっていったようでした。見間違いなんてことは、ないと、思うのですが……」


 そう言いながらも、確信までは持てないのか、語尾の勢いは弱くなっていた。


 でも――。


 ミーはなにかを予感していた。

 これはきっと、見間違いなんかじゃないはずだ!


 おそるおそる足を踏み出すと、葉雪が寄り添うようについてきた。

 ついてきてはいるけど、やっぱり怖いのか、ミーの袖をぎゅっと握っている。


 ちなみに、こういうときの思歌りんは情けない。


「なんか見える……?」


 と、おどおどした表情を浮かべながら、教室の陰から顔だけ出して様子を訊いてきていた。


 ミーと葉雪は廊下まで出て左右を見渡す。廊下には、これといって異変は見当たらない。

 ごくり。

 ツバを飲み込み、意を決して窓ガラスに近づいたミーは、階下を見下ろしてみる。


「……光……!」


 葉雪の息を呑む音が聞こえた。

 この窓から見えるのは、旧校舎裏にある林ということになる。

 そこに、ぼやーっとした感じではあったけど、明らかに光っているなにかが見えたのだ!


「あそこは、無花果塚!?」

「……行ってみよう……!」


 怯えた声ではあったけど、力強くそう言うと、葉雪は走り出した。

 ミーもそれに続く。

 遅れて矛崎先生や思歌りんたちも続いて走ってきているのだろう、暗い旧校舎の廊下には、複数の足音が不気味なほどに反響していた。


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