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みっしぃ  作者: 沙φ亜竜
澪音1
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-6-

「これは、いったいなんなの?」


 ミーの声に、苦笑を浮かべて頭を掻いている矛崎先生。

 ふたりの姿を確認したあと、教室を見回してみると、そこには普通の空き教室とは思えない光景が広がっていた。

 その説明を求めるより先に異変に気づいたのは、火野くんだった。


「……あれ、木下さんにお嬢? ……思歌は?」


 こちらのメンツを見て、思歌りんがいないことを不思議に思ったのだろう。

 それはそうだ。ミーと葉雪はともかく、呼春とお嬢はいつも思歌りんと一緒にいるのだから。

 と、そこまで考えて、思歌りんのことをすっかり忘れていたのを思い出した。


「……遅すぎだよ……」


 ツッコミを入れる葉雪も、どうやら忘れていたようだ。

 お嬢からケータイを借りて思歌りんに電話を入れると、泣きそうな声で文句を言われた。

 ひとりが相当怖かったのだろう。

 もちろんそんなこと、絶対に認めたりはしないだろうけど。


 そのあと、火野くんにお願いして校門まで思歌りんを迎えに行ってもらった。

 そしてふたりが教室に戻ってきたところで、矛崎先生に説明を求めた。


「う~ん、まだ内緒にしておくつもりだったんだけどな~」

「……こうなったら、仕方ないでしょ、先生」


 まだ話すのを渋っていた先生だったけど、火野くんの後押しで説明を始めた。


「これは、見てのとおりって感じだが、自作のプラネタリウムだ。まだ途中だけどな~」


 そう、教室内に広がる普通とは思えない光景、それは、材料はダンボールだろうか、作りかけのドームと、ノートパソコンからつながった機械だった。

 その機械が、ドームに映像を映し出す投影機らしい。

 それ以外にも、星空を連想させる小物類がいろいろと用意されている。

 座って見ることを想定しているみたいで、星空をイメージした絵柄のカバーをかぶせた座布団もたくさん準備してあった。


 これを全部、自作してたってこと!?


「星空を投影させる装置は、買ったものだけどな~。あとは自作だよ。投影機は魚眼レンズを使ったもので、こっちにあるノートパソコンから映像を転送して、ドームの内側に映し出すことができるんだぞ~」


 矛崎先生は誇らしげな表情でそう語った。

 こういう話をするときの先生は、少年のように目をキラキラと輝かせる。

 それにしても、パソコンから転送した映像をドーム状に映し出す装置って……。結構高価なものなんじゃ……。


「うちの父親が、そういうのを専門に扱ってるんだよ。ま、中古品を安く売ってもらったんだけどな~。とはいっても、それなりに額をつぎ込んだのは確かだが」


 ……趣味には異常なほどお金をかける人っているよね。先生はどうやら、そういう人種みたいだ。

 教師って、そんなにお給料も高くないだろうに。


 それはともかく、火野くんと矛崎先生のふたりというのは、しっくりくる組み合わせでもあった。

 なぜなら、火野くんは地学部の部員で、矛崎先生はその顧問だからだ。

 地学部といっても、その活動内容は地球や地層といったものだけではなく、宇宙に関する分野なんかも含まれる。

 だから、天体観測も立派な地学部の活動ということになる。


「ということは、これも部活動の一環なの?」

「いや、違うぞ~。これはな、今度のロングホームルームのために用意してるんだ」


 うちの学校では、一ヶ月に一度、金曜日の午後にロングホームルームと称して、クラスの結束を深めるための時間が設けられている。

 午後の五時間目と六時間目を合わせた二時間を使った、クラスごとに自由に活動内容を決められる時間だ。

 普通は担任の先生が内容を決めるのだけど、生徒側から提案があって許可をもらえれば、なんだってできる時間でもある。


 とはいえ、まだ入学して日が浅いミーたち。

 朝と帰りのホームルームで案を募ったりはしていたけど、とくにこれといった案が出ることもなく。

 今回はなにも決まっていなかったため、先生が独断で決めたのだろう。


「だが、ちょっと大掛かりになりすぎてしまってな~。それで地学部の火野に手伝いをお願いしたんだ」


 矛崎先生の言葉に、火野くんも苦笑を浮かべながら頷いていた。


「それならそうと、言ってくれてもいいじゃない!」


 思歌りんは火野くんに詰め寄って怒っていたけど、


「当日までは内緒にしておきたかったからな、口止めしてたんだよ」


 という先生の説明でしぶしぶ納得していた。


「ま、浮気じゃなくてよかったじゃない」

「うるさいわね! 私に内緒でなにかやってたってことが、そもそも許せないのよ!」


 素直じゃない思歌りんは、そんな言葉を発していたけど、安心しているのは表情を見れば明らかだった。


「……でも金曜日だと、あと二日しかないですよ? 間に合うんですか……?」


 葉雪がおずおずと口を挟んだ。

 確かに、いろいろと準備は進めているみたいだけど、かなりごちゃごちゃしている状態に見える。

 暗幕もこれから縫い合わせないといけないだろうし、ドームも未完成だった。

 今日は水曜日だから、葉雪が言うとおり、ロングホームルームまではあと二日。どう考えても間に合うとは思えない。


「ははは。せっかくだから本格的にしたいと思ってるんだが、なかなか難しいな。教室全体を使うくらいの大きさにしたいんだがな~」

「……確かにこのペースじゃ、間に合わないような気がしますね」


 今になってそんなことを言っている矛崎先生と火野くん。


「まったく、全然ダメじゃないですか。ほんと、計画性ないんだから。ほら、ボクたちも手伝うから、頑張って準備しましょう!」


 呼春が率先して手伝いを始める。

 それを見て、じゃあ、ミーたちはこれで、なんて帰れるわけもなく。

 ミーと葉雪も含め、みんなで手伝うことになってしまった。


「う~ん、ダンボールも足りないし、ドームの塗装や組み立てにも、もうちょっと人手がほしいかな」


 先生の指示に従って、黙々と準備を進めるミーたちだったけど、やがて呼春がそうつぶやいた。

 確かに、まだ相当時間がかかりそう。教室いっぱいの大きさともなると、ドームの組み立てには男手もほしいところだ。


「しかしなぁ、当日まで隠しておいてびっくりさせたいわけだし、大勢に手伝ってもらうわけには……」


 本当はふたりで作るつもりだったんだし、と人を増やすことには反対の先生。

 ミーたちはあとから勝手に加わっている身分なのだから、あまり口出しもできないかな。


 気づけば、もうかなり遅い時間になっていた。


「うん、今日はここまでにするか~。あまり遅くなると、おうちの人も心配するからな」


 という先生の言葉で、解散することになった。


「足りないダンボールは、ボクが用意しておきます。明日も頑張ろうね、みんな!」


 呼春がいつの間にか場を仕切っていた。学級委員としての性なのかもしれない。

 というか、明日も手伝うことに決定なのね。ま、いいけどさ。


「そうだ、視言。水巻くんに連絡して手伝ってもらったらいいんじゃない? 先生としても、もうひとりくらいなら増えてもいいですよね?」

「う~ん、そうだなぁ~……。まぁ、ひとりならいいか~」


 思歌りんの提案を、先生はしぶしぶながらも了承する。


「それじゃ、お前ら、気をつけて帰れよ~」

「はい、また明日~!」


 こうしてミーたちは、夜の学校をあとにした。


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