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みっしぃ  作者: 沙φ亜竜
神酒
34/37

-3-

「ごめんなさい、お待たせしてしまって……。お話、続けますね」


 実祈はどうにか落ち着きを取り戻し、再び語り出した。


「あたしが死んでしまったあと、クラスメイトのみんなは、いじめのせいで自殺したのだと思い込んでしまいました。半狂乱になって泣き叫ぶ人や、ごめんなさいごめんなさいと手を合わせて祈り続ける人までいたんです。

 大丈夫、あたしは気にしてないよ。あなたたちのせいじゃないよ。そう言ってあげたかった。でも、その声は全然届かなくて。担任の先生も、どうしていじめの事実に気づいてあげられなかったんだろうって、思い悩んでしまって……。

 違うの、いじめなんてなかったの。泣き叫んでも、誰にも聞いてもらえない。もう死んでいるのだから、当たり前なのだけれど、とても悲しかった……」


 うっすらと涙を浮かべながら、ささやくように言葉を紡ぐ。


「でも、事態はそれだけでは終わらなかったんです」


 一瞬だけ、苦悶の表情に変わる実祈。

 さっきのようになってはダメと思ったのか、すぐに表情を戻して話を続けた。


「あたしを仲間にすることができて、漂っていた霊たちは、なんだか勢いづいてしまったみたいなんです。一度成功したから、他にも仲間を呼び込もうと考えたんだと思います」


 そんな思念が学校中を覆い尽くした結果、怪しい光や音などといった怪奇現象が、次第に目撃されるようになっていった。

 最初は霊感の強い人が、なんとなく感じる程度のものだったのだろう。


 だけど噂が流れ、そういったことが起こるという認識が広まると、徐々に目撃してしまう人も増えていく。

 意識することで、霊の波長と同調する。そういうことなのだとウチは考えているけど、実際どうなのかはわからない。


 やがて、噂は無視できないほどに膨れ上がった。


 いじめ自殺があったという認識になってはいたものの、学校側はそれをひた隠しにしていた。

 イメージダウンにつながるから、という理由だったと考えられる。

 学校側がいじめを隠しているせいで、自殺した実祈が恨みの念を持って、化けて出てきたのではないか。最近の怪奇現象は、そのせいなのではないか。

 そんな噂へと発展していったのも、至極当然のことなのかもしれない。


「違うのに、あたしはそんなことしないのに。そう訴え続けたけれど、誰もその声に気づいてくれませんでした。だからあたしは、爆撃で亡くなった生徒たちの霊のもとを巡って、彼らの怨念を少しでも和らげようとしました。でも、それも聞き入れてもらえなくて……」


 ほう……。

 ウチはちょっと驚いた。


 実祈が話しているのは、飛び降りて亡くなってからすぐの時期のこと。まだ幽霊になりたての頃だったはずだ。

 普通、自分が幽霊になったことを精神的に受け入れるまで、数年はかかったりするものだ。


 ウチ自身もそうだったし、周りにいるみんなだって、おそらくそうだっただろう。

 幽霊になったという事実を受け入れ、霊体という存在でいることに慣れていなければ、他の霊に干渉することなんてできない。


 それなのにこの子は、すぐに行動を起こした。

 それは、並大抵の精神力ではできないこと。

 ぼんやりした雰囲気の実祈だけど、こう見えて、案外しっかりした芯のある精神を持っているのかもしれない。


「そのうち、学校側も無視してはいられなくなって、霊媒師さんを呼んだんです。あたしの霊を、鎮めようと」


 呼ばれた霊媒師は、祈りを捧げ、爆撃で亡くなって漂っていた生徒たちの霊を成仏させた。

 もちろん、実祈のことも成仏させようとしたはずだ。しかし実祈は、それを拒絶した。


「あたしはこの学校が好きだったから、ずっとここで見守っていたい、そう霊媒師さんにお願いしたんです。霊媒師さんも、姿が見えたり声が聞こえたりまではしていなかったと思うけれど、感じてくれてはいたんだと思います。ニッコリと微笑みかけてくれて……」


 そう話す実祈は、とても温かな笑顔になっていた。


「その人は、ここに慰霊碑を建ててお祈りとお供えをするように、先生方や生徒たちに言ったんです。それで担任の先生は、あたしが好きだったのを覚えていてくれて、お供えにイチジクの実を置くようになって、この場所は無花果塚と呼ばれるようになったんです」


 実祈が視線を落とす。

 そこには、お供え台に乗せられた干しイチジクの実が、今日もいくつか積み上げられていた。


「この学校を見守りたいという思いはあったんですけれど、それよりも、あたしはあの人――あの霊媒師さんにもう一度会いたい、そう願っていました。だから、この場所でずっと待っていたんです。とても優しくて温かな微笑みを向けてくれた、あの人を――」


 実祈は遠い目をしながら、瞳をキラキラと輝かせていた。


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