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みっしぃ  作者: 沙φ亜竜
神酒
33/37

-2-

「あんた、いじめを受けて自殺したって話だけど?」


 ウチは意地悪な笑みを浮かべながら、キツめの調子で問い質す。

 自殺なんて、心が弱い人間のすること。ちょっとはっきりしない喋り方でおとなしい性格の実祈のことだから、つらさに耐えられなくなって飛び降りたに違いない。

 そう、勝手に決めつけていた。


 でも――。


「いえ、あたし、自殺したわけじゃないんです」


 実祈の口から発せられたのは、そんな言葉だった。


「えっ? じゃあ、もしかして、殺されたのかい!?」

「ちちちち、違いますっ!」


 物騒な考えを思い浮かべたウチの声に、実祈は慌てて否定の意を唱える。


「あたし、確かにはっきりしなくて、みんなにからかわれたり、時にはいじめっぽいことまでされたりはしていました。でも、全然気にしてなんていなかったんです」


 実祈が言うには、いじめっぽい感じにまでエスカレートした場合でも、実祈自身の反応が薄いからか、それ以上ひどくなったりはしなかったらしい。

 普通にからかってくる程度の相手に関して言えば、実祈としてはお友達という認識だったようだ。

 実際、一緒に遊びに行ったりもしていたみたいだし、その認識もまったく間違いというわけではなかったのだろう。


「あたし、ぼーっと空や景色を見ているのが好きだから、ときどきひとりで校舎の屋上に出ていたんです」


 ある日、いつものように屋上からの風景を眺めていた実祈。

 屋上の端には、低めの柵があるだけだった。

 その柵に手をかけ、身を乗り出すようにして、階下にも視線を巡らせる。


 そのとき――、

 ふわっと、風を感じた。

 次の瞬間、実祈の体は宙を舞っていた。


「えっ? じゃあ、あんた、誤って落っこちただけなのかい!?」


 ほんと、ドジだねぇ!

 なんて軽く言ってしまうのは、少々かわいそうかもしれないけど。

 そういう感想を持ってしまうのも、当然の反応だろう。


「う……。そう言われると、確かにそうとしか答えられないかもしれません。でも、ちょっと違うんです……」


 実祈はうつむき気味に、これは聞いた話なのですけれど、と前置きをして語り出した。


 この学園の過去について――。



 ☆☆☆☆☆



 その昔、山原水鶏学園があるこの敷地には、中学校が建てられていた。

 もう六十年以上も昔の話だ。


 そして太平洋戦争の際、その中学校は無差別爆撃を受けてしまう。

 爆撃を受けたのは授業中だった。建物への被害もあったようだけど、屋外にいた生徒への被害のほうが深刻だったらしい。

 結果、十数名の生徒が犠牲になった。


 詳細な資料までは残っていないため、そういう事実があったこと以外はわかっていない。

 爆撃で完全に破壊されたというわけではなかったものの、死者が出たこともあり、中学校は閉鎖された。

 亡くなった生徒たちの供養をしたあと、建物は壊され、敷地は立ち入り禁止となった。


 中学校は少し離れた場所へ移転するという形で、新たな校舎を建てて運営されることになったようだ。

 今でもその中学校は存在している。


 それから二十年以上の歳月が経ったあと、閉鎖されたはずの敷地に、山原水鶏学園が建てられてしまったわけだけど。

 供養されたとはいえ、亡くなった生徒たちの霊は鎮まっていなかった。

 正確には、何人かの強い恨みの念を持った霊たちが成仏できずに残った、ということなのだろう。


「そんな彼らの、わけもわからずに殺されてしまった無念な思いが、ずっとこの場所に残っていたみたいなんです」


 心から哀れむような表情で、実祈は涙すら浮かべていた。

 実祈はもともと、霊から影響を受けやすい体質だったに違いない。

 いつの頃からか、そういった念の存在がなんとなく感じられるようになったのだという。


「屋上に足を踏み入れるたびに、あたしの周りを彼らが包み込んでいるように感じました。でもそれは、温かいものではなくて、あたしを仲間(丶丶)に引きずり込もうとする、暗い思念だったんですね。当時のあたしは、そんな考えに思い至ることはできませんでしたけれど」


 結果として、気を許して心のすき間に入り込まれてしまったのか、導かれるままに屋上から地面へと――。


 そこで実祈の言葉は途切れ、苦々しい表情を浮かべる。

 飛び降りて亡くなったときの苦痛を、思い出してしまったに違いない。


 ウチは罪悪感を覚え、慰めの声をかけようとは思ったけど、結局なにも言えず。

 実祈が落ち着いて続きを話してくれるまで、黙って待つことしかできなかった。


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