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「ふ~。やっぱり、ひと仕事終わったあとのお神酒は最高だね~!」
ウチは空中に足を組んで座りながら、とっくりに口をつけてお神酒の味を楽しむ。
ここは私立山原水鶏学園の旧校舎裏、林の中にある無花果塚と呼ばれる場所だ。
今、ウチの目の前では、澪音や葉雪、そして思歌のグループの面々が、慰霊碑の周りを掃除している。
あの事件で、無花果塚の存在を再認識したということなのか、お供えもお祈りも、交代で行う掃除も欠かさなくなったようだ。
そんな彼女たちがいるすぐそばで、ウチと少女は対峙していた。
双方とも幽霊だから、葉雪たちに見られる心配はない。
「あの、えっと……」
目の前でかしこまっているこの少女は、無花果実祈という名前だっただろうか。
なかなか可愛い子じゃないか。
「んで? あんた、ウチに挨拶しようってのに、お酒もおつまみもなしかい? 気が利かない子だね~」
思わず意地悪もしてしまうってもんだ。
ウチはお酒が入ってとろんとした目で、実祈の全身を舐め回すようにくまなく眺める。
「ひっ……ごめんなさい……」
緊張しているのか、実祈はガチガチになっていた。
「姐御、新入りが怯えてるよ」
周りにいる仲間たちが苦笑いを浮かべながら、そう忠告してくる。
ふん、ま、意地悪はこれくらいにしてやるとするかね。これから、長いつき合いになるんだろうし。
「ほら、もっと気楽にしておくれよ。ウチは神酒。もともとの名前は巫女の巫に姫と書いて巫姫だったんだけどね。あの子――葉雪の神社で大昔に巫女をしていて、死んだあと、神社の守り神になったってわけさ。ま、勝手にやってることだから、崇めてもらおうなんて思っちゃいないけどね」
「は、はぁ……」
実祈はキョトンとした表情で、しっかりと正座しながら、行儀よくウチの話を聞く。
「彩鳥神社の巫女ってのはね、代々、たくさんの霊が憑いてしまう体質なんだよ。彼女たちが受け継いでいる血に、霊は惹かれてしまうんだろうね。ここにいるみんなだって、そうやって集まってきた連中さ」
そう言って、周りで野次馬のようにこちらの様子をうかがっていた奴らを指差す。
その数は、十や二十じゃ収まらない。三十人くらいはいるだろうか。
実際には、ふらっと離れて今はいない霊もいるわけだし、憑いている総数は五十人を下らないだろう。
霊とはいっても、ウチは生きている人間と同じように考えている。そのため、彼らのことは「何人」と数えるようにしている。
みんなそれぞれ、生前の性格をそのまま持ち続けているからだ。
「少し前までは、母親の紗雪に憑いていたんだけどね。十五歳を迎えてからは、娘の葉雪に憑くようになった。そうやって代々受け継がれていくのさ」
「は、はぁ……」
さっきとまったく同じ受け答え。
同じ反応しかできないなんて、つまらない子だねぇ。
「私たちの中じゃ、姐御……神酒さんが、一番古株なんだ。だから、彼女が私たちのリーダーになってるんだよ」
野次馬となっていたうちのひとりが、そう解説を加える。
「古株なんて言うんじゃないよ。これでもウチは若いつもりなんだからね!」
叱責の声を上げると、みんなはまたもや苦笑いを浮かべる。
リーダーなんて言われていても、敬われている感じではないのが実情だが。
ま、ウチはそんな細かいことを気にしたりはしない、寛大な女なのさ。
「ともかく、実祈。自己紹介も兼ねて、あんたにはいろいろと質問させてもらうよ。ウチらの仲間入りするための、テストみたいなもんだと思っておくれ」
ニヤリと笑って、ウチは実祈に質問攻めを開始した。