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みっしぃ  作者: 沙φ亜竜
葉雪
31/37

-6-

「……ただいま~……」

「おかえり、葉雪ちゃん!」


 お母さんが私を出迎えてくれる。

 なんだかやけに上機嫌に思えるのは、私の気のせいかな?

 ニコッと穏やかな微笑みを浮かべているお母さんは、


「おかえり」


 再び、そう言った。


「……お母さん、どうしたの……?」

「ふふふ、なんでもないわ♪ あっ、うがいと手洗い、しちゃいなさい。夕飯、もうすぐできるからね♪」


 お母さんはスキップしながら台所に戻っていった。

 少し不思議に思ったけど、お母さんの機嫌がいいのは悪いことじゃないし、ま、いいか。

 そう考えて、私は洗面所へと向かった。



 ☆☆☆☆☆



 夕飯の食卓は、お母さんとふたりきりだった。お父さんはまだ神社のほうで仕事中のようだ。

 あまり大っぴらにはなっていないものの、噂程度は広まっているのだろう、無花果塚の幽霊にまつわる呪いの話について、お母さんは私にいろいろと尋ねてきた。


 言いふらしたりはしないでね、と念を押してから、私は今までのことを話した。

 もちろん細かい部分、とくにお嬢や木下さんの想いといったプライバシーに関わる部分は端折って、大まかな内容を話しただけなのだけど。

 それでもお母さんは、うんうんと頷きながら私の話を聞く。


「唯一くん、頑張って教師をやっているのね」


 ……え?


 唯一、というのは矛崎先生の下の名前だ。

 ということは、お母さんは先生と知り合いで、しかも名前で呼んでいるってことは、親しい知り合いなの……?


「ふふふ、実は私、唯一くんのお母さんとお友達だったのよ」


 不思議そうな視線を送っていることに気づいたのだろう、お母さんは話してくれた。


 矛崎先生のお母さんは昔、私たちの通う高校で教師をしていて、無花果塚の女子生徒――実祈さんのクラスの担任でもあった。それは先生からも聞いていたけど。

 当時から、お母さんとは友達だったらしい。

 そしてお母さんは、さらに衝撃的な発言を続ける。


「実はね、学校に呼ばれた霊媒師っていうのは、私なのよ」


 つまり、無花果塚を建ててイチジクの実をお供えするように言ったのは、お母さんだったということになる。


「彼女とは、そのあともよく会っていたの。だから、息子である唯一くんとも面識があったってわけ。彼女はもう亡くなってしまったけれど、唯一くんはときどき神社に顔を出してくれていたのよ」


 ……そうだったんだ。全然知らなかった……。


「このあいだ、月曜日だったかしら、唯一くん、風邪で休んだみたいね。あの日、風邪薬が切れていたらしくて、買いに出かけたついでに、神社にも寄っていったのよ。そのときに、学校で妙なことが起こっていると相談を受けたわ。だから、イチジクのお供えをしっかりするようにって助言したの」


 そっか、あのあとイチジクが多めにお供えされていたのは、そういう理由だったんだ。


「今ではもう、唯一くん以外の先生方は、あまり無花果塚のことを気にしていないみたいね。でも、あなたたち生徒も含めて、忘れないでいてあげることが大切なの」


 優しい笑顔を向けて話を続けるお母さん。


実祈さんは(丶丶丶丶丶)もう大丈夫だと(丶丶丶丶丶丶丶)思うけれど(丶丶丶丶丶)、あの慰霊碑は、実祈さんだけのものではないのだから」

「……うん……」


 私は素直に頷く。

 家の中にいるのに、太陽に温められた春風で抱きしめられているような、そんな柔らかな温もりが私の全身を包み込んでいた。


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