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みっしぃ  作者: 沙φ亜竜
葉雪
27/37

-2-

 私たち『みっしぃ』に、土浦さんから依頼があった。

 火野くんの浮気調査をしてほしいというものだった。


 夜の学校に来ているという火野くんを隠れて待ち、追跡してみると、密会の相手は担任の矛崎先生だった。

 火野くんと先生は、金曜日のロングホームルームのために、プラネタリウムを準備していたのだ。

 私たちも一緒に手伝うことになり、翌日の放課後には、水巻くんとその妹の智羽ちゃんも合流して、無事にプラネタリウムの準備は終わった。


 後片づけをして帰ろう、そう話していた矢先、


「……あら? あれは、なにかしら」


 お嬢が教室の後ろのドアを指差して言った。

 ドアにはガラスがはめ込まれているので、そこから廊下や外の様子も見える。


「今、ドアの向こうに、変な明かりが見えたような気がしましたの……」


 すぐさま私たちもドアのほうに注目するけど、明かりらしきものは見えなかった。

 澪音がドアを開ける。廊下には、とくになにも見当たらない。


「見間違いじゃないの?」

「ですが、光が下から浮き上がってきて、そしてまた下がっていったようでした。見間違いなんてことは、ないと、思うのですが……」


 澪音に答えるお嬢の声は、微かに震えていた。

 ……でも光が見えたのって、一瞬じゃなかったのかな……?

 お嬢の声で、私たちもすぐにドアのほうを見たと思うのだけど……。


 ふと、首筋に寒気が走った。

 私は歩き出していた澪音に寄り添い、ぎゅっと彼女の袖をつかむ。

 廊下を見渡しても異変はない。

 そこで窓に近づき、階下に広がる林の中へと目を向けた。


「……光……!」


 私は息を呑む。

 林の中、ちょうど無花果塚のある辺りだろうか、ぼやーっとした光が漂っているのを、はっきりと見てしまったのだ。


「あそこは、無花果塚!?」


 澪音もそのことに気づいたらしい。

 ひやっ。

 再び首筋に寒気が走った。


 なんだろう?

 私は考える。


 今までにも、背筋に冷たい感触を受けることがあった。

 そのときは、すぐ間近に危険が迫っていた。

 だけど今回は、そのときのような刺すような冷たさではない。

 すーっと首筋を撫でていくような、そんな感じ……。


「……行ってみよう……!」


 私は走り出していた。

 なにかあるに違いない、そう考えて向かったのだけど、予想に反して無花果塚にはなにもなかった。

 さっき見た光は見間違いだったと言わんばかりに、静寂が周囲を包み込んでいた。


「ここって無花果塚っていうのよね? 昔死んだ女子生徒の慰霊碑だっけ? 私、あまりよく知らないんだけど」


 怖がっているのか火野くんにしがみつきながら、土浦さんが震えた声をこぼす。

 それを聞いた矛崎先生が、無花果塚にまつわる話をしてくれた。

 先生の話によれば、無花果塚は、いじめを受けて自殺した実祈さんの霊を鎮めるために建てられた慰霊碑なのだという。


「……かわいそう……」


 私は思わずつぶやいていた。

 冷たい風が通り過ぎる。


 その頃にはもう、時間も遅くなっていた。

 私たちはすぐに帰り支度をしてそれぞれの家に向かうことにした。


 途中から私は澪音とふたりきりになった。

 でも澪音は、さっきの実祈さんの話を聞いたからなのか、うつむいたまま黙って歩くだけ。

 私に話しかけてきてはくれなかった。



 ☆☆☆☆☆



 金曜日の午後、ロングホームルームの時間。

 私たちも一緒に苦労して準備したプラネタリウムが始まった。


 クラスメイトのみんなは、感嘆の声を漏らしている。

 その様子を見られただけでも、手伝ってよかったという思いで胸がいっぱいになった。


 ドームに入り座布団に座って、映し出される星空の映像を堪能する。

 急ごしらえの自作のプラネタリウムだけど、それはとても綺麗だった。


 薄暗くて少し眠くなってしまったけど、矛崎先生が一生懸命解説をしてくれた。

 私は、実際にうつらうつらとしてしまっていたのだろう、澪音に頭を思いっきりはたかれてしまった。

 ううう、強く叩きすぎだよ……。


「……澪音、ひどい……」


 澪音を睨む私は、完全に涙目になっていた。


 ともかく、プラネタリウム自体は滞りなく終了する。

 時間が余ってしまったらしく、教室に帰って感想文を書く、ということになったのだけど。

 ドームから出ようとするお嬢が、


「あら? 開きませんわ」


 と声を上げた。

 すぐ横に木下さんもいて、ふたりで必死に開けようとしているみたいだったけど、ドームの出入り口は閉ざされたまま。

 星空を投影した映像が残っていたとはいえ、ドームの中は薄暗い。

 クラスメイトたちも困惑し始める。


 私も暗い場所は怖かった。

 こういうとき、いつも隣に澪音がいてくれるのを、とっても心強く感じる。


「……暗いの、怖いよ……」


 澪音の右腕にしがみつくと、彼女は私の手にそっと手を重ねてくれた。

 ……澪音の手、温かい……。

 思わず、ほわん、となる。


「大丈夫よ。ミーがついてるでしょ?」

「……澪音は、別の意味で怖いけど……」


 温かい澪音の言葉に、つい安心して、そんな答えを返してしまう。

 ……手の甲をつねられてしまったけど。

 と、突然。


 妙な音がドーム内に響き渡った。

 風の音?

 でも、実際に風なんて感じられない。


 それは、なんとなく声のようにも思える奇妙な音で……。

 クラスメイトたちは、完全なパニック状態に陥っていた。


 さらに駄目押しするかのように、突如として投影機から映像が映し出された。

 白い背景の上に真っ赤なイチジクの実が置かれている映像――。


 それを認識すると、ぱっと映像が切り替わる。

 今度は少しぼやけた映像だったけど、お墓のような場所でこちらに恨めしそうな視線を向けている、幽霊を連想させる白い衣装をまとった女性の姿が見えた。

 一瞬でその映像は消え、ドームの中は再び真っ暗になる。


「きゃ~~~~~~~~~っ!!」


 混乱の極み。そこかしこで悲鳴が上がる。

 私も首筋に強烈な寒気を感じて、澪音にしがみついた。


 そのあと、出入り口が開いてみんな帰ることができたけど、あれはいったいなんだったのだろう?

 放課後、プラネタリウムの後片づけも手伝った私たちに、矛崎先生は「機械だからおかしくなることもある」と言っていた。

 だけど、映像はそうかもしれないけど、音のほうはどう説明をつければいいのだろうか?

 先生が自ら星空の解説をしていたのだから、パソコンから音も鳴らしていたわけではないと思うし……。


 結局なにもわからないまま、私たちは家路に就いた。


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