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みっしぃ  作者: 沙φ亜竜
葉雪
26/37

-1-

「さ、葉雪。それじゃ行こっか!」


 午後の授業が終わってまだチャイムが鳴り響いているあいだに、隣の席の澪音が私の手をつかんで走り出す。


「……うん……」


 椅子をちゃんと机の下に戻す時間もなく、私はどうにか肯定の言葉だけを口にしながら引っ張られる。

 まったく、澪音は。いっつも強引なんだから。


 私と澪音は、『みっしぃ』という名前の、ミステリー研究会を自称している。

 そう、自称。勝手にそう名乗っているだけの、会員もふたりだけという、エセ研究会だ。

 ……エセ、なんて言ったら、また澪音に怒られちゃうかな……。


 Mystery Seekerを略して『みっしぃ』らしい。

 澪音のネーミングセンスの微妙さには、思わず苦笑を浮かべてしまう。


 ともかく今日は、久しぶりの『みっしぃ』の活動となる。

 昨日はイベントの準備の手伝いがあってできなかったし、その前は土日だったから学校はなかった。

 久しぶりといっても、つまり、四日ぶりでしかないのだけど。


 でも、『みっしぃ』は日課よ! と言いきっている澪音には、待ちに待った瞬間なのだろう。

 一点の曇りもない笑顔が溢れてこぼれ出しているのは、斜め後ろから見つめている私にもよくわかった。


「んじゃ、パトロール開始よ!」

「……うん……」


 こうやってパトロールをしているとき、澪音は本当に輝いている。

 小さい頃からずっと一緒にいる私は、そんな澪音に惹かれていた。


 自分がおとなしくてはっきりしない性格だというのは、充分に自覚している。

 だけど、自覚してはいても、そうそう変えられるものではない。

 だからこそ、いつでもそばにいてくれて明るく温かい空気で包み込んでくれる澪音は、私にとって、なくてはならない大切な存在なのだ。


 私たちは長い渡り廊下を通り抜けて、新校舎のパトロールに来ていた。

 旧校舎のほうがミステリーっぽいことも起こりやすそうな気はするけど。

 新校舎は普段自分たちが入っていく用事の少ない場所だから、パトロールでも新鮮な気持ちになれるためか、澪音は積極的に新校舎を歩き回る。


 それにしても、薄暗いな……。

 澪音にしがみつく腕にも思わず力が入ってしまう。

 と――、


 びくっ。


 私は思わず身を震わせる。

 な……なんか今、首筋に触ったような……?


「どうしたの?」


 澪音が心配そうに私の顔をのぞき込んでくる。

 いつでも私のことを気遣ってくれる澪音。彼女に余計な心配をさせるわけにはいかない。


「……ううん、なんでもない……」


 私は小さく答える。

 気のせいだとは思うけど……。


 ただ、どうやら私には、霊感のようなものが備わっているらしい。

 自分でも確信を持っているわけではないけど、そうとしか思えないことが、今までに何度もあった。


 小さい頃から、私や一緒にいる澪音に危険が迫ったとき、なんとなく首筋に冷たい感触を受けていた。

 その冷たさに驚き、ハッとなって周りを見回したり、澪音にしがみついたり。

 普段はちょっとトロい私だけど、その感触のおかげで間一髪助かった、なんてことが一度や二度ではないのだ。

 もちろん実際に幽霊とか不可思議な現象とか、そんなのを見たことはないのだけど……。


 新校舎を巡り終え、私たちは一年F組の教室まで戻ってきた。


「日曜のバトル、葉雪には負けないからね!」


 澪音が笑顔でそう言った。

 きっと私が怯えた表情をしていたから、元気づけようとしてくれたのだろう。

 心が、ほわん、と温かくなる。


 とはいえ、勝負は勝負なんだから。


「……私だって、負ける気はないよ……」


 心を鬼にして宣戦布告しておく。

 澪音の性格を考えたら、こう言っておいたほうが燃えてくれるはずだ。

 私としては、勝ち負けなんて全然気にしていないのだけど。


「ふふふ。それじゃあ、勝ったほうは負けたほうに、なんでもひとつ命令できるってことにしよう!」

「……え……?」

「勝った場合のご褒美よ! 負けたほうにとっては、罰ゲームかな?」


 さすが澪音。これもやっぱり、私を元気づけてくれるためなんだよね。

 それにしても、どんなことをさせられるのか、ちょっぴり怖い。

 なんて思っていたら、澪音が提示した罰ゲームは……。


「そうね~……。キスでもしてもらおっかな! なんてね!」

「……そ、それ、罰ゲームになってない……」


 私は思わず、そう口に出してしまった。


「え?」

「……ううん、なんでもない……」


 小さい頃からずっと一緒にいる澪音。私にとって、唯一無二の大切な存在。

 澪音にしてみたら、私は単なる幼なじみの女の子でしかないだろう。

 親友、と思ってくれてはいるかもしれないけど、女の子同士なのだから、それ以上の存在になんてなれるわけがない。


 でも、私は……。


 私は真っ赤になってしまった顔を隠したくて、澪音の肩にぴったり寄り添い歩くのだった。


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