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さて、お嬢は手下であるガードマンたちを使い、学校内に照明機を持ち込んだりスピーカーや床下に細工したり、といったことまでやっていた。
それに対して、学校側がどんな処分を下すか、ミーたちはびくびくしていたのだけど……。
驚いたことに、とくになんのお咎めもなかった。
照明機のアームが折れて、若干、林の木々に傷がついたりはしたものの、幸いにも大きな被害はなかった。
実際には、かすり傷程度とはいえ友達に危害を加えたという罪もある。
でもそれは、お嬢本人がこっぴどく叱られるということだけで済んだ。
友人たち一同から重い処分にはしないでほしいという嘆願もあったからだ。その嘆願には、矛崎先生も加わってくれた。
お嬢の両親は学園長と旧友だったらしく、そのあたりも加味されたのか、結果として内密に処理してもらえることになったようだ。
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ミーは葉雪とふたりで、夕焼けに染められた歩道を歩いていた。
「……処分されたりしなくて、よかった……」
葉雪が微笑みとともに安堵の声をそよがせる。
クラスメイトたちは、今回の件についての真相を知らない。
知っているのは、当事者とミーたちを含む数名くらいだ。
幽霊だとか呪いだとか、そういった噂話はしばらく続いていたものの、なにも起こらなくなって徐々に薄れてきている。
人の噂も七十五日。そのうち、何事もなかったかのように消えてしまうだろう。
「ま、幽霊とか呪いとかなんて、あるわけないってことよね!」
「……澪音はいつもそう言ってるもんね……」
ミーの声に応える葉雪の口調は、なんとなく納得していない感じだった。
「なによ、文句でもあるの?」
「……え? べつに、そんなのないけど……」
「けど? けど、なに?」
しつこく食い下がるミーに、葉雪は押し黙ってしまった。
あちゃ~。ちょっと意地悪がすぎたかな?
あっ、そうだ。こういうときは、あの話題だわ。
「そうそう、そういえば、ご褒美がまだ残ってたわね~♪」
「はぅ……」
いったいなにをやらされるのか、葉雪はこの話題を振るたびに少し怯えたような目になる。
ふふふ、相変わらず、からかいがいのある反応をしてくれるわ。
だけど、いつまでも引っ張ったりしたら、やっぱり悪いかな~。
そう考えたミーは、今日でこの話題は終わりにしようと決めた。
そして、ご褒美の内容を伝える。
「ご褒美、決めたよ!」
「……な、なにかな……?」
葉雪は緊張した面持ちでミーを見つめる。
「これからもさ、ずっと一緒にいてね、葉雪!」
「……うんっ……!」
ちょっと驚いたような表情を浮かべたけど、葉雪はすぐ笑顔に変わってミーを見つめ返す。
うんうん、葉雪の笑顔を独り占め!
最高のご褒美かもしれないわね~。
でも考えてみたら、今日で終わりにするつもりが、「これからもずっと一緒」って。
最大級に引っ張ったとも言えるのかもしれない。
ちょっと悪かったかな? なんて思ってしまったけど。
夕焼けの赤さに照らされ、溢れんばかりの笑顔を向けてくれている葉雪を見ていると、これでよかったんだなと思う。
うん、そうだ。
ミーと葉雪はずっと一緒なんだ。
これからも『みっしぃ』として、一緒に頑張っていけばいいんだ。
そう心に誓って、葉雪の手をぎゅっと握る。
葉雪もミーの手を握り返してくれた。
そんな葉雪の手は、照りつけてくる夕陽よりもずっとずっと温かかった。