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吹き過ぎる風のような音ではあった。
でも、聞きようによっては人の声にも思える奇妙な音――。
そんな音が、いつの間にか薄暗くなってきていた林の中に響く。
暗雲が立ち込めるどんよりとした空模様だったからか、暗くなるのも早いみたいだ。
響き続ける音によって、ミーたちは精神的にも薄暗い雰囲気にすっぽりと包み込まれる。
思歌りんが再び怯え始めた。
「……大丈夫だよ、思歌」
火野くんが遠慮がちにそっと思歌りんの肩を抱く。
思歌りんは優しく包み込んでくれるような火野くんに、素直に寄り添っていた。
久しぶりにミーの前で、恋人らしい姿を見せてくれたわね。そう思い、微笑ましい気持ちになる。
呼春もふたりに視線を向けながら、満足そうな表情を浮かべていた。
ただ、なんとなく寂しそうに見えたのは、ミーの気のせいだろうか?
お嬢と智羽ちゃんも思歌りんに視線を向けていたけど、その顔に笑みはなかった。
そこで、ふと気づく。
「うふふふふ…………」
風のような音に紛れて、明らかに女性の笑い声が聞こえるような……。
そしてさらに状況は変わっていく。
笑い声らしき音に合わせるかのように、ひとつ、またひとつと、林の中にぼやーっとした光が浮かび上がってきたのだ!
他のみんなも気づいたのだろう、怪訝な表情を浮かべて顔を見合わせていた。
「やっぱり……、実祈さんの幽霊なんだわ……!」
「……大丈夫だから、落ち着けよ!」
取り乱して離れようとする思歌りんを、火野くんは強く抱きしめる。
ぎゅっ。
視線を落としてみると、隣に寄り添っていた葉雪も、ミーの腕にしっかりと抱きついて心細そうな視線を向けていた。
この子も、怖いのね。
大丈夫、ミーがついてるから。
瞳で語りかけるように頷く。
ぼやーっとした数多の光は、まるで意思を持ってミーたちを取り囲んでいるかのように揺らめいている。
人魂かなにかなのだろうか?
響いてくる声はどんどん大きくなっているようにも思えた。
はっきりそう言いきることまではできないけど、やはりそれは、女性の笑い声としか思えない。
だけど、そこで考える。
この声、実祈さんの声だというには、幼すぎる気がする。
もちろん、本当に幽霊がいたとして、死んだときの年齢のままで出てくるとは限らないだろうけど。
それに、なんとなくだけど、どこかで聞いたことのある声のようにも思えた。
少しくぐもった感じの音だから、はっきりとは判断できなかったものの、これはなにかがおかしい。
そう思い至った刹那。
木々にぶつかってでもいるのか大きな葉擦れの音を立てながら、光のうちのひとつが、ぱーっと上空に昇っていった。
……あれ? でも……。
それはさっきまでのぼやーっとした光ではなく、かなり強い光になっていた。
逆光のせいでよく見えないけど、その光の下――地面のある辺りでは、なにか黒い影がうごめいているような気も……。
と、突然。
なにかが砕けるような大音量が鳴り響き、その光は、ミーたちのほうへと猛スピードで迫ってきた。
「危ない!」
火野くんが思歌りんを突き飛ばす。
落雷か、はたまた爆発か。
耳をつんざくほどの不協和音が林の中で反響する。
不意に突風まで吹き荒れ、様々な音が瞬間的に入りまじる。
迫ってきていた光は最大限にまで大きくなったかと思うと、轟音の中に紛れるかのように突然消えてしまった。
突風のせいなのか周囲には土煙が舞い上がり、それを吸い込んでしまったミーたちのむせ返る声がこだまする。
「げほっ、げほっ! な……なんなの、これ!?」
「うわっ! 口の中になにか入った! ゲホゲホッ!」
いったいなにが起こったのか、まったくわからなかった。
土煙のせいで視界も奪われ、パニック状態のミーたちではあったけど。
様々な音は、それぞれいつの間にか消え去り――、
やがて静寂が訪れる。
舞い上がっていた土煙も、風に流されたのか次第に収まってきた。
気づけば、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。
「みんな、大丈夫!?」
「うん、こっちは平気。ケガしてる人とか、いない?」
声をかけ合うミーたちのもとへ、慌ただしい複数の足音とまぶしい光が近づいてきた。
ミーはその姿を確認し、とっさに身構える。
他のみんなも口をつぐみ、息を呑んで状況を見守っているようだ。
明かりを持って駆けつけてきたのは、黒いスーツに身を包んだ見知らぬ男たちだった。