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みっしぃ  作者: 沙φ亜竜
澪音3
22/37

-5-

 吹き過ぎる風のような音ではあった。

 でも、聞きようによっては人の声にも思える奇妙な音――。

 そんな音が、いつの間にか薄暗くなってきていた林の中に響く。


 暗雲が立ち込めるどんよりとした空模様だったからか、暗くなるのも早いみたいだ。

 響き続ける音によって、ミーたちは精神的にも薄暗い雰囲気にすっぽりと包み込まれる。


 思歌りんが再び怯え始めた。


「……大丈夫だよ、思歌」


 火野くんが遠慮がちにそっと思歌りんの肩を抱く。

 思歌りんは優しく包み込んでくれるような火野くんに、素直に寄り添っていた。

 久しぶりにミーの前で、恋人らしい姿を見せてくれたわね。そう思い、微笑ましい気持ちになる。


 呼春もふたりに視線を向けながら、満足そうな表情を浮かべていた。

 ただ、なんとなく寂しそうに見えたのは、ミーの気のせいだろうか?

 お嬢と智羽ちゃんも思歌りんに視線を向けていたけど、その顔に笑みはなかった。


 そこで、ふと気づく。


「うふふふふ…………」


 風のような音に紛れて、明らかに女性の笑い声が聞こえるような……。


 そしてさらに状況は変わっていく。

 笑い声らしき音に合わせるかのように、ひとつ、またひとつと、林の中にぼやーっとした光が浮かび上がってきたのだ!

 他のみんなも気づいたのだろう、怪訝な表情を浮かべて顔を見合わせていた。


「やっぱり……、実祈さんの幽霊なんだわ……!」

「……大丈夫だから、落ち着けよ!」


 取り乱して離れようとする思歌りんを、火野くんは強く抱きしめる。


 ぎゅっ。

 視線を落としてみると、隣に寄り添っていた葉雪も、ミーの腕にしっかりと抱きついて心細そうな視線を向けていた。


 この子も、怖いのね。

 大丈夫、ミーがついてるから。

 瞳で語りかけるように頷く。


 ぼやーっとした数多の光は、まるで意思を持ってミーたちを取り囲んでいるかのように揺らめいている。

 人魂かなにかなのだろうか?

 響いてくる声はどんどん大きくなっているようにも思えた。

 はっきりそう言いきることまではできないけど、やはりそれは、女性の笑い声としか思えない。


 だけど、そこで考える。

 この声、実祈さんの声だというには、幼すぎる気がする。


 もちろん、本当に幽霊がいたとして、死んだときの年齢のままで出てくるとは限らないだろうけど。

 それに、なんとなくだけど、どこかで聞いたことのある声のようにも思えた。

 少しくぐもった感じの音だから、はっきりとは判断できなかったものの、これはなにかがおかしい。


 そう思い至った刹那。

 木々にぶつかってでもいるのか大きな葉擦れの音を立てながら、光のうちのひとつが、ぱーっと上空に昇っていった。


 ……あれ? でも……。


 それはさっきまでのぼやーっとした光ではなく、かなり強い光になっていた。

 逆光のせいでよく見えないけど、その光の下――地面のある辺りでは、なにか黒い影がうごめいているような気も……。


 と、突然。

 なにかが砕けるような大音量が鳴り響き、その光は、ミーたちのほうへと猛スピードで迫ってきた。


「危ない!」


 火野くんが思歌りんを突き飛ばす。


 落雷か、はたまた爆発か。

 耳をつんざくほどの不協和音が林の中で反響する。

 不意に突風まで吹き荒れ、様々な音が瞬間的に入りまじる。


 迫ってきていた光は最大限にまで大きくなったかと思うと、轟音の中に紛れるかのように突然消えてしまった。

 突風のせいなのか周囲には土煙が舞い上がり、それを吸い込んでしまったミーたちのむせ返る声がこだまする。


「げほっ、げほっ! な……なんなの、これ!?」

「うわっ! 口の中になにか入った! ゲホゲホッ!」


 いったいなにが起こったのか、まったくわからなかった。


 土煙のせいで視界も奪われ、パニック状態のミーたちではあったけど。

 様々な音は、それぞれいつの間にか消え去り――、

 やがて静寂が訪れる。


 舞い上がっていた土煙も、風に流されたのか次第に収まってきた。

 気づけば、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。


「みんな、大丈夫!?」

「うん、こっちは平気。ケガしてる人とか、いない?」


 声をかけ合うミーたちのもとへ、慌ただしい複数の足音とまぶしい光が近づいてきた。

 ミーはその姿を確認し、とっさに身構える。

 他のみんなも口をつぐみ、息を呑んで状況を見守っているようだ。


 明かりを持って駆けつけてきたのは、黒いスーツに身を包んだ見知らぬ男たちだった。


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