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「もう、ホントにやめてよね! 実祈さん、聞いてる!?」
無花果塚の前にたどり着くやいなや、思歌りんは両手を腰に当て、慰霊碑に向かって叫び始める。
ミーたちもすぐに思歌りんに追いついた。
「やめてくれないなら、お供え台も慰霊碑も壊しちゃうからね!」
そう言って慰霊碑に手を伸ばそうとする思歌りん。
「わ~~~っ! ダメだって、思歌りん!」
ミーは思いっきり抱きつく形で、どうにかそれを引き止めた。
「止めないでよ、マリちゃん!」
身をよじって逃れようとする思歌りんを、ミーは必死にしがみついて押さえつける。
他のみんなも、ミーに加勢して思歌りんを止めてくれた。
「無花果塚の霊の仕業だなんて証拠、なにもないだろ~? それに、幽霊だとか呪いだとか、そんなの本当にあると思う?」
水巻くんも、必死に説得しようと声をかける。
火野くんだけは、相変わらず少し離れた位置で成り行きを見守っていたけど、思歌りんにすごく心配そうな視線を向けていた。
「でも、私ばっかり……」
「……それがそもそも、おかしいんじゃないかな……?」
「思歌りんが実祈さんに対してなにか悪いことをしたならわかるけどさ、ほとんどミーたちと一緒にいて、べつに悪さなんてしてなかったでしょ?」
ミーたちの説得で、思歌りんもどうにか落ち着きを取り戻し始めていた。
そこで、ふと気づく。
「あれ? 智羽ちゃん?」
「こんにちは! 智羽、学校終わったから、こっちに来たの。みんな走ってたから、追いかけたんだ~!」
無花果塚の前に集まっている面々の中に、いつの間にやら智羽ちゃんがまじっていたのだ。
智羽ちゃんは、えへへ、と笑顔を浮かべてミーの声に応える。
「はぁ、はぁ……。転んでしまったので、遅れてしまいました。ですが、思歌さん、落ち着いてくださったみたいで、よかったですわ」
お嬢もようやく追いついてきたようだ。
「桃ちゃん、転んだの? 大丈夫? ヒザとかすりむいてない?」
智羽ちゃんがお嬢に心配の言葉をかける。
桃味という名前を嫌がっているお嬢だけど、智羽ちゃんが呼ぶ「桃ちゃん」という言い方だけは、受け入れているみたいだ。
それにしても、慌てていたからか、ミーはお嬢がいなかったことにも気づいていなかった。
それはどうやら、他のみんなも同じだったようだ。
「……あっ、お嬢……!」
みんなからちょっと驚いたような視線を向けられたお嬢は、
「あの、もしかしてわたくしのことを、忘れ去っておりませんでした?」
さすがに少しムッとした表情になっていた。
「まぁまぁ。それより今は思歌りんのほうが先決でしょ?」
「……そうですわね」
ミーのフォローで、お嬢は気持ちを静める。
もともとそれほど気にしてはいなかったのだろう、お嬢はすぐに表情を緩め、思歌りんに歩み寄った。
「思歌さん、わたくしたちがついておりますから、大丈夫ですわよ」
お嬢はそう言って、思歌りんをそっと抱きしめる。
思歌りんのほうも、少し恥ずかしそうにうつむきながら、お嬢の言葉を素直に受け入れてくれた。
「とにかくさ、実祈さんの霊の仕業ってことは、多分ないから。誰かに嫌がらせされてるんだよ。思歌りん、本当に心当たりはないの?」
ミーの質問に、う~ん、とうなりながら考え始める。
「やっぱり、思いつかないわ。私が人に恨まれるなんて、ありえないじゃない。こんなにイイ子なんだし」
どこからそんな自信が湧いてくるのやら。
「……土浦さんの存在自体が邪魔だとか……」
いきなり葉雪がぽそっとつぶやく。
……あんた、いつもながら、ひどいことをさらっと平気で言うわね……。
この子の場合、いろいろな可能性のうちのひとつとして、というつもりで言っただけで、悪気なんてないのだろうけど。
葉雪に対するフォローの意味合いも含めて、ミーは自分なりの考えを述べてみる。
「そ……それはともかく、恨まれてるってのは違うと思うな。思歌りん、何度も嫌がらせの被害に遭ってるけど、本気で危害を加えようとしているようなのって、一度もなかったでしょ?」
「……確かに、そうだな」
火野くんも今は近くに寄ってきていた。やっぱり思歌りんのことが心配なのだろう。
と、そのとき。
突然、辺りに異様な音が響き始めた。