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みっしぃ  作者: 沙φ亜竜
澪音3
19/37

-2-

「ねぇ、ここのすき間から床下に入ること、できそうじゃない?」


 旧校舎の周りを調べていた思歌りんが、声を張り上げてそう言った。

 まだ夕焼けの時刻にもなっていないというのに、かなり薄暗い旧校舎裏。吹き過ぎていく風も心なしか冷たく感じる。


「お~、確かに入れそうだね」


 ミーはすぐにそばまで駆けつける。

 思歌りんが指差していたのは、ちょうどミーたちが使っている教室の壁の下側、地面と接している辺りに作られた換気口だった。

 その換気口は金属製の格子で塞がれていたけど、そのうちの数本が折れてしまったのか、人が悠々と通れるくらいのすき間が空いていた。

 思歌りんは屈んで、その換気口から奥のほうをのぞき込んでいる。


「う~ん。中は真っ暗だけど」

「思歌りん、入ってみれば?」

「い……嫌よ!」


 ミーたちがそんなふうに話していると、他のみんなも続々と駆けつけてきた。


 葉雪からのお願い――それは、みんなも一緒に、ということだった。

 そんなわけで、思歌りんの他、呼春、お嬢、火野くん、水巻くんといったいつものメンバーがパトロールの要員として集まったのだ。


「うわぁ、ほんとに真っ暗だ~」


 なぜか、水巻くんの妹、智羽ちゃんまで加わっていたりするのだけど。

 水巻くんと話しているときにちょうどケータイが鳴って、それは智羽ちゃんからで、今日はみんなで学校をパトロールするから帰るのは遅くなると正直に話してしまって、「智羽も、智羽も~!」ということになったのである。


 ……来てくれたほうが、いいかも……、なんて葉雪は言っていたけど。

 どうして? と訊いても、……なんとなく……、と答えるだけだった。


 ともかく、昼間の放送の声と床下の物音や振動といったおかしな現象に関して、ミーたちは調査を開始していた。

 呼春とお嬢には放送室に向かってもらった。放送委員の人がいたら、変な音を流していなかったか訊いてもらうためだ。

 そんなふたりも、すでに戻ってきている。


「放送委員の人はいたんだけど、変な放送を流したような形跡はないって。それにその人自身、そんな放送は聞いてないって言ってたし、実際騒ぎにもなってないみたいだったよ」

「放送を流す場所はある程度狭められるようですけれど、わたくしたちの教室だけに流すということはできないみたいでしたわ。せいぜい、旧校舎だけ、新校舎の教室棟だけ、といった感じで、区画ごとに制御できる程度のようです。旧校舎には三クラスありますし、他の二クラスでも放送されていたら、おそらく騒ぎは広まっていると思いますわ」


 ふたりの解説を聞いて、ミーたちは全員、訝しげな表情に変わる。


「それじゃあ、放送室から流した音ではなかった、ってことになるのかな?」

「うん、多分、そうなると思う」


 水巻くんの言葉に、呼春が頷く。

 そうすると、教室のスピーカーが怪しいってことになるのかしら。


「あっ、そこから床下に入れそうってことですわね? 思歌さん、入って調べませんの?」

「入らないわよ!」


 換気口のすき間に気づいたお嬢からの言葉に、思歌りんはいつもどおりの荒い口調で答えていた。


「怖いから~?」


 ついミーも、ニヤニヤ笑いを浮かべて、意地悪な物言いをしてしまう。


「ち……違うわよ! こんなとこ入ったら、ほら、汚いじゃない!」


 ムキになって言い返す思歌りん。そんな様子を見て、他のみんなは笑顔になる。

 こんなときでも、思歌りんたちはやっぱりいつもどおりだった。


 本当に呪いだったりするのかな、なんていう恐怖感も少しはあると思うけど。

 でも、こういう探検っぽいことって、誰でもわくわくするものなのだろう。

 もっとも、ミーは呪いだとかそんなのは信じてないから、いつものパトロールとそれほど違った気持ちではないのだけど。


 と、そのとき。

 背後の林から突然、ガサガサと枝葉のこすれ合う音が響いた。


「な……なんだ? 今の音!」

「……林の奥のほう……無花果塚のほうから聞こえたような気がする」


 焦りの表情を隠さずに叫ぶ水巻くんと、クールな声で落ち着いた感じにつぶやく火野くん。

 男性陣ふたりは相変わらず、正反対な雰囲気をかもし出していた。


「なんか、人影のようなものが見えた気もしますわ」


 お嬢が怯えた声を上げる。


「行ってみよう!」


 ミーはみんなを促すと、ためらうことなく林の中へと駆け出した。



 ☆☆☆☆☆



 無花果塚の前に着くと、いつもどおり冷たい雰囲気でたたずむ慰霊碑が目に入った。

 慰霊碑の前にある台座には、干しイチジクが積み上げられている。

 普段より数が多めなのは、ちょっと奮発したということなのだろうか。


「今日は、お供え物、あるんだね」

「お供えしてあれば奇妙なことは起きない、というわけでもないってわけね」


 ミーの言葉に反応して、思歌りんはそうつけ加える。

 と、不意にお嬢が叫び声を上げた。


「きゃあ!」

「えっ? お嬢、どうしたの?」


 お嬢は林のさらに奥のほうを指差して、震えた声をしぼり出す。


「い……今、向こうのほうに、白くてぼやーっとした女の人の影が見えたような……」

「ええっ!?」


 一番驚いたような声を上げたのは、思歌りんだった。

 みんな、お嬢の指差す方向を凝視する。


「……やっぱり、実祈さんの幽霊なのかな……?」


 葉雪もミーの腕にしがみつきながら、おそるおそる林の奥に目を向けていた。


「ん~、なにもないよ~?」


 怖がった様子もない明るい声で智羽ちゃんが言う。

 おそらく、状況があまりよくわかっていないのだろう。


「そう、ですわね……。気のせいだったのかもしれませんわ……」


 自分に言い聞かせるように、お嬢はつぶやいた。


「あっ、そうでしたわ。今日はイチジクを持ってきているんですよ。本当に実祈さんの霊の仕業なのかはわかりませんけれど、わたくしたちもお供えしておきましょう」


 お嬢はそう言いながら制服のポケットをまさぐり、丁寧にひとつずつ袋に包まれた干しイチジクの実を取り出すと、それをミーたちに手渡してくれた。


 ミーは霊の仕業だなんて思っていないけど、死者を悼む気持ちくらいはある。

 みんな一列に並び、お供え台にイチジクを乗せていった。

 目をつぶって両手を合わせ、慰霊碑に向かってお祈りする。


「実祈さん、どうか心をお鎮めください」


 呼春はそう声に出して祈っていた。

 辺りはすでに、夕焼けの赤さに包まれ始めている。

 こんなことがあったからか、ミーたちのパトロールは誰もなにも言わずに自然に終了。そのまま解散となった。


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