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みっしぃ  作者: 沙φ亜竜
澪音2
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-1-

「今日の午後は、ロングホームルームだな。やることは決めてあるが、そのときまで秘密にしておく。お前ら、楽しみに待ってろよ~」


 朝のホームルームで、矛崎先生が生徒たちに笑顔を向けながらそう宣言する。

 昨日、無花果塚であったことなんて、記憶してもいないかのように。

 もちろん忘れてはいないと思うけど、他の生徒まで怖がらせるわけにもいかないだろうしね。


 それにしても、ほんとになんだったのかな、昨日の光は。

 絶対見間違いってことはないと思うのだけど……。


「いったい、なにをやらされるんだろうな?」

「ちょっと怖いよね~。やっぱり自分たちで案を出したほうがよかったかも~」


 教室内のそこかしこから、そんなクラスメイトたちの声が聞こえてきたのは、朝のホームルームも終わり、すでに先生が教室を出たあとだった。


 うふふ、みんな、きっとびっくりするわ。

 準備を手伝っていたミーたちだけが、ロングホームルームの内容を知っている。

 なんだかちょっと、優越感♪


「……澪音、バラしたらダメだよ……?」


 ニヤニヤしてしまっていたのだろう、ミーの耳もとに顔を寄せて葉雪がそうささやいた。

 はいはい、わかってますって。

 軽く手をひらひらと振って、大丈夫だよ、という合図を送ったのだけど、それでも葉雪は不安そうに苦笑を浮かべていた。



 ☆☆☆☆☆



「よーしお前ら、今日は場所を移動するからな~。静かについてこいよ~」


 ロングホームルームの時間になると、矛崎先生はクラスの生徒たちを促し旧校舎の二階へと向かった。

 目的の場所は、ミーたちの教室の真上にある空き教室。ミーたちが一緒に準備をした、あの教室だ。


 後ろ側のドアを開けて教室内に入ると、ダンボールで作られたドームが視界に入ってきた。

 そのドームの全面に、星の絵柄が描かれている。

 教室という場所にいきなり現れたドームは、相当インパクトの強いものだっただろう。


 ドームには横にスライドさせるドアがついていて、その上に「ようこそプラネタリウムへ!」と書かれたパネルが取りつけてある。

 ドアの周囲には、星をかたどった色とりどりのキラキラ輝く飾りも貼り巡らされている。


「うわ~、なんかすごそうだぞ!?」

「いつの間にこんなのを……」


 ふっふっふ、大いに驚け、小市民ども!

 優越感に浸っていると、ついつい思考まで上から目線になってしまう。


「……澪音、確かに手伝ったりはしたけど、成り行き上そうなっただけだし、べつに私たちが偉いわけじゃないんだよ……?」


 葉雪のツッコミ、最近神がかり的じゃない?

 絶対ミーの考えを読んでるわっ!


「マリちゃん、あんた、わかりやすすぎなんだから……。彩鳥さんじゃなくても考えてることなんてだいたい読めるってば」


 思歌りんがさらなるツッコミを入れてきた。

 そういう思歌りんだって、優越感いっぱいでふんぞり返ってるように見えたのだけどね。



 ☆☆☆☆☆



「うお、すげ~、本格的だ!」

「わ~、ほんとだ~。綺麗~」


 ドームの中に入った生徒たちから感嘆の声が漏れる。

 ふっふっふ、思い知ったか、愚民ども!


「……だから、澪音……」


 葉雪が呆れ顔でなにか言おうとしたけど、すぐに口をつぐみ、ため息まじりに首を横に振っていた。

 そんな葉雪も可愛いわっ。

 ドームの中が薄暗いせいではっきりと見えないのが、ちょっと惜しいところだけど。


「急ごしらえだし、あまり綺麗には見えないかもしれないが、夜空にはこんなにもたくさんの星々が輝いているんだぞ~。都会に住んでると、なかなかこんな一面の星空にはお目にかかれないだろうがな~」


 矛崎先生がいろいろな解説をまじえながら、生徒たちをプラネタリウムの世界へと引き込んでいく。

 地学部の顧問という肩書きは伊達じゃないといったところか。

 手伝いに加わり、あらかじめプラネタリウムのことを知っていたミーたちですら、その幻想的な世界に魅了されていった。


「……ロマンチックだな。星が粉雪のように降ってきそうだ」

「うん……。まるで私たちを祝福してくれてるみたい……」


 ふと見ると、火野くんまでもが雰囲気に呑まれているようだった。

 思歌りんとふたりで、聞いているこっちが恥ずかしくなるようなセリフをささやき合いながら寄り添っている。


 思歌りんったら、あんなに幸せそうな笑顔を浮かべちゃって。

 暗くてはっきりと見えないのが、やっぱり惜しいところだわ。


 そしてなおも矛崎先生の説明は続く。

 先生の間延びした声も、この星空の雰囲気にはとてもよく合っていた。

 周囲の暗さも手伝って、眠くなってしまうのだけが難点か。


「……むにゃ……」

「ってこら、ほんとに寝るな!」


 うつらうつらしていた葉雪に、ミーは思わずツッコミを入れる。

 どうやら少々強すぎたみたいで、葉雪は頭を抱えてうずくまってしまった。

 ま……まぁ、いい眠気覚ましにはなっただろう。


「……澪音、ひどい……」


 涙目で睨まれてしまったけど。


 それはともかく、先生はノートパソコンを操作して様々な星空の映像を切り替えると、そのたびに解説を加えていった。

 誰も無駄口を叩いたりせず、先生の説明に耳を傾けている。

 先生自身、星が大好きなんだというのが、ひしひしと伝わってきた。


 そんな温かな時間は、瞬く間に過ぎ去ってしまう。


「こんなところかな~。星空ってのは、いろいろと語りかけてくれるんだ。もしも田舎に行く機会があったら、夜の空を眺めてみるといいぞ~。もっと幻想的な時間を、思う存分味わうことができるだろう」


 矛崎先生はそう言って、ロングホームルームの授業を締めくくった。


 ふ~~~~っ。

 思わず静かに聞き入ってしまっていたみんなは、大きく息をつくと、ざわざわと喋り始めた。


「いや~、結構よかったな!」

「こんなロングホームルームなら、もっとやってほしいくらいだよね」


 口々に感想を述べる。どうやらかなり好評のようだ。

 よかったね、先生。

 と、そこで先生は腕時計を確認して、こう言い放った。


「あ~、随分時間が余ったな。それじゃあ、教室に戻って、プラネタリウムの感想文でも書いてもらうか~」

「ええ~~~~~っ!?」


 生徒たちから怒涛のようなブーイングが起こったのは、言うまでもない。


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