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あたたかい。
あたしには、そんなの感じられるはずないのだけれど。
でも、
あたたかい――。
暖かいというより、温かい。
あたしの心をほんわかとさせてくれるような、そんな優しい光。
周りには多くの木々が植えられていて、どちらかといえば寂しい雰囲気のこの場所。
だけど、木々のすき間から差し込んでくる微かな日差しが、あたしの心を温めてくれる。
ここが、あたしの居場所。
今日もあたしのために、大好きな干しイチジクを用意してくれていた。
あたしとしては、生のイチジクの実のほうが好きだし、ジャムも美味しいと思うのだけれど。
今はまだ時期じゃないから干しイチジクなんだわ。
春先のこの時期に、加工品とはいえイチジクを楽しめるのも、ハウス栽培なんかが増えたからなのかな。
いまいちマイナーな果物だとは思うけれど、それでもあたしはイチジクが大好きだった。
思い出の、味がするから。
目の前の干しイチジクを眺める。
ちょっとくすんだオレンジ色で、見た目にはそれほど美味しそうではないのかもしれない。
それでも、自分の中にある甘酸っぱい記憶と相まって、すぐにでも口に含みたい衝動に駆られる。
……いけないいけない。
そんなもったいないこと、できないわ。
あたしは、ぐっとこらえる。
干しイチジクは外国産も多いけれど、あたしのために用意してくれるのは決まって国内産のものだった。
趣味嗜好をちゃんと理解してくれているんだな、と思うと本当に感謝の言葉しか浮かんでこない。
イチジクのほのかな甘い香りを楽しみながら、あたしは今日もあの人を待つ。
遠い昔にたった一度会っただけのあの人……。
もう、会うことはできないのかしら。
約束したわけでもないのだから、来るはずなんてないよね……。
諦めかけてはいるものの、あたしはそれでも、ただひたすらに待ち続けていた。
しつこいと嫌われちゃうかな、なんて思わなくもないけれど。
あたしにとっては、それだけが生きがいなのだから。
生きがいっていうのも、ちょっと違うかな、あたしの場合。
……あっ、リスさんだ。
この林の中に住んでいるみたいで、たまにこうして見かけることがある。
あたしの小さなお友達。
イチジクのほのかな香りにつられて来たのかな?
くりくりとした小さな丸い瞳が、あたしを見つめる。
うん、いいよ。
その思いが伝わったのか、リスさんは可愛らしい前足を器用に動かし、自分の体と同じくらいある大きな干しイチジクを抱えて林の中に戻っていく。
木の陰に隠れる間際にこっちを振り向いて、ぺこり、
お辞儀をしたように見えたのは、あたしの気のせいかな?
ふう……。
やっぱり、
今日も来なかった。
でも、あたしはいつまでも待ち続ける。
あの人がもう一度、当時と変わらない温かな笑顔を見せてくれる、その日まで――。