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セキュメディカ ―5―

――――四話までの登場人物―――――

【真木坂 至(33)まきざか いたる】

:AFIFテクニカルサービスに勤務する空回りする自爆系中年主人公。

【向野 拓也(28)むかいの たくや】

:AFIFテクニカルサービスに勤務する真木坂の部下(後輩)。あまり自分の主張をしない。

【相羽 凪(?)あいば なぎ】

:セキュメディカに勤務。あるときは敏腕毒舌家、あるときはドジっ子お嬢様の謎の女性。二面性あり?

【標木 武雄(42)しめぎ たけお】

:AFIFテクニカルサービスのサービス二課 課長。真木坂の上司。やや横暴。


――――四話までの登場施設、部署――――

【㈱AFIFテクニカルサービス】

AFIF(えいふぃふ)の子会社で、ユーザーサポートがメイン業務。真木坂、向野、標木が勤務する。社内での通称は『テクサ』

【㈱セキュメディカ】

:業界大手の医療機器メーカー。現在AFIF AS3000Sを運用試験中

【㈱AFIF】

:(エイフィフ)と読む。業界大手のシステムソフトウェア開発会社。テクサの本社にあたる。

【AFIF AS3000S】

:AFIFが開発した新型のAI搭載サーバー内蔵システム



――――四話までのあらすじ――――

*必要ない方は読み飛ばしてください*


AFIFテクニカルサービスに勤務する真木坂と向野は、同社の新型サーバーシステムを納入しテスト中のセキュメディカ社で発生した不具合の対応に訪れた。

真木坂は仕事中に、あろうことか居眠りをしてしまうが、そこで不思議な夢を見た。

それは真木坂に助けを求める声だったが、彼にはなんのことか理解できなかった。

一向に問題を解決することができない現状に、真木坂は相羽凪から『無能だ』ときつい言葉をもらう。

調査は三日目を迎え、朝現場に到着した真木坂たちが見たのは昨日まではあったはずの椅子が綺麗さっぱり消えてしまっている部屋と、その椅子を運び出す相羽凪の後姿だった。

当日の打ち合わせを終え、ひょんなことから真木坂は相羽凪と一緒に地下倉庫まで椅子を取りに行くことになる。

椅子を探す過程で真木坂は、相羽凪の二つの顔についてどんどん納得がいかなくなる。

更に椅子を探す真木坂と相羽凪に今度は…




 結構探したが、倉庫内に椅子は見当たらなかった。

 相羽さんは「ここに無かったら、八階の倉庫にあるかなあ」とキョロキョロ辺りを探しながら独り言を呟いていた。

 やっぱりどう見ても彼女がサーバールームから椅子を持っていったようには見えなかった。俺は更に混乱してしまった。


「失礼ですが相羽さんって、ご兄弟とかいらっしゃったりしますか? 例えば双子のお姉さんとか妹さんとか」

 うわっ。ズバリ直球で聞いてしまった。慌ててる俺に対して相羽さんは極自然に、

「いえ。わたしは一人っ子なんです。だから兄弟には憧れているんですけど」と少し照れながら笑った。

「そうでしたか」

 意外なほど素直に答えてくれたってことは、双子説は消えたってことかな。

 となると二重人格? いやいや、それこそまさかだ。どうみても、この子は『ちょっと世間知らずの天然お嬢様』って感じだ。

 もしも二重人格でこの子があんな風になってしまうというのなら、俺はもう何も信じないぞ。


 考え込んでいる俺に、

「真木坂さんは、ご兄弟いらっしゃるんですか?」と興味津々に相羽さんが聞いてきた。

「いえ。私も一人っ子なんです。一緒ですね」と返すと、相羽さんは驚いた表情をした。

 それから『ん~』と少し考えた素振りを見せると、

「そうなんですか。でもそんなに面白いなんてすごいです」と要領を得ない感想を出した。


 どういうことだろう? 兄弟と面白さが何か関係するんだろうか。

 そもそも遺憾ながら俺は自分が面白いという評価はあまり受けたことがない。過去も含めて。

 でも、今現在の自分の評価がこれまでとは違っていると言うのは望ましい傾向かもしれない。

 ちょっと失礼だけど、相羽さんという『少し変わった子』からの評価だから、あまりアテにはならないかもしれないけど……


 イカンイカン。人を偏見で見るもんじゃない。申し訳ない、相羽さん。ん? なにしてるんだ?

 彼女は、「ん~?」っと少し腰をかがめながら備品の山を見ている。

 そして、「あっ!」と声を上げると、「真木坂さん! あれ! この隙間から見える奥の物って椅子っぽくないですか?」と声を弾ませていった。


「本当だ」

 相羽さんがここからですといった位置に立ち、腰をかがめて隙間を覗くと、たしかにあれは椅子のようだ。隙間からかすかに肘掛の部分が見えている。

 しかし、どうやってこの手前の山を排除したものか。

 山の辺りをグルリと回って壁側を見ると、折りたたまれた映写機のスクリーンが数本並べて立て掛けてあった。

 『もしかして……』っとスクリーンを抜き取ってみると、椅子まで真っ直ぐの通路になっていた。

「うわ。もしかしてこれが壁になっていて椅子を隠していたのか?」

 これはもう、椅子を巧妙に隠す為のカモフラージュに他ならない。なんという巧妙さ。そしてわざわざ『壁』に『スクリーン』を使用している辺りセンスが感じられた。


 スクリーンを取り除き、椅子を通路に運び出すと、はたしてそれは昨日まで俺と向野がサーバールームで使用していたその椅子であった。

 隣には「よかったですね」と本心っぽく喜んでくれている彼女がいた。

『これはもう、どうにもこうにも……』混乱して頭を掻くと、先程の死闘を辛うじて生き残っていた毛髪数名が俺の手でダウンしていた。ミドル級で出直そう……


「とりあえず持っていきましょう」と彼女に声をかけ、俺は二つの椅子の背もたれを手に持って引っ張りはじめた。

 すると彼女が「あ、ひとつわたしが持ちます」と言って、俺の左手で引っ張っていた椅子を掴んだ。

 別に重くないからいいですよと断ったのだが、どうしてもと言って聞かなそうなので、ひとつお願いすることにした。


 彼女は機嫌良く、「では戻りましょう」と笑顔を向けて椅子を押し始めた。

 が、すぐに備品の山から出っ張り出ていた机に『ガンッ』と勢いよく椅子の角をぶつけてしまった。

 机は受けた衝撃のエネルギーをグラグラと山の裾野に伝えていき、その振動は山の裾野から頂上へと段々と伝わっていった。

 その振動の伝わる様を目で追っていくと、山頂でグラグラと揺れる二十二インチクラスのパソコンのモニター(しかもCRT)が確認できた。


 ちょ、なんでまたこんなものを天辺に乗せるんだ! 本当、ここの管理者出て来い!

 ハッと気がついて相羽さんを確認すると、その場で「あっ」っという顔をして、ぶつけた椅子と机の部分を棒立ちで見ていた。


『わーーーー! ばかばか! 相羽さんのばかあ!!』


 先程の教訓を生かし、あえて何も声をかけずに相羽さんに向かって駆け出すと、それと同時にモニターが天辺から滑り落ちた。

 相羽さんの前に体を滑り込ませると、うしろから「キャッ」という声が聞こえた。

 目前に迫ったモニターは、ちょうどこちらの頭をめがけて落ちてきている。モニターの重さからして落下中に払うのは難しいと考え、衝撃を吸収しながらキャッチすることにした。

 両手を頭上に伸ばし、まずは落下するモニターを捕まえた。そのまま両手を手元にゆっくりと引きながらエネルギーを吸収していく。

 よし、このまま、このまま、そして顔の前で完全に勢いを殺しき…… れない!

 二十二インチクラスのモニターの質量は想像以上で、未だ落下エネルギーを持ち続けているそれは、俺の顔面に衝突することで、その勢いの殆どを消失した。

 顔面に強い衝撃を感じながら、そのまま顔と手でモニターを掴みこみ、クルリと体を捻りながら腹のほうにモニターを押し付けて、モニターを抱え込むように地面に倒れこんだ。


 こ、これは危なかった。もしもこんな物が相羽さんにぶつかっていたら……

 腹の上に抱えたモニターを床に降ろして「ふぅ」と息をついて立ち上がった。

 こんなの見たら、きっと相羽さんはまた気にするだろうな。そうだ。これを二段の技として説明すれば!


「――――真木坂さん……    血が……」


 ズボンについた埃を払いながら技名を考案していると、相羽さんが両手で口を覆いながら俺の額あたりを見つめていた。

 ん? っと額に手をやると、ズキッという軽い痛みと、指先にヌルッとした感触が伝わった。

 モニターを受け止めた時に怪我したかな? 触った感じパックリいってるようではないので、恐らくモニターと額が擦れて出来た擦り傷だろう。


「あ、大丈夫そうです。ちょっとした擦り傷みたいですから」

「ところで驚きましたか? いやいや、意外なほど早く機会に恵まれましたね。なにをかくそう、これが二段を習得した超エリートのみが会得……」

 そう説明しながら相羽さんを見ると、彼女の瞳は小さく小刻みに揺れ、目の中に満たされた涙によって更に大きく歪んで見えた。

 瞳に留まりきらなくなった涙は端から溢れてスゥーと流れ出したが、彼女は口元を押さえたまま立ちつくし、それを拭おうともしなかった。


「ごめんなさい…… ごめんなさい……」


 彼女は謝罪を繰り返す。怯えたように何度も。

 

「ごめんなさい…… ごめんなさい……」


 ――相羽…… さん?

 様子がおかしい。一体……


「わたし…… また…… 人に…… 」


 そう言うと彼女は両手で目を覆ながら、その場に蹲ってしまった。

 小さく硬くした体を微かに揺らしながら、うっ…… うっ…… と押し殺した嗚咽を漏らした。



「――やっぱり…… わたしなんか ずっと…… 目が覚めなければよかったのに…………」



 俺はただ立ちつくした。

 彼女が何にそれほど怯えているのかわからないけれど、

 ただ、悲しそうな彼女を助けてあげたいのに、

 どうしたらいいのかわからないんだ。


 俺なんて所詮、表面だけだ。

 こうして剥き出しの感情と向き合うと、やっぱり何もできないじゃないか……


 何も出来ない俺は、

 ただ、こうして立ちつくして、

 彼女の謝罪を聞いてた。



=== あとがき ==========================

成瀬志悠と申します。


趣味で写真や動画の編集をして楽しんでおりましたが、

活字での創作活動にも興味があり、この度こちらのコミュニティに参加させていただきました。


小説については知識も経験も無い初心者となりますが、

自分の創作物について、他の方からの意見や感想を頂戴したいという一心が上回り、この度、恥ずかしながら作品を投稿させていただきました。


本作について、どんな小さなことでも、ご意見、ご感想など頂けると幸いです。



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