第七区切り
母さんはすぐに朝ごはんの支度をしてくれた。
目玉焼きとウィンナーとパンと味噌汁と茶碗に中盛り程のご飯。
これは、俺の家では決まったように朝出てくるメニュー。
微妙な取り合わせだと母さんに言ったところ、育ち盛りなんだからこれくらい食べなさいと意味不明な答えが返ってきた事がある。
その答えに笑っていると母さんが別にいいでしょと笑ったような怒ったような顔で言った。
今日は土曜だから、ゆっくり母さんと話す時間がある。
ゆっくり、話さなければならない。
その定番のようなメニューができあがると、母さんがもう一人の母さんを起こしてくると言った。
なんとも言いがたかったので、俺が起こしてくるよと言うと母さんはじゃあお願いねと微笑んだ。
少し、奇妙な光景だと言える。
こんな状態なのに、母さんは何故そんな表情ができるのか不思議だった。
母さんの部屋の前まで行き、一瞬扉を開けるのをためたらった。
自然に起きるだろうし、何より、こっちに寝ているのが偽者だという可能性がある。
俺がさっき台所のほうで話した母さんは、とてもじゃないが偽者には見えなかった。
仮にあっちが偽者だとしたら、大変よくできた偽者と言えよう。
――こんな事ぐずぐず考えてても仕方ないな……。
そう思い、部屋の扉を開ける。
ノックぐらいするべきだったのだが、そんな事すっかり忘れていた。
扉を開けると、母さんはベットにはいなかった。
代わりに、ベットの近くに置いてある椅子に座っていた。
ちょっとびっくりしたが、よく考えれば、母さんはいつもこの時間には起きているのでそこまで不思議じゃないだろう。
カーテンもすでに開いていて、朝の眩しい光が部屋に入っていた。
「あ、母さん起きてたんだね」
「……うん、あんまり寝れなくてね」
それはそうだろう。
こんな状況になって、ゆっくりと眠っていられる人間等そうはいないだろう。
「朝ごはん、できたよ」
「分かった。すぐ行くね」
俺はきっと複雑な顔をして話をしていただろう。
いつも通り、そんな事はできずにいた。
それはきっと母さんも同じだろう。
母さんには朝ごはんができたと伝えたので、部屋を出る事にした。
正直、部屋にいるほうの母さんが偽者じゃないかと警戒していた。
さっきも言ったように、台所で話した母さんが偽者とはとても思えなくて、
部屋にいる母さんが偽者だろうと決め付けかけていたかもしれない。
だけど、部屋に居た母さんも本物の母さんに見えた。
姿形は本当に違う所が無いようにしか見えないので、判断するにしても性格とかになってしまうだろう。
「あ、起こしてくれた?」
考え事をしながら歩いていたので、声を掛けられて一瞬びっくりした。
「あぁ、うん。でも、起きてたみたい」
「そっか。……そうよね」
小声でそう言う母さんの顔は、悲しそうな顔をしていた。