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第六区切り

 あっという間と言うべき一時間が過ぎた。

 一時間が過ぎたという事は、あの少年の言う通りならば既に残された時間は二十三時間。

 果たして、母さんに告げるべきなのか……。

 それとも、何も言わず時間がきたら……時間が……きたら?

 ――何だ……? 俺は……母さんを殺そうと言うのか。

 途端に手が震えだした。

 少し、少年の話を思い出してみる。

 後、二十三時間経ったら俺か母さんが死ぬのだろう。

 二人の母さんのどちらかを殺さなければ自分が死ぬ。

 二人の母さんのどちらか偽者を殺せば、俺と母さんは生き残れる。

 逆に、本物の母さんを殺してしまったら――母さんがこの世から消える……?

「うっ……はっ、はぁっ……ッ」

 吐き気と眩暈がした。

 俺の目の前には変えようがない真実がある。

 二人の母さんがいる。

 夢なんだと片付けられる出来事ではない。

 いや、もしかしたら長い夢なのかもしれない。いや、そんな馬鹿な考えはやめよう。

 駄目だ、何が何だか分からなくなってきた。

 俺は俺が生きる為に母さんを殺したいと思っているのか?

 いや、偽者を殺せば何の問題もない。

 いや、駄目だ。そんな考えは捨てなければ……。

 もしも、本物を殺してしまったらと思うととてもじゃないが――っ。

「はぁっ、はっ……ッ、くっ……」

 駄目だ。呼吸まで苦しくなってきた……。

 目の前に霧がかかったように感じた。

 その中で、二人の母さんは必死に俺に声を掛け、心配そうな顔をしていた。

「……えで! ……じょうぶ!? ……した――」

 ――あぁ、大丈夫だから。大丈夫だからそんな顔をしないで――



 急に激しい頭痛に見舞われ、目が覚めた。

「っ……あれ……?」

 そこは、さっきまで座っていたソファで毛布が掛けられていた。

 きっと母さんが掛けたものだろう。

 時計を見ると朝の五時を過ぎていた。

 辺りは薄暗い程度で、日が昇ろうとしていた。

 しまったと思った。

 母さんは今、もう一人の自分等と言う意味不明な自体になっているのに一人(いや、正確には二人だけど)にするべきではないのだ。

 辺りを見回すが二人の母さんはいない。

 ――妙な事になってなければいいのだが……。

 急いで別の部屋を見て回ろうとした時、部屋の扉が開いた。

「あら、起きたの? 良かった」

 母さんだった。

 偽者とか本物とか分からないが、少なくとも俺の目には本物の母さんに見えた。

「あ、うん……」

 母さんは安堵の顔をしている。

 きっと俺を心配していたのだろう。

 ただ俺にも心配要素があった。

 ――もう一人いるはずの母さんがいない。

「っ……母さん!」

「なあに? 大きな声出さないの」

「いや、もう一人の……」

 そこまで言って、言うのをやめた。

 実の息子がもう一人の母さんはと聞くのはおかしい。

 俺が困った顔をしていると母さんが口を開いた。

「……私によく似てる人ね。あの人なら寝てるわ」

 母さんが複雑そうな顔をして言った。

 その顔を見ると、急に胸が締め付けられる思いになった。

 母さんはどう思っているのだろう。

 結局、自分は何も説明せずに気絶状態になってしまって、母さんはその間どうしていたのだろう。

 どういう気持ちで……もう一人の自分を見ていたのだろう。

 もう一人の母さんが寝ていると聞いて、安心したような気持ちがあった。

 特に、二人で揉め事のような事は無かったようだ。

 寝ているという事は、母さんの部屋で偽者と本物とどっちとも区別付かない母さんが寝ているのだろう。

「ご飯……食べる?」

 母さんもどうしたらいいのか分からないのだろう。

 相変わらずの表情でそう聞かれた。

 時刻はまだ五時過ぎで、俺がいつもご飯を食べる時間より少し早い。

「うん。食べるよ」

 だけど、そう答えておいた。

 自分でもよく分からないが、それはきっと母への気遣いだったのだろう。



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