第三区切り
「さぁ、時間だ。始めようか」
息を呑む。
家の中は静かで、母さんは寝ているようだった。
汗はじわりと額を覆うばかりで、収まりそうもない。
――悪い夢ならいい。
そう、何度思っただろう。
「何してるの? さっさと始めようよ」
俺が何も言わないのに、少年はイラついたのかそう口にした。
「あ、いや……何をしたらいいのかも分からないし……」
とりあえずそう言ってみた。
目の前の少年が幻影で、早く消える事を願った。
「言ったでしょ。偽者か本物か見極めてって。とりあえず、下に言ってお母さんに会ってきたら?」
とりあえずって……。
なんとも言えない言い草だな。
まるで他人事のようだ。いや、実際他人事なんだろうが。
いや、こいつらは遊びのつもりだったかな……。
色々な事を頭で考えたが、一切口には出さなかった。
目の前には相変わらず少年が居て、一項に消える気配がなく、気が滅入った。
「うーん……まあ別に君が行動起こさなくてもいいんだけどさ。時間は一日って決められてるんだから、その分時間が短くなるよ?」
分かっている。
たぶん、心の中で既に分かってしまっている。
目の前の少年は幻影でもなんでもなく、俺に言っている事の全てが事実で、俺はこれから憂鬱な気分で母さんに会わなければならない。
――そう、変わらないのだろう。俺が何かを思ったところで何も変わらない。
俺は決心し、とりあえず下に下りる事にした。
時刻はすでに零時五分を過ぎていた。
何も言わずベットから出ると少年は俺の決意を察したらしい。
「良かった。やっとやる気になってくれたみたいで。じゃ、頑張ってね」
俺ははっとした。
予感は的中し、少年は俺の部屋から姿を消していた。
「後は自分でやれって事かよ……」
部屋には誰もいないので、それは独り言となってしまった。