第十一区切り
――コンコン。
寝室の部屋まで行き、ドアを静かにノックする。
しばらく何の返事も無かったが、十秒ほどしたあとに「どうぞ」という弱々しい声が聞こえた。
困ったな。随分弱りきっているようだった。
ドアノブを引き、ゆっくりとドアを開く。
すぐ手前にあるベッドに母さんは、腰掛けていた。
その隣に、俺も腰を落とした。
ギシィッという、鈍いスプリングの音がする。
「ごめんね、母さん。こんなことになっちゃって」
「……」
「うん、まあ、さ。俺のせいだから、どうにかしないといけないんだけどね」
「……」
うーん、これは困った。
このまま沈黙が続いてしまうと、俺としてもどう声を掛けていいものか分からなくなる。
と、少し頭を悩ませかけていたとき、スプリングの鈍い音と共に、声が聞こえた。
「そう、ね。なっちゃったものは仕方ないものね。ごめんなさいね、いつまでもこんなウダウダしてて。一番大変なのは、楓のほうよね」
「え、あ、いや、うん?」
いきなりベッドから立ち上がり、声を張り上げるものだからドキッとした。
もちろん、恋に落ちたとかそういう意味でなく。
「母さんは、楓のこと信じてるから」
強く、真っ直ぐに俺の目を見て、そう言う。
そんな風に言われると、それこそどう返答したものか困る。
俺の出す答えなのだから、間違いなど無い。
そうきっぱり、断言されてしまってはどうにもしようがないな。
「うん」
たった、それだけしか言えなかったけれど、母さんならきっと分かってくれるだろう。
時刻は、六時四十分を回ったところだった。
なんだ、静かなはずだ。
今日は休日なのだし、まだ起きてない人もたくさんいるだろう。
そして、いつも通りの、平凡な朝を迎えている人もたくさんいるのだろう。
難しいことばかりを考え、偏頭痛が起きているような気がした。
いや、気がするだけなのだが。
ただ、眠い。
それは事実だ。
休日だというのに朝の五時から起きていて、なにやらごちゃごちゃ考えていたのだから、そりゃ偏頭痛の一つも起こしたくなる。
「母さん」
「なあに?」
立ったままの状態で、母さんは不思議そうに、けれど、微笑んでいた。
さっきまでの弱りきった表情はどこにいったんだろうね、まったく。
女性は強いというのは本当なんだろうな。
家の母親だけじゃ、ない……よな?
「俺眠いからちょっと寝るよ」
「まったく。あんたって子は。こんな状況なのによく寝れるわね」
「そうだろ? 母さんの子だからね」
「そうだったわね」
嫌味を言ったつもりだったのだが、あっさりと交わされた。
母、強し。
「まあ、幸いにもまだ時間は十二時間以上あるからさ。少し寝させてよ。だいぶ整理も出来たし」
「そ。いつもなら許さないけど、そうね。早くから起きてて全然寝てないことだしいいわよ。ゆっくり寝なさい」
俺はありがとうと言おうと思い、口を開こうとしたが、体はさっさと睡眠をよこせと言うようにボスンとベッドに横になり、目を閉じた。
起きたら言っておこう。
なんせ、眠すぎる。
妙な体制で寝ている自分の体の上に、ふわりと何かが掛かる感触がした。
ああ、起きたらこれのお礼も言っておかないと――。
そう思い、俺は眠りについた。