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“願いの花”

 「ねぇ、不思議だと思わない?」

「・・・え?」

一瞬の沈黙を破って、少年がわたしに語りかけた。

「なぜ、この花は“枯れない花”なのか。なぜ、“枯れない花”は何百年に一度しか、そして、七日しか探すことができないのか。なぜ、この世界に、この花は一輪しか存在しないのか」

考えてみれば、おかしな話だった。決して枯れないというのに、決して無くならないというのに、何百年に一度、たった七日間の間でしか見ることができないのか。そして、何千年もの時が過ぎていく中で、どうしてその花は一輪しか存在しないのか。そもそも、一体誰がその花の枯れない姿を見たのか。

 伝承を信じすぎて、当然在るべき不可思議な事柄を見落としていた。その話を信じていたころは、少しもおかしいとは思はなかったのに。

「まず、この花を“枯れない花”を呼ぶようになったのは、この花の話が世界に広まってから何年も経った後のことなんだ。伝えられていくうちに、話の内容は変わっていく。本来、この花は“枯れない花”ではなくて、“枯れることを知らない花”なんだ」

わたしはこの少年の言葉を理解できなかった。“枯れない”ことと“枯れることを知らない”こととは、一体何が違うのだろう?

「わかりにくいよね・・・。つまり、この花は枯れてしまう前に、しおれてしまう前に、散ってしまう前に、花としての命を終えてしまうんだ。集められた光が弾けて、小さな種に戻る」

「光が、弾ける?」

「そう・・・・」

少年は微笑んだ。少しでも理解してもらえたことが嬉しいように。

 それでも、わたしはまだ、不思議な感覚に捕らわれていた。

「神様は、いると思う?」

「え?」

急な質問に、わたしはたじろいでしまった。

 いったい、なぜ神様の話になるのだろうか?

「神様は、信仰の上で存在する。信じている人の思い出、神という存在は創られているんだ。空も陸も海も、人々がその存在を認識しているから、心のそこから信じているから、この世界に存在することができている。キミという存在も、ボクという存在も、誰かが認めてくれているからこそ、ここに在るんだ」

一旦言葉を止めると、少年は手の中にある小さな花に愛しげな視線を向けた。

 まるで、愛する人を見守るように。

「この花も、同じ。時の流れは残酷で、人々は小さな言い伝えを信じる余裕が失われていった。“枯れない花”はあまりには現実離れしすぎて、誰も、信じてくれる人がいなかった」

少年の瞳に、寂しげな影が降りた。言葉の重みに、彼の気持ちが重なる。

 この少年は、どれだけこの花を愛していただろう。

 そして、それを信じてもらえなかった苦しさは、どれほどのものだっただろう。

 きっとわたしの比ではない。この花に対する愛の大きさは、この世界を軽く包めてしまうほどのものだろう。

 わたしはただ、この少年の深い心に感動していた。そして、語る言葉に驚いていた。こんなふうに世界を語る人間なんて、わたしの周りには一人もいなかった。

 でも、と少年が口を開いた。先ほどまでの寂しげな表情はなく、儚げで、それでもどこか強さを感じる笑顔をわたしに向ける

「信じてくれる人がいたから、認めてくれる人がいたから、見つけ出してくれた人がいるから、この花はこの世界に存在できた。咲くことができた。これはキミのおかげなんだ。キミが心の底から信じてくれていなかったら、この花は咲くことができなかった。ありがとう。本当に、ありがとう!!」

わたしは涙が溢れた。こんなにも、気持ちが伝わる言葉なんて、生まれて一度も聞いたことが無かった。少年の言葉はどの壁にもぶつからずにわたしの心に染み込み、スッと馴染みながら暖かく広がっていく。

 初めて、人として美しい感情が心の中に芽生えた。

「だからキミにこの花を伝えてもらいたい。何百年先に生まれてくる、この花を見つけてくれる人への伝言(メッセージ)を。キミの永遠を終わらせないで。そして、この花をその中に咲かせ続けて!」

そう少年が言い終わると同時に、周りに人の気配がした。慌てて見回すと、いつの間にか数十人の男に囲まれていた。その中の一番偉そうな一人が前に進み出て、少年の中の小さな花を見つけると、汚い指で指差して大声で叫んだ。

「やっと見つけたぞ。“願いの花”!!小娘を付けていたかいがあった。さっさとその花を奪え!!」

この男はずっと私を付けていたのか。全然気付くことが出来なかった自分に腹を立て、その男の卑怯な手段に怒りを覚えた。向かって来る男たちに怒鳴り返してやろうと息を吸い込むと、すぐ近くで少年が冷静に言葉を返していた。

「一体誰が“願いの花”なんて言ったんだろうね。残念だけど、あなたがこの花を手に入れたところで、あなたの願いは叶わない。この花を捜し求めるものと、あなたの願いはまったく違うものだ。もし本当にこの花が“願いの花”ならば、この少女の願いはすでに叶えられている」

そう言ったあと、柔らかに笑って私を見た。言葉を続ける。

「いや、すでに君の願いは叶えられているよね?」

その言葉の意味は、すぐに理解できた。そう、もう私の願いは叶えられた。旅立つ前からずっと想い続けていた願いだ。今の私には、なんの未練もない。

「なに!?小娘が先に願いを叶えただと?だがそんなことはどうでもいい!!一つだけ願いを叶えるというなら、わたしの願いも叶えろ!!」

どうやら、この男は全然違う意味で捉えたらしい。残念だが、この男は願いを叶えることは出来はしないだろう。

 この花の叶えてくれる願いは、この花を捜し求めた者の願いだけだ。

 ―――“枯れない花を見つけること”。

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