第3話 覚悟の入口
「――覚悟がある者のみ、残ってください」
誰も動かない。
視線も、逸れない。
特視隊新人説明会会場の空気が、凍る。
講師として立つ沙与は、
新人たちを一瞥すると頷いた。
「……結構。では続けます」
原稿を一枚めくる。
⸻
その同時刻。
別の会場でも、
同じ説明が行われていた。
世界各国から、
今日付けで日本へ転属してきた者たち。
その中に――
淡いサーモンピンクの髪色の少女。
クイッと眼鏡を直す。
ハンサムショートの髪が揺れる。
(この子が講師……多分、同い年くらい)
(なのに、あんなふうに言い切るんだ……ちょっと、怖い)
廣目瑛梨は、
スクリーン越しに映る講師――
淡いピンクのストライプ柄ブラウスの少女に、
思わず息を詰めた。
確かに、保安の世界は
「命がいくつあっても足りない」と、
揶揄されることがある。
だが――
「死を恐れつつも逮捕へ命を捧げられる者のみ、
その現場に立つ覚悟がある者のみ、残ってください」
そう言い切るのは、
簡単なことではない。
(でも)
(……言ってること、正しいんだよねぇ)
犯罪を犯した者。
あるいは――犯そうとしている者。
彼らに向き合うということは、
(個人の尊重も、生命の価値も、
超えてしまう可能性のある相手と対峙するってこと)
(だから、保安官は――)
「必要なのは、
恐怖という本能を正しく扱う姿勢です」
一拍。
誰も、瞬きをしない。
「怖くないと言う者を――」
静かな声が、教室を貫く。
「決して信用しないでください」
空調の低い駆動音だけが流れる。
「恐怖を感じない者は――」
視線が会場を横断する。
一人ひとりを測るように。
「“壊れている”か――
“壊す側”か。
あなた達が目指すのは、前者ではない」
息を呑む音。
誰かの喉が、小さく鳴る。
だが、沙与は止まらない。
淡々と。
「恐怖を理解し、
それでも動ける――
それが、“現場に立てる保安官”です」
スクリーンが切り替わる。
特命巡視捜査隊の基本装備一覧。
起動デバイス。
放電式警棒。
そして――
拳銃。
フィールドリンクシステム仕様、
SIG Anti-Snag p365 F。
新人たちの表情が、
わずかに揺れる。
「知っての通り、
拳銃に関しては“使わない”ことが最善」
一拍。
「ですが――」
視線が鋭くなる。
「使う時は躊躇しないこと。
躊躇すれば――
同僚、または自分が死ぬからです」
それは講義ではない。
“経験者の断言”だった。
⸻
(……にしても)
(この講師の少女が、
アタシのバディ……?)
(ちゃんとついてけるのかな)
(新人指導、厳しくないといいなぁ……)
――現時刻、17時27分。
⸻
バンッ――
警務備品準備室の扉が勢いよく開く。
「アリガトゴザイマシタ!!」
私服の影が飛び出した。
(厳しくない以前に――)
(アタシが遅刻しそうなんだけどっ!!!)
フロア迷子とか最悪!!!!
「初日早々遅刻はNG……!
地下駐車場どこ!?」
――マジで分かんないんだけど!!?




