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Uranus 第六特命巡視捜査隊  作者: サロ
第1章:静かに壊れる夜
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第1話 始まりから外れた朝

朝の光が、ゆっくりと街を塗り替えていく。


東京の空は淡く白み、

ビル群の輪郭をやわらかく浮かび上がらせていた。


新年度、4月3日。


空気はまだ冷たく、

それでも街はどこか浮き足立っている。


新しい制服。

新しい肩書き。

新しい責任。


それぞれの“始まり”が、

街の至る所で生まれていた。


赤坂。


特殊保安組織 ーUranusー本部庁舎 東棟。


重厚な外観の前に、

真新しいスーツ姿の若者たちが整列している。


緊張と期待が、

同じ場所に立っている。


――だが。


既にこの場所に属する者たちにとっては、

それもまた“いつもの朝”に過ぎない。



エントランスの自動扉が静かに開く。


誰も、わざわざ視線を向けたりはしない。


一人の少女が、

迷いのない足取りで中へ入っていく。


毘乃木 沙与。


式典用の儀礼服ではなく、

勤務服という名のいつもの私服。


その上から羽織った軽いジャケットの内側には、

ほんの少しだけ季節を意識した色が覗く。


淡いピンクのストライプ柄のブラウス。


春、という言葉を思い出して選んだ色だった。


彼女は足を止めない。


受付も、

整列する新人たちも視界にナシ。


まっすぐにエレベーターホールへ向かう。


ボタンを押す。


上階で停止中の表示。


(……なかなか下りてこないな)


無意識に小さく息をついた、その時。


チン、と乾いた到着音。


扉が左右に開く。


箱の中に立っていたのは――


見慣れた体躯。


少し崩れた立ち姿。


グレージュの短髪に淡い緑の瞳。


ネクタイを緩めたままの男。


第六の主任――岡本班班長。


この格好は、きっと役職会議帰りだ。


「おはようございます。土曜日お疲れ様でした」


自然と出た声。


それは部下としての礼儀であり、

長く同じ班で動いてきた者の呼吸でもあった。


男が片眉を上げる。


「おう」


低い声。


眠気とも疲労ともつかない、掠れた響き。


そして、ふと訝しげな視線を向ける。


「なぁ、毘乃木……」


エレベーターの扉が閉まり、

密室の空気がわずかに重くなる。


「お前、入庁式はどうしたん?」



地下二階――

第六特命巡視捜査隊フロア。


自動扉が静かに閉まり、

外界の音を遮断する。


「「毘乃木おはよー!!」」


奥のデスク群から一斉に声が飛ぶ。


「おはようございます。早朝なんかありました?」


歩きながら自然に返す。


「いやぁ……今日は珍しく通報少ないんだよ」


明けの当番勤務者が椅子を軋ませながら答えた。


沙与は軽く会釈を返し、

そのまま自席へ滑り込む。


鞄を置き、

筆記用具を机に並べ、

カフェオレ専用のタンブラーを定位置へ。


そこへ――


「おはよう。快君」


振り向きざまに同じ班の堀宮(ほりみや)(かい)へ声を掛ける。


「先輩、表彰式は? 始まっちゃいますよ」


「あ〜……出ないっ出ない!」


即答だった。


「それじゃなくてもこの後、

11時からの新人説明会の資料、まだ仕上げ切ってないし。

OJT育成委員会の仕事が最優先」


「え? でも……」


「それに優秀章は郵送可能だって」


「……ゆ、郵送!!?」


堀宮の声が裏返る。


「だから出ない」


沙与はすでに端末――CPを抱えて立ち上がっていた。


「第5小会議室 借りま〜す。

あ、(当番)お疲れ様でした」


周囲へ軽く声を投げ、

足早にフロアを横切る。


堀宮だけが、

ぽつんと取り残された。


「……優秀章って郵送でもいいんだ……」


先輩の背中が、

自動扉の向こうへ消える。


その瞬間。


ほんの一瞬だけ。


フロアの“音”が、歪んだ。


――誰も、沙与以外それに気づかない。

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