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EP 8

遺跡の導きと、伝説のガラクタ

 自由の代償、それは「屋根」と「飯」の保証がなくなることだ。

 育成所を飛び出して三日目。レオンたちは、ガルーダ国境へと続く荒野のど真ん中で、激しい雨に打たれていた。

「冷たいですぅ……。耳が、耳が重いですぅ……」

「我慢してくれキャルル。もう少し先に、雨宿りできそうな岩場があるはずだ」

 レオンは上着を脱いで、抱えているヴォルトとキャルルの頭上に掲げた。

 ずぶ濡れの犬耳と、垂れ下がった兎耳。獣人にとって雨は体温を奪う天敵だ。

「キュゥ……」

「お前は元気だな、ヴォルト」

 ヴォルトだけは雨を楽しんでいるようで、時折落ちてくる雷鳴に呼応して「バチチッ」と角を光らせている。雷属性の竜にとって、嵐はホームグラウンドなのだろう。

「あ! レオンさん、あっちから『乾いた空気』の匂いがします!」

「本当か?」

 キャルルが指差した先。雨煙の向こうに、崩れかけた石造りの建造物がぼんやりと見えた。

 古い時代の遺跡、あるいは廃棄された神殿のようだ。

「よし、あそこまで走るぞ!」

 ◇

 遺跡の中は薄暗いが、雨風は完全に遮断されていた。

 床には苔が生え、壁には読めない古代文字が刻まれている。

 レオンたちは焚き火を起こし、濡れた服を乾かしながら一息ついた。

「ふぅ……生き返りましたぁ」

「ここなら夜を越せそうだな。魔獣の気配もない」

 レオンは周囲をスキルでスキャンし、安全を確認してから腰を下ろした。

 食料は残りわずか。明日はヴォルトに狩りを頼まなければならない。

 その時だった。

 ヴォルトが何かに気づいたように、遺跡の奥――瓦礫の山の方へとトコトコ歩き出した。

「おい、勝手に離れるなよ」

「キュイ? キュルルッ!」

 ヴォルトは瓦礫の山に向かって、楽しそうに尻尾を振っている。そして、何やら錆びついた「鉄の棒」のようなものを咥えて戻ってきた。

「なんだそれ? ただの鉄くずか?」

「キュッ!(プレゼント!)」

 ヴォルトがレオンの膝の上に「それ」を落とす。

 長さは1メートルほど。全体が赤錆で覆われていて、剣なのか、ただの棒なのかも判別できない。

 まるで、何百年も放置された粗大ゴミだ。

「……汚い棒ですねぇ。バイ菌とか大丈夫ですか?」

「待てよ。ヴォルトが興味を持つってことは、ただの鉄じゃないかもしれない」

 レオンは獣医師としての観察眼とスキルを、その鉄塊に向けた。

 本来なら生物にしか反応しないはずのスキルだが、なぜか今回は直感が「見ろ」と告げていた。

【解析開始】

> 対象: 不明(物質)

> 構成素材: オリハルコン、ヒヒイロカネ、■■■(解析不能)

> 状態: 仮死(錆による封印)、不貞寝ふてね

> 感情同調率: 0%

>

「……は? 不貞寝?」

 レオンは表示された文字に目を疑った。

 物質に「感情」? それに、この素材構成は……。

「レオンさん、どうしたんですか?」

「いや、こいつ……生きているかもしれない」

 レオンが恐る恐る鉄塊に手を触れた、その瞬間。

 外で雷が落ち、ヴォルトが興奮して「バチッ!」と強めの放電をした。

 その電流が、レオンの手を伝って鉄塊へと流れる。

 ――ドクン。

 鉄塊が脈打った。

 赤錆がパラパラと剥がれ落ち、下から鈍い銀色の光が漏れ出す。

 そして、レオンの脳内に直接、不機嫌そうな「声」が響いてきた。

『……あ? 誰だ、俺の安眠を妨害したのは』

「うわっ!? 喋った!?」

「きゃああっ! お化けですぅ!」

 レオンとキャルルが飛びのく。

 鉄塊はひとりでに浮き上がり、空中でクルクルと回転すると、切っ先(のような部分)をレオンに向けた。

 声は中性的だが、どこか偉そうだ。

『チッ。また人間か。それとも亜人か? どうせ俺を「伝説の剣だ!」とか言って持ち上げて、数日で使いこなせずに捨てるんだろ。もう飽きたんだよ、そういうの』

「なんだこの捻くれた武器は……」

 レオンは呆気に取られた。

 だが、スキルウィンドウには新たな情報が表示されていた。

【解析更新】

> 個体名: 自律型可変武具『雷霆ライテイ

> ランク: アーティファクト(神造兵装)

> 性格: 傲慢、気難しい、ツンデレ

>

「……『雷霆』? まさか、おとぎ話に出てくる神殺しの武具か?」

『ほう。俺の名を知っているのか。……だが、俺は貴様のような弱そうなあるじには興味がない。魔力ゼロ、闘気ゼロ。あるのは……ん?』

 浮かんでいる雷霆が、レオンの周りをフワフワと飛び回り、さらにヴォルトの周りを一周した。

『このチビ竜の雷……悪くない味だ。それに貴様、魂の色が妙だな。この世界の住人じゃない匂いがする』

「……鼻まで利くのかよ」

『俺に不可能はない。……いいだろう。暇つぶしに少しだけ力を貸してやる。だが勘違いするなよ? 俺が認めたわけじゃない。貴様が俺の「主」に相応しい器かどうか、テストしてやるだけだ』

 雷霆はそう告げると、カシャン、カシャンと複雑な変形音を立てた。

 錆が完全に落ち、美しい白銀の流線型が現れる。

 しかし、変形したのは剣でも槍でもない。

 ――底の深い、中華鍋だった。

「……は?」

『腹が減っているんだろう? 俺の超熱伝導で、最高の飯を作ってみせろ。もし不味かったら、貴様の頭をこれでカチ割る』

 レオンは手の中にある、やけに手触りの良い鍋を見つめ、深いため息をついた。

「伝説の武器を拾ったと思ったら、とんだお荷物(性格難あり)だったな……」

「でもレオンさん! これでお料理ができるなら、温かいご飯が食べられますよぉ!」

「キュッ!(ごはん!)」

 キャルルとヴォルトの期待の眼差し。

 レオンは観念して、鍋を火にかけた。

「分かったよ。……元獣医の、成分調整レシピへのこだわり、見せてやる」

 遺跡の外は嵐。

 だがその夜、遺跡の中からは、とても香ばしく美味しそうな匂いと、「火加減が甘い!」「うるさい黙ってろ!」という喧嘩腰の会話が響いていたのだった。

 最強の武器(ただし鍋)を手に入れた一行。

 タロー国への旅路は、まだまだ騒がしくなりそうだ。

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