EP 3
誕生、青き雷の王
深夜、ボロ小屋の中は、まるで真昼のように明るかった。
光源は、レオンの目の前にある卵だ。
血管のように脈打つ青い光は、もはや殻を通しても隠しきれないほど強烈な輝きを放っている。
――バチッ、バチチッ。
乾燥した空気が弾けるような、静電気の音が連続して響く。
レオンは息を呑んで見守っていた。
予定の6時間が経過した。
そして。
パキリ。
乾いた音が、静寂を破った。
卵の上部に亀裂が走る。そこから溢れ出したのは、眩い閃光。
「うおっ……!」
レオンは腕で目を覆った。
次の瞬間、ガラガラと殻が崩れ落ちる音がして、光が収束していく。
恐る恐る目を開けたレオンの視界に、”それ”は居た。
「……これが、雷撃種」
そこに居たのは、蜥蜴のような無骨な生き物ではない。
全身が深い藍色の鱗に覆われ、首周りには真っ白な産毛がマフラーのように生えている。背中には未発達ながらも力強い翼。
そして何より特徴的なのは、その角だ。額から一本、鋭い水晶のような角が突き出し、微弱な電気を帯びて青白く発光している。
「キュゥ……」
幼竜は濡れた瞳で、瞬きもせずにレオンを見つめていた。
宝石のような、金色の瞳。
そこには警戒心など微塵もない。あるのは、絶対的な信頼と親愛。
レオンはゆっくりと右手を差し出した。
噛みつかれるかもしれない。野生のワイバーンは凶暴だ。
だが、幼竜はレオンの指先に鼻先を押し付けると、クンクンと匂いを嗅ぎ――。
アムッ。
「いっ……!?」
人差し指を甘噛みされた。
痛みはない。代わりに走ったのは、ピリッとした微弱な電流だ。
「キュルルッ♪」
「……挨拶代わりの電撃か? やんちゃだな、お前」
レオンの頬が自然と緩む。
幼竜は嬉しそうに喉を鳴らし、レオンの手のひらに頬を擦り付けてきた。
温かい。
データ上の数値ではない、確かな生命の熱。
レオンは震える声で、スキルを発動させた。
【個体解析】
> 種族: サンダー・ワイバーン(変異種・幼体)
> ランク: 測定不能(成長限界値:SS)
> 状態: 刷り込み完了(対象:レオン)
> 固有能力: 『雷帯』『超高速飛行』『咆哮(未習得)』
>
「SS……? Sランク相当じゃなかったのか?」
レオンは目を疑った。
一般的なワイバーンはCランク。騎士団のエース級が乗る個体でもBランクだ。
SSランクといえば、国一つを単独で滅ぼせる「古龍」の領域に足を踏み入れている。
どうやら、レオンの過剰なまでの栄養管理と、月光草の成分が化学反応を起こし、突然変異を更に加速させたらしい。
「とんでもない怪物を起こしちまったな……」
レオンは苦笑しながら、用意していた干し肉を差し出した。
幼竜はそれを電光石火の早業で食らいつくと、数回咀嚼して飲み込み、「もっとないの?」と言いたげに尻尾を振った。
「ははっ、食いしん坊なところまで俺に似たか」
レオンは幼竜の頭を撫でた。首周りの白い毛が、ふわふわとして心地よい。
指先から伝わる静電気すら愛おしい。
「名前が必要だな」
レオンは少し考え、その青い雷を見つめて呟いた。
「『ヴォルト』……どうだ? この世界を駆け抜ける、稲妻の名前だ」
「キュウッ!」
気に入ったのか、ヴォルトは翼を広げて小さな咆哮を上げた。
その拍子に放たれた火花が、ボロ小屋の天井を焦がす。
「おいおい、家を燃やすなよ!」
慌てて抱き止めるレオン。腕の中で暴れる小さな相棒。
孤独だったボロ小屋が、一瞬にして賑やかな場所に変わった。
窓の外では、東の空が白み始めていた。
夜明けだ。
だが、昨日の朝日とは違う。
今日からのレオンには、最強の相棒がいる。
「行こうぜ、ヴォルト。俺たちをゴミ扱いした連中を、見返してやるんだ」
レオンの言葉に応えるように、ヴォルトの金色の瞳が、ギラリと野性的な光を宿した。
それは、伝説の始まりを告げる、小さな雷鳴だった。




